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もうひとつの童話の世界、13 クーのねがい 1/3

クーの ねがい 1/3

 おいらは、土人形のグウーというんだ。
 土人形というのは、むかしの人が、土でつくった人形を、
火の中にいれてやいたものだ。
 そのあと、おいらは、長い、長いあいだ、土のなかでねむっていた。
 それなのに、ある日、とつぜん、
 ガガ、ガガ、ガガガ。グイーン、グイーン、バサーン。
「なんだ、なんだ!」
 びっくりして、めをさますと、
 大きな、いっぽんうでのかいじゅうが、
おいらといっしょに、大きく土をすくうと、  
グーンとかいてんして、
よこにとまっている、四角いかいじゅうのせなかにぶちまけた。
おいらは、びっくりして、さけんだ。
「おいらをどうするんだ?」
すると、大きな、いっぽんうでのかいじゅうは、
「おれは、ショベルカーだ。土をほりおこすのが、おれのしごとだ。
しごとのじゃまをするのは、だれだ?」
「おいらは、土人形のグウーっていうんだ。
せっかく土のなかで、ねむっていたのに、」
「土のなかでねむっているのは、
セミか、カブトムシの、ようちゅうぐらいだ。
さあ、どいた、どいた。おれはいそがしいんだ。」
ショベルカーかいじゅうは、もういっぱい土をすくうと、
おいらをむしして、
また、四角いかいじゅうのせなかに、土をぶちまけた。 

四角いかいじゅうは、「パフー。」
大きなこえで、しゅっぱつのおたけびをあげると、
土ぼこりをたてながら、山すそにむかってはしっていった。
おいらは、びっくりして、さけんだ。
「おいらを、どこにつれていくんだ?」
「きまってるだろう、山すそのはたけに、すてにいくんだ。」
「どうして?」
「おれは、ダンプカーだ。
土をはこぶのが、おれのしごとだ。
 おまえは なんで おれのせなかにのってるんだ?」
「土の中でねむっていたら、かってにのせられた。」
「おまえは、セミか、カブトムシのようちゅうか?」
「おいらは、土人形のグウーだ。」
「なんで、土人形が、土のなかでねむってるんだ?」
―なんで?
おいらにも、わからない。
ダンプカーかいじゅうは、あきれて、
「おれは、まいにち、あつい日も、さむい日もはたらいているのに、
おまえは、土の中で、のんきにねむっていたのか。
きらくなもんだな。」
いやみをいわれた。
ダンプカーかいじゅうは、はたけにつくと、
せなかにつんだ土を、ぜんぶぶちまけて さっさともどっていった。
「たすけてくれ!」
いくらさけんでも、もうおそい。おいらのからだが、はんぶん土のなかにうもれたままだ。 
おいらは、これから、どうすればいいんだ?

しばらくすると、小さな、黒いかいじゅうが、カーカーなきながらとんできた。
「おーい、たすけてくれ!」
おいらは、おもいきりさけんだ。
小さな、黒いかいじゅうは、キョロキョロあたりを見まわしている。
「ここだ、ここだ、土のなかだ。」
 小さな、黒いかいじゅうは、ちかよってくると、
「おまえはなんだ、くえるのか?」
「なんでこんなときに、そんなことをきくんだ。
さきに、おいらを土の中からひっぱりだしてくれよ?」
小さな、黒いかいじゅうは、「まあいいか。」といって、おいらをひっぱりだすと、
「やっぱり、くえないな。
おまえが、セミか、カブトムシのようちゅうだったら、くえたのに。」
がっかりしている。
「おいらは、土人形のグウーだ。」
「おれは、カラスのクロスケだ。
おまえは、なかまにあいにきたのか?」
クロスケは、きゅうにきいてきた。
「おいらのなかま?」
「そうだ、よこの小山のうえに、おまえのなかまが、たくさんいるぞ。」
「ほんとうか、この小山の上に、おいらのなかまがいるのか?」
―あいたい!
おいらは、ひとりぽっちだ。あって、いろいろきいてみたい。
きゅうに、からだに力がみなぎってきた。
おいらは、おもいきって右足を、つぎに左足をうごかしてみた。
―うごく、うごくぞ!
うれしくなって、そのまま、カチ、コチ、カチ、コチ、手足をうごかし、
小山にのぼっていった。

やっとのぼると、小山の上は、たいらになっている。
びっくりした。
おいらのなかまが、いっぱいならんでいる。
土のへいたい、土の家、土の馬、土の丸いつぼが、
小山の上をぐるりと、とりかこんでいる。
―なんで、こんなにいっぱいいるんだ?
おいらは、うれしくって、土のへいたいにはなしかけた。
 しかし、土のへいたいは、えらそうにだまっている。
 おいらは、もういちど声をかけた。
「おいらのなかまだろう?」
 こんどは、ジロッとおいらをにらんだ。
「おまえは、だれだ?」
「おいらは、土人形のグウーだ。」
「しらんなあ、おまえみたいなやつは。」
「おいらは、長いあいだ、土のなかでねむっていたんだ。」
「わしたちも、長いあいだ、土のなかにうもれていた。
しかし、わしたちは、けっしてねむらなかったぞ。」
「どうして?」
「わしたちは、埴輪(はにわ)だ。 
なくなった王さまのはかをまもるのが、わしたちのやくめだ。
 おまえのやくめは、なんだ?」
「おいらのやくめ?
 おいらにも、やくめがあるのか?」
 かなしいけど、なんにもおもいだせない

しょんぼりしていると、土のへいたいがゆびさした。
「なかまをさがしているなら、あのたてものにいってみろ。」
みると、小山のはんたいがわに、丸いドームのたてものがたっている。
おいらは、しょんぼり小山をおりていった。
クロスケが、またよってきた。
「どうだった、おまえのなかまにあえたか?」
「いいや、おいらは、埴輪じゃないっていわれた。」
クロスケはなぐさめていった。
「きにするな、あいつらは、いつもいばってるんだ。」
 おいらは、クロスケにそうだんした。
「あの丸いドームのたてものにいってみろ、っていわれたんだ?」
「あのたてものか。」クロスケは、ちょっとかんがえて、
「あのたてものは、この古墳(こふん)から出てきたものを、かざってあるんだ。」
「古墳?なんだそれは、くえるのか?」
つい、いってしまった。
「なんだ、おまえもたべたいのか?」
クロスケはあきれている。
「おまえは、古墳もしらずに、ここにきたのか?
 いま、おまえがのぼった小山が古墳だ。むかしのえらい人のはかだ。」
「そうか、おはかは、くえないな。」
おいらは、気をとりなおして、たてものにむかった。
すると、クロスケが、わらいながらこえをかけた。
「おまえは、ペンギンみたいにあるくんだな。」
「ペンギン?」おいらは、しらない。
「おいらは、土人形だ。
そいつは、くえるのか?」
また、いってやった。


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