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もうひとつの物語の世界18, そらとうみ 1/3


そらと うみ 1/3

 海岸線のアスファルト道路がへびのように曲がりくねり、岬の先までのびている。
 夏の青空が広がり、岬のがけが、道路のすぐうしろまでせまっていた。
 そのほんの少しひらけた道沿いに、
 ぽつんと、古びたお寺がたっていた。
 だれも住んでいない。
 海風、山風をうけながら、ひっそりとねむっている。
「ついたぞ。」
 パパの声で、子どもたちが車から降りてき、おもいきり伸びをした。
 男の子の名前は、『そら』、
 女の子の名前は、『うみ』
「どうだ、ふたりにぴったりなところだろう。」
 そらが、さけんだ。
「ほんとうだ、空と、海だけ。
 あっ、きょうりゅうがいるよ。」
 海につきでた岩が、海にむかって吠えていた。
 うみも、みつけた。
「空にもいるよ。」
 遠くにうかぶ入道雲(にゅうどうぐも)が、
 ゴジラのように、ほえている。
 おとうさんがわらった。
「さあ、テントをはるぞ。」
 車からキャンプ道具をおろし、古いお寺の庭にはこびこんだ。
 庭からも、きらきらかがやく海がみえる。
 海風が、きもちいい。
 おとうさんは、おもいっきり息をすいこんだ。
 やっと、またこのお寺にやってくることができた。 
  そらと、うみは、せっせとキャンプ道具をはこぶ。
「ママもくればよかったのに。」
 そらがいうと、
「二人がうまれるまえに、ママとここでキャンプしたんだ。」
「ほんと?ママなんていってた?」
「人生が、かわったといってた。」
「なんで、かわったの?」  
「生きる意味かな。」
「ふーん、よくわかんない?」
 パパは、テントをはると、夕食のじゅんびをはじめた。
 そらと、うみは、手伝いがおわると、さっそくお寺のまわりをしらべはじめた。
 小さな本堂(ほんどう)をのぞきこむ。
 なにもない。
 うらにまわって、山につづく小径(こみち)をみつけた。
「パパ、あそんできてもいい?」
「小径(こみち)をいくのか?」
「うん、たんけんしてくる。」
 パパは、ポケットから子笛(こぶえ)をとりだして、
「なにかあったらこの子笛(こぶえ)をふくんだぞ。」
 ちょっとしんぱいそうに、二人のうしろすがたをみおくった。
 そらと、うみは、山をみあげ小径(こみち)をゆっくりのぼっていく。
 とちゅうから、ながい石段になっている。
 みあげても、頂上が見えない。
 夏なのに、木陰(こかげ)の石段はひんやりとつめたい。
 ふたりは、がんばって、またのぼりはじめた。
「どこまでつづいているのかな?」
 ふりかえると、青空と、海がかがやいている。
 手にとって たべられるぐらいちかくに綿雲がみえる。
 そらは、小さな手をのばしてつかむまねをすると、パクっと口に入れた。
「おいしい?」
 うみも、まねして口にいれた。
 夏の青空と、大きな海が、二人を見てわらっている。
 胸と、お腹がキューとなった。
 初めてのばしょなのに、なにかなつかしい。
 なんでだろう?
 このうえになにがあるんだろう?
 こうきしんが、綿雲のようにもくもくわいてきた。
 
 やっと、のぼりきると、大きな岩のくぼみに、
 赤い鳥居(とりい)と、小さな社(やしろ)がたっていた。
『物延(もののべ)神社』とかいてある。
 ふたりにはよめない。
 いみもわからない。
 社(やしろ)のなかをのぞく。
 なにかある?
 小さな動物の形をした石仏が,二体ならんでおいてあった。
 なんの動物?
 うみは、社(やしろ)のうらのくぼみに、洞窟(どうくつ)をみつけた。
「おにいちゃん、洞窟(どうくつ)があるよ。」
 おそるおそるなかをのぞく。
 おくのほうまでつづいている。
 そらの目がかがやいた。
「はいってみようか?」
「うん。」
 うみもはいってみたい。
 夏の青空と、大きい海が、しんぱいそうにふたりをみていた。

 そのとき、よこの藪(やぶ)をごそごそかきわけて、男の子があらわれた。
 おたがい、びっくり。
 男の子が、さきに声をかけてきた。
「お祭りにいくのか?」
 そらは、ききかえす。
「お祭り?
 どこでやっているの?」
「物延(もののべ)祭りだよ。
 そのため、ここにきたんだろう?」
 男の子は、ふしぎそうにふたりをみている。
「えっ、こんなところでやるの?
 なにもないよ。」
 どうも、話がかみあわない。
 うみが、くすくすわらっている。
「ちがうよ。洞窟(どうくつ)のむこうがわだよ。
 ふたりとも、はじめて?」
「うん。」
 そらは、うなずいた。
「つれていってやるよ。」
 男の子は、さっさと洞窟(どうくつ)のなかにはいっていった。
 つられて、ふたりもあとにつづいた。

「おれは、猪木壮太(いのきそうた)、四年生。
 きみは?」
 急にきかれ、あわててこたえた。
「ぼくは、大上(おおかみ)そら、ぼくも四年生。」
「あたし、大上(おおかみ)うみ、二年生。」
 男の子は、めずらしそうにふたりをみた。
「おおかみなんだ。
 それに、そらと、うみ。
 でっかいなまえだなあ。」
 けたけたわらっている。
 そらが、きいた。
「壮太(そうた)はどこにすんでるの?」
「この山にすんでる。
 きみたちは?」
 うみが、こたえた。
「とかいだよ。」
「とかい?へんなところにすんでいるんだなあ。」
 壮太(そうた)は、どんどんあるいていく。
 ふたりもつられてあるいていく。
 くらい洞窟(どうくつ)なのに、ふしぎとけつまずかない。
 なんとなくみえている。
 どうしてだろう?
 やがて、先のほうに小さなあかりがみえた。
 そして、明かりがだんだん大きくなってきて、
 ついに山のはんたいがわにでた。


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