【ショートショート】 怪我しませんように

「もうキスはいいよ。加護だらけになる」
白い翼をもつ人間が、ぎろりと私をにらむ。
扉の前に立たれては、外へ出かけられない。

魔女である私がこの白い翼の人間をひろったのは、ずいぶん前だ。

こいつは空から落ちてきた。
昔から、翼をもつ人間は空で暮らしている。
空に王国があるのだ。
空は神聖なものだ。
その神聖なものから、こぼれ出てきたもの。
人間の形をした人間ではないものたちは、王国の者がみつければ保護され、王国以外の者たちがみつければ、いいようにあつかわれる。
用途は様々、口にしたくないものだってある。

空から落ちてきたこいつは、白い羽を生やしていた。
羽は奇跡的に折れてはおらず、私はこいつと暮らしている。

そして、こいつは私にキスをする。
最初はおでこだけだったのが、右の手の甲、左の手の甲と増えていく。
こいつのキスには、加護があるのだ。
ほんの少しだけ怪我しにくくなる加護が。
助けてくれたお礼なのか、出かける前に必ずキスする。
恥ずかしくって、しょうがない。

「もう、そのくらいでいいよ」
こいつは私の右足と左足を指差した。
少し前につまずいて、少し怪我をしたのを糾弾しているのだろう。
「注意するから、いいかげん外に出しとくれ」