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もうひとつの童話の世界、13 クーのねがい 3/3

クーのねがい3/3


とびらをでると、広いろうかが、ずっとつづいていた。
おいらは、カチ、コチ、カチ、コチまっすぐすすんだ。
いくつかとびらをすぎると、あけはなたれたとびらから、とつぜんそとの青空がみえた。
―よかった。そとにでれた。
あわてて、ため池の、土手の草むらにかくれた。
池をのぞくと、おいらがうつっている。
―これが、おいらのすがたか!
じぶんでおどろいた。
あたまも、からだも、うでも、あしも、みんな丸い。
どうりで歩きにくいはずだ。
ーおいらが土偶ってことはわかったけど・・・、
 これから どうするんだ?
 どこにいけばいいんだ?
池のふちにすわりこんで、空をみあげていた。

 すると、山のほうから またクロスケがとんできた。
「どうだ、なかまをみつけたか?」
「みつけた。おいらは、土偶という土人形なんだ。」
「そうか、よかったな。いいことをおしえてやろうか?」
「なんだ?」
「おれも、おまえのなかまをみつけた。」
「どこで?」
「山のがけの下だ。土人形のかけらが、いっぱいおちていた。」
「ほんとうか?おいらを、つれていってくれるか?」
ここからにげられるし、なかまにもあえる。
クロスケにたのむと、「おう、いいとも。」といって、足のつめでおいらをひっかけると、かるがるととびたった。
そして、山すそにそってとぶと、がけの下においらをおろした。
岩がむきだしで、がれきが ちらばっている。
ようく見ると、そのなかに土人形のかけらがまじっていた。

クロスケがいった。
「どうだ、おまえのなかまのかけらだろう?」
「うん、そうだけど、どうしてこんなところに?」
 おいらは、うんとちかよって、ひとつひとつたしかめた。
 そのとき、こえがきこえた。
「おまえは、なかまか?」
「クロスケ、なんかいった?」
「いいや、いま、おれにもきこえたぞ。」
「おい、おれだよ、下をみろ。」
またきこえた。
「どこにいるんだ? 」
「おまえの、足もとにいるだろう。」
下をみると、われた土人形が、しゃべっている。 
おいらはびっくりして、足をどけた。
「よんだのはおまえか?」
「そうだ。おれだ。なかまとはなすのは、ひさしぶりだ。」
「どうして、ここにいるんだ?」
「上のがけからおちたんだ。
あそこに小さな穴があって、おれは、そのあなのなかで、長いあいだねむっていた。それが、がけくずれで、おちて われてしまったんだ。」
「おいらも、長いあいだ土の中でねむっていた。」
「そうだろうな、さいごに、なかまにあえてよかった。
がんばってねむるんだぞ。」
「ねむってなにをするんだ?」
「おまえは、なにもしらないのか?
ねむることが、おれたちのやくめだ。
だからもういちどあなのなかに入って、ゆっくりねむるんだぞ。
いいか、じゃあな。」
それっきり、土人形はしゃべらなくなった。

おいらはびっくりした。
「おいらのやくめは、土の中でねむること?」
おいらは、がけをみあげた。
―あのくぼみか。
 きゅうに、いきたくなって、クロスケにこえをかけた。
「なあ、たのみをきいてくれないか。」
「なんだ?あのくぼみにいきたいのか?」
「そうだ。おいらのやくめは、土の中でねむることらしい。
だから、あのくぼみの中にはいってみたいんだ。
それで、できたら おちた土人形のかわりにねむろうとおもうんだ。
くぼみのところまで、おいらをはこんでくれないか?」
気のいいクロスケは、「おやすいごようだ。」というと、
おいらを、上のくぼみのところまではこんでくれた。
「ここでいいのか?」
おいらは、くぼみにある 小さなあなをのぞきこんだ。
あなの中から、なつかしいにおいがする。
「うん、ここだ!
 ありがとう、クロスケ。おいらをくえなくて、ざんねんだったな。」
クロスケにおれいをいって、おいらはゆっくり、小さなあなにもぐりこんだ。
クロスケが、うしろからこえをかけてきた。
「いいよ、おまえは、まずそうだから。
 あなの中でゆっくりねむるんだぞ。」
せまく、くらいあなは、ずーとおくまでつづいている
おいらは、どこまでも、まえへまえへすすんでいった。

あなのおくにいけば、いくほど、からだが土にになじんでくる。
―うん、なつかしい土のにおいだ。
あなのいきどまりまでくると、くらやみから こえがきこえてきた。
「あんたはだれ?」
「おいらは、土人形のグウー。だれがしゃべっているんだ。」
「あたしは、ミーヤ。あたしも土人形よ。」
「えっ?たてもののなかにも、ミーヤがいたぞ。」
「ミーヤというのは、わざわいをさけるための土人形のことよ。
あたしたちは、,わるいものを からだのなかにとじこめて、わられて、
ここにうめられたの。それが、ミーヤのやくめなの。
グウーっていうのは、なんのためにつくられた土人形なの?」
「えっ、なまえにいみがあるのか。」
グウーってなんのいみがあるんだ。おいらは、なにもおもいだせない。
「そのうちおもいだすわ、むりしておもいださなくてもいいのよ。」
ミーヤは、なぐさめてくれた。
「ここでいっしょにねむってもいいか。
おいらのやくめは、ねむることだといわれた。」
「ねむるのがやくめだなんて、おもしろいのね。」
 ミーヤは、ちょっとかんがえて、
「そういえば、いっしょにうめられてた土人形が、おいらのなまえはグウーだといってた。
その土人形は、みんなが平和に、しあわせにくらせることをねがって、
土のなかにうめられたって。」
―おいらとおんなじなまえだ。
きっとそうだ。おいらも、きっとみんなの平和と、しあわせをねがってつくられた土人形なんだ。
「ミーヤ、ありがとう。おいらのやくめが、やっとわかった。
おいらもここでねむっていい?」
「もちろん、いいわよ。
グウー、あんたがいると、あたしもあんしんしてねむれる。」

ちいさなどうくつのなかは、くらくてしずかだ。
おいらは、きもちがおちついてくると、だんだんねむたくなってきた。
ゆめのなかに、ぼんやり青い空がみえてきた。
ひらけた土地に、三角やねの草の家がポツン、ポツンとたっている。
女の人が、家のなかで、
石をつかってドングリをすりつぶしている。
家のそとでは、男の人が、土をこねて、丸いうつわをつくっている。
子どもたちが、かりのまねをしてあそんでいた。
―そうか、ここがおいらのいばしょなんだ。
おいらのやくめは、この小さな村のへいわをねがうことなんだ。
そして、みんなのしあわせを、ねがうことなんだ。
おいらは、村のへいわと、みんなのしあわせをねがいながら、
ゆっくりねむりについた。

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