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車いすマラソン

毎年この季節になると
車いすマラソンが行われるが
昨日がその日だった。

大規模な交通規制が行われるため
朝から昼過ぎまでは
主要な道路が使用できず
近隣住民はおこもり状態となる。

貴重な休日が
そのような状態になってしまうことに
愚痴ることはあれど

応援に参加してみようなど
考えたことがなかった。




知り合いがいるわけではない、
応援してくれと頼まれたわけでもない。

そもそも
彼らは見ず知らずの人間から
応援なんかしてほしいと思ってるのか

もし私が選手なら
こんな苦しそうな顔を見ないでくれよ、とか
声援は有難いが高みの見物だよなぁ、とか
思ってしまいそうだ。

苦しい状態の時に横から
「がんばれー!」と言われても
うるさい!もう頑張ってる!黙っててくれ!
と叫んでしまいそう。



寝坊したので朝の散歩時間が
マラソンのスタート時刻と重なってしまった。

いつもの散歩コースはマラソンコースに変わっていて、沿道には既にたくさんの人が応援に駆けつけている。

ちょうどスタート地点の側を通りかかった為
せっかくなので少し見てみることにした。


応援の人混みに加わると
隣のご夫婦(主に奥様が)大声で応援している。

「あの坂はきついわよ…」
「彼は去年もいたわね!」
「がんばれー!ファイト!
ここからここから!」
「いちに!いちに!がんばれ!がんばれ!」

その応援を解説気分で聞きながら
私も声援がわりの拍手して選手を眺めた。





わざわざこの大会のために
日本の裏側からこの地を訪れ
走っている方もいた。

それぞれ動機はあるだろうが
大会に参加しようと思ったきっかけはなんだろうか。


彼らの人生のスタートから今日まで、
どんなストーリーがあったのだろう。


最後尾の選手まで見送り、
本当はそのまま帰るつもりだったが
折り返し地点の彼らが
どんな表情で走っているのか無性に気になった。




折り返し地点に場所を移した。
あらわれた選手たちの表情は
スタート直後とは大分違っていた。


涙を拭いながら走る人がいた。
俯いて顔を上げないまま走る人もいた。

かと思えば
舌を出して「いえーい🤟」とアピールしながら走るファンキーな人や
声援に手を挙げ応える人

ただ真っ直ぐ前だけを見据えて走る人もいたし

家族だろうか
中学生くらいの男子が全速力で
車椅子と並走するよう沿道を走りながら
「頑張れー!」と応援する姿もあった。



気づいたら私も「がんばれ」と声を出していた。

恥ずかしさもあり
はじめは小さく呟くように言っていたが

最後尾の選手になるにつれ
まるで序盤の奥様みたいに
がんばれー!と応援していた。

選手のなかには
「うるせぇなぁ」と思った人もいただろうなぁ。





誰かを応援する、じゃないな。
させてもらったんだろうなと思う。

自分のことは棚に上げ
恥ずかしげもなく

ただ真っ直ぐ自分と戦っている人に対して
「がんばれ」だなんて。
私はなんてカッコ悪いんだろう。

でもそれ以外に相応しい言葉がなかったし
声援を送らないのも違う気がした。




3時間以上立ちっぱなしだった足は棒のようだったけど、結局最後のゴールまで
全ての選手を見届けて帰った。

一年に一度、
ほんの数時間だけかかる交通規制を
うらめしく思っていたことを後悔している。


来年は初めっから堂々と、
「がんばれ!」と大きな声で声援をおくりたい。

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