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もうひとつの童話の世界、14 こころのかけら 1/3

 こころの かけら

 土曜日、まぶしい朝日がリビングにさしこんでいます。
 ゆっくり新聞をよんでいたカイトのパパは、小さな記事をみつけました。
『線路わきの建設(けんせつ)現場(げんば)で、銅鐸(どうたく)と土器(どき)が発見される。』
 パパは、カイトに声をかけました。
「ちかくの線路わきで、遺跡(いせき)がでたみたいや。
きょう、見学会があるけど、みにいこか?」
 カイトは、小学校4年生、おとなしい、ひとりであそぶのがすきな子です。
「うーん・・・、ゲームしとく。」
 どうも、友だちとあそぶのが苦手(にがて)なようです。
 パパは、このまえの懇談会(こんだんかい)で担任の先生に、
「カイト君は、一人でいることが好きみたいですね。」
 と言われたのを気にしていました。
 懇談会のあとで、カイトにきくと
「友だちといっしょにいると気をつかって疲れる。
それに、なにを話していいかわからへん。」といっていました。
 そのことが、ずっと気にかかっていたのです。
―いえで、ゲームばかりしてるから、友だちがいないんかなあ。
 パパは、もっとカイトを外へつれだそう、とおもっていました。
「その発掘(はっくつ)現場(げんば)で縄文(じょうもん)時代(じだい)の土器(どき)と、弥生(やよい)時代(じだい)の銅鐸(どうたく)がでたとかいてある。」
「なにがでたって?」
「おおむかしの器や銅鐸や。
 その現地(げんち)説明会(せつめいかい)が10時からあるってかいてある。」
「ふーん。」
 少しは興味がありそうです。
「銅鐸がみれるなんて めったにないで。きばらしにいこか?
おもしろくなかったら、すぐ帰ってきたらええから。」
 パパは、なんとかカイトをつれだすと、家から歩いて5分の所にある線路わきの発掘現場にやってきました。まわりにはロープがはられ、もうおおぜいの人があつまっています。
「ええ天気やなあ、朝の散歩にはちょうどええな。」
 パパは、人だかりの中から幼馴染(おさななじみ)の友だちをみつけると、手をふってしらせました。幼馴染もパパを見つけると、うれしそうにちかづいてきました。
「きてくれたんか、ありがとう。
 こんな場所で銅鐸が発見されるなんて、ほんま大発見や。」
 少し興奮(こうふん)しています。みると腕に発掘(はっくつ)現場(げんば)の関係者の腕章(わんしょう)をまいています。
「ぼくの息子のカイト、小学校4年生や。」
「そうか、こんにちわ。考古学(こうこがく)に興味(きょうみ)あるんか?」
 カイトは、どう答(こた)えていいかわからず、だまってぺこりと頭を下げました。
「そうやろうなあ、まだわからんわなあ。」
 カイトをみて笑っています。
「パパの友だちの橋本君や。」
 説明好きな橋本さんは、さっそくカイトに発掘の説明をはじめました。
「発掘というのは、おもしろいで。パズルと一緒で発掘した古い土器の破片(はへん)を一つ一つつなぎあわせていくんや。そうして、なんでそれがここに埋(う)まっていたかを考えるんや。するとなあ、どんな生活していたとか、なにを食べていたとか、何人ぐらいで生活していたとか、いろんなことがわかってくる。古代のロマンやなあ。ほんとおもしろいで。」
 カイトは、黙って聞いていました。
 こんな、子どもみたいに、楽しそうにしゃべるおっちゃんははじめてや、とおもっていました。
 説明会は、予定どおり午前10時からはじまりました。
 橋本さんは、ちょっと緊張した顔でマイクをにぎると、
「えー、それでは、時間がきましたので、山元地区龍(りゅう)華(げ)遺跡(いせき)の発掘調査について、説明会をはじめます。
 もうごぞんじと思いますがこの遺跡からは、銅鐸、土器など多数の出土品がみつかっています。時代はおよそ・・・」
 橋本さんの熱心な説明は三〇分ほど続きました。みんなは静かに、熱心にきいています。カイトも大人にまじって静かにきいていました。
 そして最後に、この遺跡から発掘された銅鐸が運ばれてくると、「おうー」と大きな歓声があがりました。誰もが名前はしっていても、まさか自分たちが住んでいるこの町から出土(しゅつど)され、実物を見ることができるとは、どの顔もおどろきと、うれしさにどよめいていました。
 説明会が終わると、みんなは満足して帰っていきました。
 橋本さんは、カイトをよぶと、
「いっぺん掘ってみるか?」目がやさしく笑っています。
 カイトは、こまってパパの顔をみました。
「こんな経験めったにないで、いっといで、」
 下の発掘現場におりると、さっそく、橋本さんが、
「まずこの刷毛(はけ)で、土をはらって、それから、このヘラで、こうしてな、ゆっくり少しずつ土をけずっていくんや。」
 カイトは言われたとおり、おっかなびっくり、粘土質の土を削っていきます。するとヘラのさきがなにか固いものにあたりました。
「おっちゃん、なんかある。」
 橋本さんは、急にまじめな顔になり、
「ここからはゆっくり、少しずつまわりをさきにけずって。」
 カイトの手元を見ながら教えています。
 カイトが慎重(しんちょう)に少しづつ土をけずっていくと、丸い形をした破片がでてきました。
 橋本さんは、首をかしげ、
「おや?これは?」
 あわてて、大きな声でスタッフみんなに知らせました。
「でました!土偶(どぐう)の顔の部分みたいです。
ええか、何か見つけると、掘っている全スタッフに、こえかけするんや。」
 カイトは緊張して、少しづつヘラをうごかします。
 だんだんと丸い形に目と鼻と口の切りこみが入った頭の部分がみえてきました。
 高橋さんは、うれしそうに息をはずませ、大きな声で、
「やっぱり、土偶の顔の部分がでてきました!」
 また大きな声で、スタッフのみんなに知らせました。
「すごいなあ、土偶と銅鐸が同じ遺跡からでてくるなんて?
これも大発見や!」
「文ちゃん、携帯(けいたい)もってるか?」
 下からパパをよんでいます。
「うん、あるけど?」
「初めてで土偶(どぐう)の顔を掘りだすなんて、すごいことやで。写真とらな。」
 パパは、そうか、とあわてて携帯を取りだすと、カイトに土偶の顔をもたせ写真をとりまた。
「写真をとったら、いつ、だれがどんな発掘したか、ちゃんと記録がのこるやろ。」
 そう言って、うれしそうにカイトの頭をなでてくれました。
 カイトは、ほめられて、照れくさいような、ほこらしいような、みょうな充実感がありました。
 家に帰るとパパは、さっそくママに、カイトの発掘した土偶の顔の写真をみせました。
「すごいわねえ。よくみつけたね。」
 ママがほめると、
「うん、あんな地面のしたから、土偶の顔が出てきたときはびっくりや。」
 よっぽどうれしかったのか、はじけた笑顔で答えていました。
 その夜、カイトが眠っていると、夢の中にカイトがみつけた土偶の顔があらわれました。
 土偶の顔はなにかいいたそうです。
―どうしたん?
―ワタシのからだを見つけてほしい。
―どうして?
―カイトがワタシの顔を見つけた。
―からだは、どこにあるん?
―あのあたりにちらばっている。集めてつなぎ合わせて欲しい。
―どうして、こわれたの?
―ワタシの役目は、わざと割って災いをはらうこと。
―どうしてわざと割るの?
―災いを避けるための儀式(ぎしき)。
―ぼくにかけらを見つけてほしいの?
―もうワタシの役目はおわった。だから元にもどして欲しい。
 それだけいって、しずかに消えていきました。

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