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もうひとつの世界、16 竜神さまが くしゃみした1/3

竜神さまが くしゃみした 1/3

 小学校三年生の、ワタル、未希(みき)、春奈(はるな)、健人(けんと)の四人は、尊彦(たけるひこ)神社(じんじゃ)の境内(けいだい)にやってきた。
「なあ未希、ほんとに竜(りゅう)の子がいてるんか?」
 ワタルがたずねると、未希は、
「神社のおっちゃんがゆうてた。
   春奈もきいてたよね。」
 春奈は、おっとりこたえる。
「うん、宮司(ぐうじ)さんがおしえてくれた。
 竜神の森の大滝(おおたき)には、竜神さまが住んでて、
 小滝(こたき)には、竜の子が住んでるんやて。」
「ほんまか?いっぺんしらべににいこ。」
「あかん、竜神の森は神聖なばしょやから、かってにはいったら竜神さまにしかられる。」
「みつかれへんかったら、ええんやろ。それに、小滝の竜の子をみにいくだけや。おれ、まえにも大滝まで行ったことあるで、なあ健人。」
  健人は、生き物が大好きな男の子。最初につかまえにいこうといったのも健人だ虫取り網とプラスチックケースをちゃっかりもってきている。
「みるだけやで。」
 未希のことばに、四人は、ワタルをせんとうに、金網のすきまにもぐりこむと、裏山の竜神(りゅうじん)の森に、こっそりしのびこんだ。
「みつかったら、ぜったい宮司さんにもおこられるよ。」
 未希がしんぱいそうにいうと、ワタルは、
「みつかったらな、でも、みつかれへんかったら、おこられへんやろ。」
 いつも、このちょうし。健人はうしろでニコニコわらってる。
 四人は、宮司さんが神事(しんじ)の時にあるく細い小径(こみち)をのぼっていった。しばらく坂を上っていくと、最初の小滝についた。
 小滝の滝つぼのふちにたつと、さっそくワタルが、
「いてるかな?」
 小滝の水面すれすれまで顔を近づけて、水の中をのぞきこんでいる。
「あれっ、健人、なんかいてるで?」
  健人は、なにかいたらぜったい捕(つか)まえようと、虫取り網(あみ)をかまえて、滝(たき)の底をたしかめている。
「竜の子か?」
「ひげはやして、タツノオトシゴみたいな顔してる。」
「タツノオトシゴ?」
 小さな生き物は、にげずに滝つぼのそこからじっと四人をみあげていた。
 ワタルが未希をからかった。
「未希みたいにいばってる。」
 未希は、まけずにいいかえす。
「ちがうわ、ワタルがよわいだけや。
 それに、タツノオトシゴは海の生き物や。」
 きっちり、やりこめている。
 やっぱり、未希のほうがつよい。
 健人は、そっと虫取り網を水の中にすべりこませた。
 おどろかせないようにゆっくりとすくうと、もってきたプラスチック容器(ようき)にうつし、ちょっともちあげて、光にすかしてみた。
「へんな生き物やなあ。小さいのにいばってる。」
「やっぱり、未希や。」
 ワタルがこっそりつぶやいた。
 小さな生き物は、容器(ようき)のそこから、こちらをにらんでいる。
「この顔どっかでみたことあるわ?」
 未希はおもいだそうとがんばった。
「そうや!やっぱり竜の子や。」
 やっと、こたえをひっぱりだした。
「なんでや?」
「この神社の拝殿(はいでん)の天井の絵とおんなじ顔してる。」
「ほんとうか?やっぱり竜の子か?
 しんじられへんなあ、たしかめにいこ。」
 四人は、竜神の森からもどると、さっそく拝殿まえにまわり、中をのぞきこんで天井をみあげた。
「ほんとうや、竜の子や!」
 遊びのつもりで、竜神の森にしのびこんだのに、ほんとうに竜の子をつかまえて、びっくりしている。
「なあ、もってかえって、ちゃんとしらべよ。」
 不思議な生き物をつかまえ、四人はワクワクして健人の家にむかった。

 家につくと、未希は、携帯(けいたい)をつかってしらべはじめた。
 健人は、生き物図鑑をしらべている。
 しらべればしらべるほど、竜の子ににている。
 でも、まさか、ほんとうに竜(りゅう)の子がいるとは、だれもしんじていない。
「そうや、携帯で写真(しゃしん)をとって、あした学校で高橋先生にきいてみよ。」
 春奈もさんせいした。
「高橋先生は生き物にくわしいから、きっとおしえてくれるよ。」
 ワタルは高橋先生ときいて、ニヤッとわらった。
「高橋先生、ぜったい洋子先生にみせるで。」
「なんでや、洋子先生は生き物くわしないやろ。」
「健人はしらんのか、高橋先生は洋子先生がすきなんや。二人はつき合ってるんやで。」
 未希はとっくにしっている。
「そんなん、じょうしきや。」
「でも、写真を見せるとはかぎれへんやろ?」
 へんなとこに健人はこだわっていた。
「それやったら、かけよか。」
 ワタルがいうと、健人はすぐに、
「ええよ、なにかけるんや?」
「健人の、ゲームソフトや。」
「それやったら、おれはワタルのゲーム機や。」
 未希があきれて、
「ほんま子どもやね。そんなことより、さっさと写真とってや。」
 やっぱり未希が、いちばん強かった。
 ふたりは、いわれたとおりおとなしく竜の子の写真をとっていた。
 

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