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■PHSが支給される前と支給された後
医師の当直エピソードを語る上で、PHSのことは外せないでしょう。そんなPHSも2023年3月31日は終了。もしかすると若い先生はPHS自体を知らないのかもしれません。寂しい限りです。

私が研修医となった25年前、すでに電子カルテの時代でした。しかし、通信手段はポケベル。それすらも自分で購入しなければなりません。病棟、外来や医局から医師を呼び出そうとしても、ひたすら自宅に電話をかけるか、いきそうなお店に電話をかけるしかなったのです。だから、○○先生は、よく■■の店にいるよと言うのが既知のことになるのでした。

さて、このポケベルもまだ医師の意識もまだまだだったのでしょう。ポケベルで呼び出されることに納得がいかず、個人で買ったものだから病院を出れば電源を切ってもいいと考えて、病院外では電源を入れない医師がいたり、当直用に支給する医局があっても、病院のシャワー室でシャワーを浴びているときにポケベルが鳴り、慌てて探しているうちに床に叩きつけてポケベルを壊したり、不携帯で自分のデスクでポケベルが鳴っているというのはよくある話でした。
外出先で「至急」というメッセージがポケベルに来ても、話の内容を聞くには公衆電話を探さなければいけません。今思うと本当に不便な時代でした。

■電波が弱い携帯電話
さて、私はというと、親の仕送りで暮らしていた医学生時代から今の奥さんとお付き合いをしていたので、いち早く携帯電話を手にしていました。

しかし、この携帯電話。今と違って電波が弱かったので、なんと当直室では電波が届かない。だから、電話線のコードをギリギリまで伸ばして、ベッドわきに黒電話を置かなくてはいけませんでした。シャワーをしている時も、電波が届いているのかどうかを度々確認しなくてはいけない始末。

私が携帯電話を持っていたのは「つながっていないと不安」だったのに、携帯電話がつながらないというのはどうにもこうにも・・。私が研修医のときに「ドッチーモ」と呼ばれる携帯電話とPHSが一致型となったものが新発売されました。医局で「ドッチーモ」のCMを見て、その足でドコモショップに買いに行ったのです。これなら、「つながっていないと不安」を解消できます。わたしはドッチーモを手に入れ、病院も彼女も、つねに連絡を双方向にすることが可能になったのです。まさにPHS前PHS後の革命でした。

■いつでも繋がっている安心感
このドッチーモを手に入れてから、私の当直は一変しました。なにせ電波のことを考えずに、自由に院内を移動できるのです。売店に行ったり、他の先生の医局に行ったり。いままで不便だったことをあげたらキリがありません。電話が鳴り響く医局に戻ってきて、どれだけ電話に出られなかったのかもわからず不安になったり、第一声で何を言われるかの分からない不安から解放されたのが何よりでした。相手を何分も……いえ、何時間も待たせていれば、第一声もどういうものが来るのか想像できますよね。そういう状態にならずにすんだ、ということは、とても大きいことです。

ですが、私がドッチーモを手に入れても、PHSを持たない医師がほとんどでした。みんな第一声が怖いという不安よりは、いつでも繋がっている方が不安だったのかもしれません。それからだいぶたってから大学も重い腰を上げて病院内を工事し、院内PHSが普及するに至りました。

これは私にとっても患者さんにとっても、看護師を始めとする医療従事者にとっても幸せな革命であったはずです。しかし、支給されたPHSを、「何でもかんでも呼びやがって」と床に叩きつける医師がいたのも事実ですが……。

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