特別な存在

特別な存在になりたいのだった

そんなことを言ったら

人間は誰もみな特別な存在だと

言うひとがいるかもしれない

でもほんとうにそうだろうか

人間がひとりやふたりいなくなったって

地球はちゃんと回っているではないか

そんなおおげさな話じゃなくても

わたしがいなくなったら

誰かひとりくらいには影響があるだろうか

いないと困ると思ってくれるひとがいるだろうか

特別というのはたとえば

何かあったら一番に報告してくれるとか

わたしにしか打ち明けられない秘密があるとか

そういうひとになれるといいのだけれど

それは大きすぎる注文だとするなら

ふとしたときに思い出してくれるだけでも

わたしが今ここにいる意味も

少しはあるのかもしれないと思える

でもそれをきみに訊く勇気はないのだった

わたしはきみのことを

いつでも思い出しているし

何かあったら報告したいし

秘密を打ち明けたいのだけれど

もちろんそんなことを言う勇気もないので

いつもどうでもいいことばかり話す

どうでもいいことばかり話していても

わたしにとってきみが

特別な存在であることにかわりはない

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熟成下書き

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