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もうひとつの童話の世界、13 クーのねがい2/3

クーのねがい

丸いドームのたてものにつくと、ドアーが大きくひらいていた。
げんかんわきに、大きな、丸いつぼがおいてある。
小山の上で見たのとおなじ土のつぼだ。
まわりには、だれもいない。
おいらは、カチ、コチ、カチ、コチあるいていった。
中にはいっても、やっぱり、だれもいない。そのさきに、大きなへやがふたつみえる。
おいらは、キョロキョロまわりをみながら、おくにすすんだ。
広いへやのまんなかに、大きな石がドスンとおいてあった。
―なんだ、この石は?
石のふたがよこにずれて、中がみえているが、なにもはいっていない。
―なんで、なにもはいってないのに、おいてるんだ?
そのまわりのかべには、いろいろなものがおいてあった。
おいらは、いちばんはしの、土のへいたいにはなしかけた。
「おいらのなかまを、しらないか?」
「かわったやつだな、なにしにきた?」
「おいらは、土人形のグウーだ。おいらのなかまをさがしているんだ。」
「おまえのなかまは、ここにはおらんぞ。
ここは、王さまのおはかの石室(せきしつ)と、それをまもる埴輪(はにわ)たちのへやだ。」
「小山でも、そういわれた。」
「小山ではない、あれは古墳(こふん)だ。
それに、おまえは、なんでそんなへんなかたちをしているのだ。」
「へんなかたち?」
「そうだ、なんでそんなへんなかたちに、つくられたんだ?」
土のへいたいが、おかしそうにわらった。
おいらからみれば、土のへいたいのほうが、よっぽどへんなかたちだ。
おいらは、ひとりぽっちで  なにもわからないから、いいかえせない。
なかまといる埴輪がうらやましかった。すると女の埴輪が、やさしく声をかけてきた。
「あなたのなかまは、きっと、となりのへやにいるわ。」
「となりのへや?」
「そうよ、あたしたちより、もっと古いのじだいのものが、かざってあるへや。」
「そこに、おいらのなかまがいるのか?」
「土人形がかざってあるときいたわ。」
「ありがとう。あんたは、やさしいな。」
土のへいたいをみながら、いやみをいってやった。
でも、ほんとうに、となりのへやにいるのかな?
おいらは、ドキドキしながら、となりのへやにあるいていった。

そのへやのまんなかには、草であんだ、大きな三角やねがたっていた。
中はひろくて、ねれるようになっている。
―なつかしいにおいだ。
おいらは、そのまわりをゆっくりまわった。
貝がら、土のかけら、どうぶつのほねが、むかしのままにおいてある。
そして、かべにそっていろいろなものが、かざってある。
―おや、あれは?
とうめいな はこのの中に、土のかけらが、ていねいにならべられている。
じゅんばんに見ていくと、さいごにだいの上に土人形をみつけた。
ピンときた。
―なかまだ!
 おいらとおんなじ土人形のなかまだ!
おいらは、どきどきしながら、こえをかけた。
「おいらの、なかまだろう?」
土人形は、おいらをちらっとみた。
「あら、めずらしい。おとこの土人形なんてひさしぶりにみるわ。
 あたしはミーヤ、あなたは?」
「おいらはグウー。ずっと、土のなかでねむっていたんだ。」
「あたしもそうよ。あたしたちは、土偶(どぐう)ってよばれているのよ。
しってた?」
「おいらも、土偶?」
「そうよ、あなたも土偶よ。
むかしのひとが、あたしたちをつくって、土の中にうめたの。」
「じゃあ、どうして、このたてものにいるんだ?」
「ここは、あたしたちのことをべんきょうするためのへや。
きっと、大昔のことをしりたいのね。
でも、あたしは、もう昔のことはわすれちゃった。」
「おいらも、わすれた。」
おいらは、あらためて、へやのなかをみわたした。
なにか、思いだせるものがないか、ひとつひとつたしかめた。
貝がら、土のかけら、石のかけら、どうぶつのほね、
なつかしいのに、なにもおもいだせない。
「なにか、おもいだした?」
「いいや、なんにも。」 おいらは、しょうじきにこたえた。
すると、ミーヤは、あっけらかんといった。
「べつにいいじゃない。
いっしょにあたしのよこにたっていれば、そのうちおもいだすわよ。」

そのとき、きゅうに外から、かわいい かいじゅうの声がきこえてきた。
おいらは,あわてて、だいの上によじのぼった。
すると、かわいい かいじゅうたちが、ワイワイいいながらへやに入ってきた。
「みんな、しずかに。
 べんきょうするためにここにきたんですよ。」
「ねえ、先生、なにをスケッチしてもいい。あたし、あの土人形がいい。」
ちいさなかいじゅうたちは、おもいおもいに、スケッチしたいところにすわりこんだ。
おいらのまえにも、子どもかいじゅうがすわりこんで、絵をえがきだした。
そのとき、へやに大人のかいじゅうが、はいってきた。
こどもかいじゅうが、さっそく手をあげた。
「かんちょうさん、このへんな土人形はなに?」
「土偶だよ。おおむかし、縄文(じょうもん)じだいの人たちが、ねがいをかなえるためとか、わざわいをのがれるためにつくったといわれている。
でも、ほんとうのところは、よくわかってないんだ。」
子どもかいじゅうたちは、おいらに顔をちかづけてきた。
まじまじと見られると、はなのあたまがむずがゆくなってきた。
おいらは、きゅうに、くしゃみがしたくなった。
―クシュン。
―ハクシュン
そのとき、べつの子どもかいじゅうも、いっしょにくしゃみした。
―たすかった。
しかし、女の子かいじゅうは、みのがさなかった。びっくりした顔で、
「土人形が、くしゃみした!」
「くしゃみしたんは、ケンちゃんや。
 土人形がくしゃみするはずないやろ。」
みんなわらいだした。
―よかった。もうすこしで、ばれるとこだった。
しかし、女の子かいじゅうは、おこった顔して、じっとおいらをにらんでいる。
かんちょうのかいじゅうが、おいらのまえでとまった。
そして、ふしぎそうに、
「こんな土偶がいたかな?」
女の子かいじゅうといっしょに、じっとおいらをみてる。
顔をちかづけて、手をのばしてきた。
―やばい、つかまる。
手でつかもうとしたときに、よびだしがながれた。
「かんちょう、じむしょへおもどりください。おきゃくさまがみえています。」
かんちょうかいじゅうは、手をひっこめると、あわててもどっていった。
―あ、たすかった。でも、まだ、こどもかいじゅうがいる。
どうしよう。あせっていると、絵をかきおえた子どもかいじゅうたちが、
てもちぶさたで、ぶらぶらあるきはじめた。
みかねた先生かいじゅうは、
「おわったひとは、にわへでて、おべんとうをたべていいですよ。」
まちにまったおべんとうのじかん。
とたんに、子どもかいじゅうたちが、ざわざわした。
あわててかきおえると、なかのいい友だちかいじゅうと、おべんとうをたべようと、ばしょとりをはじめた。
おいらは、おもいきって、女の子かいじゅうに、
「きみはおべんとうを、たべないの?」
とたんに、びっくりした女の子かいじゅうは
「うわー、土人形がしゃべった。」
びっくりして、にげるように、にわにはしっていった。
―おいらも、にげるなら、いまだ。 
おいらは、ミーヤにきいた。
「出口はどっち?」
「でていくの?」
「おいらは、土偶だってことがわかったし、なかまにもあえた。
でも、おいらのいばしょは、ここじゃないような気がするんだ。」
「ざんねんね。出口はうしろのとびらよ。」
おいらは、あわてて、だいからおりると、そっと、うしろのとびらからでていった。

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