見出し画像

日常生活を浸食する強迫性障害という病

こんにちは、精神科医のはぐりんです。精神科医のリアルな日常とホンネをお届けしています。

今回は強迫性障害について書いてみたいと思います。最近では俳優の佐藤二朗さんや、アイドルの道重さゆみさんが強迫性障害を告白され、少なからず話題にもなりました。一口に強迫性障害と言っても様々な症状があるのですが、今回は私が実際に診た患者さんを例に、2つの典型的なパターンをご紹介したいと思います。


車で誰かを轢いたのではないか‥

40代の女性Aさん、車での出勤途中に「人を轢いたのではないか」と繰り返し思い込み(強迫観念)、あとから「本当に轢いていないのか」確認するために自分が通った道を引き返し確認(強迫行為)することを繰り返しました。

職場に着いてから、あるいは自宅に帰宅してからも道を引き返し確認に出るため、仕事には遅刻し、家事も滞る、といった具合に日常生活に支障がでてきました。

さらに一番の問題となっていたのはドライブレコーダーでした。休日や仕事の休み時間を使ってまで、繰り返し再生し確認していたのです(強迫行為)。

Aさんに見られるのは、加害恐怖と確認行為と呼ばれるものです。

周囲に臭いと思われていないだろうか‥

30代の男性Bさん。不潔恐怖から手洗いは頻回、お風呂も長い時で4時間!。顔の皮膚はただれ真っ赤に腫れあがり、皮膚科で治療を受けるほどでした。

トイレに行くたびにお風呂に入り直し、シーツも毎日交換、洗濯も1日3回、水道費は月に数万円。。

またBさんの場合特殊だったのが、不潔恐怖が高じて自己臭妄想(周りから臭いと思われているという妄想)にまで発展し、さらには確認行為に疲れ果て希死念慮まで出現、入院にまで至ってしまいました。

不潔恐怖と洗浄も代表的な強迫性障害の症状です。

何が一番の問題なのか

代表的な2つの例を挙げてきましたが、強迫性障害の一番の問題はなんなのでしょうか?治療を受けるかどうかの判断のポイントは?

それはズバリ生活に支障が出てきているかどうか、です。それも「あ、私ちょっとそうかも」「オレ、潔癖症だわ」というレベルでの話ではありません。

Aさんは車やドライブレコーダーの確認行為に時間がとられ、仕事や家庭に支障が出てきていました。Bさんの場合は言わずもがなです。

冒頭ご紹介した道重さんも事務所のHPで、『いくつか特定の仕事上で過度なこだわりや過敏な行動があり、本人から強い不安感や恐怖心がある。』『症状の改善がみられるまでの期間、一部の活動を制限』、

佐藤さんもSNSで「あまりにキツく‥世の中で一番大事な『家族』と、『芝居』を、絶対に、絶対に、侵食されぬよう、僕は生きるか死ぬかで、全身全霊で生きる。」と発信されています。

活動の制限や、家族や仕事への「浸食」という強い言葉を使って、日常生活に多大な影響が出てきていることを表現されています。強迫性障害による耐え難い苦痛がリアルに伝わってきます。

コロナ禍も関連している

コロナ禍で不潔恐怖が芽生え、強迫性障害を発症した方、あるいは悪化した方もいます。

巻き込み型の強迫性障害というのもあり、コロナ禍に流行った「マスク警察」もそれに近いと言えます。不潔恐怖と、それによる洗浄を周囲にまで強要するタイプです。

強迫性障害の有病率は約1-2%、決して少なくない割合で発症します。生活や健康、金銭面や周囲への影響も少なくなく、まさに日常生活を「浸食」する病気と言えます。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?