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もうひとつの世界、16 竜神さまが くしゃみした 3/3

龍神さまが くしゃみした 3/3

 健人(けんと)は家にかえると、さっそくたしかけた。
「おまえほんとうに竜の子か?」
 竜の子は、かわいそうに水の底でぐったりしている。
 やっぱり滝つぼにかえさんと、このまま死んでしまうんかなあ、としんぱいになってきた。
 家の外は、ますます雨風が強くなり、ぶきみな叫(さけ)び声(こえ)をあげていた。
 その夜、健人はへんな夢(ゆめ)をみた。
 夢の中に竜神さまがあらわれ、
「わしの子を、どこにやった。あすじゅうに、無事(ぶじ)にかえさなければ,おまえたち四人に大きな災いがふりかかるぞ。」
 と、おどかされた。
  朝になると、きのうの雨がうそのように晴れていた
 へんな夢やったなあ。高橋先生がへんなこというからや。
 みんなに相談(そうだん)しようかまよっていると、ワタルがやってきた。春奈も、未希もやってきた。
 みんな、なにかをいいたそう。
「健人、竜の子は元気か?
 おれなあ、きのうへんな夢をみたんや。竜神さまが夢の中にでてきてな、怒(おこ)ってたんや。」
 健人はびっくり。
「いっしょの夢や!」
「あたしもおんなじ夢をみたよ!」
「あたしもみたよ!」
みんな、おなじ夢をみてびっくりしている。
「やっぱり竜の子なんや。」
「高橋先生のいったとおりや。」
「やっぱり、かえしにいかなあかん。」
 四人でそうだんして、いまから かえしにいくことをきめた。
 未希はいくまえに「これから㈣人で竜の子をかえしにいきます。」と、高橋先生にメールをいれた。
 すると心配(しんぱい)した先生から、
「戻ったらまたメールするように。」
 と返事がかえってきた。
 
  四人は、神社につくと、またこっそり裏山の竜神の森にもぐりこんだ。
 しかし、どこでどう道をまちがえたのか、どんどん森は深(ふか)くなり、とつぜん竜神さまがすむ大滝のまえにでてしまった。
 四人はきゅうにこわくなってきた。
 そのとき、大滝の上のほうから野太(のぶと)い声(こえ)がきこえてきた。
「わしの子はどこいる?」
 高い滝から流れ落ちる水しぶきが、いつのまにか、竜の顔になっている。
 まさか、ほんとうに竜神さまがあらわれるとは。
 健人はびっくりして見上げた。
「か、かえしにきました。」
 声がふるえている。
 ワタルも、未希も、春奈もおそろしくて、からだがうごかない。
 健人は、虫かごの容器をかかげると、そっと、滝つぼの水辺(みずべ)にはなした。
 竜の子はうれしそうに、大滝の底にかえっていった。
 竜神さまの野太い声が、またひびいた。
「よいか、竜の子はこの森でしか生きられぬ。
 われらは、代々(だいだい)水をつかさどり、この森の木々草花を生かしてきた。
 そして木々草花から、精気(せいき)をいただいて生きておる。
 どちらが欠(か)けても、この森は生きていけぬ。
 どんな生き物であろうと、そまつにすれば、その災いは、かならずや人間におよぶ。」
「ごめんなさい。」
 四人は、おもわずあやまっていた。
 高橋先生のいったとおりだとおもっていた。
 竜神さまは、おだやかな声にかわり、
「すべての生き物には、その生きていく理由(りゆう)と、生きていく場所がある。すべての生き物をたいせつにせよ。」
 と、いいのこしてしずかにきえていった。
 四人は、まだ夢のつづきをみているように、たたずんでいた。
 しばらくして、ほっとしておたがいに顔をみあわせると、一目散(いちもくさん)ににげだした。
 竜神の森をぬけだし、やっと神社裏にもどってくると、こわかったおもいと、竜神さまにあえたおどろきが、どっとあふれてきた。

 四人は気持ちをおちつけながら、拝殿のまえまであるいてきた。
 すると、高橋先生と洋子先生がまっていた。
 春奈は二人を見て、なにをかんちがいしたのか、
「先生、デートしてんの?」
 高橋先生は、心配(しんぱい)してきたのにと苦笑(にがわら)い。
 洋子先生も、おかしそうにわらって、
「みんながしんぱいで、むかえにきたのよ。」
 未希は仲のいい二人をみて、おもわずたずねた。
「先生、結婚(けっこん)するの?」
 洋子先生はおどろいて、
「そういうことは、高橋先生にきくものよ。」
 ワタルは、まってましたと、
「高橋先生、洋子先生と結婚するんか?」
 高橋先生は、きゅうにきかれてびっくり。
 拝殿の天井の竜神さまをみあげた。
「うーん、竜神さまの前でうそはつけないなあ。竜神さまがおこって、きっとまた大雨をふらせるからなあ。
 洋子先生さえよければ結婚するつもりだよ。」
 はっきりいいきった。
 子どもたちは、手をたたいておおよろこび。
 洋子先生は、びっくり。
 子どもたちのまえで、とつぜんプロポーズされ、みるみる顔があかくなった。
 そのとき、とつぜん、神社の境内に突風(とっぷう)が吹き、まわりの木々をざわめかせた。
「あっ、竜神さまもおどろいて、くしゃみしたんや。」
 ワタルがさけんだ。
 きっと、プロポーズのいいわけにつかわれた龍神さまが、びっくりして、くしゃみしたんだとおもっていた。


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