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メンヘラと1月23日を終わらせる



・最も話す5人の平均の人生を生きる事になる。

誰だったかわからないが、こんな事を言っていたのを思い出した。なんで平均になるんだ。5人に影響されるからなのか、自分の感性に従ってバランス良く5人導き出されるのか、相互作用なのか。まあどっちでも良いんだけど。

結構きつい話だと思った。だからなのかね、学校や街の人の群れが似たような奴らで構成されてるのは。例に漏れず、俺も同じだ。俺は変で逸脱した奴なんだろうけど(本当に嫌な話だ)、周囲にいる奴らも、大なり小なりおかしい奴らだ。おかしいと表現して間違いないだろう。

今日の話だ。メンタルが大変な後輩(以後S)に会いたいと言われたから、寝起きの頭を掻きむしりながら、出町柳駅のロッテリアに向かった。昼過ぎの、良い天気だった。
程よい寒さに力強く感じる冬の陽光、風も程々に、雪がまばらに降っていた。
ロッテリアに着くと、店内の席を見渡し、人で混み合ってる事を確認した。結果、暗鬱とした思いで身体は満たされる。Sが暴れたら、沢山の人に迷惑をかけるな、できれば店員だけにしておきたかったな、などと思い、店の外に出た。
相変わらず空は綺麗だったが、気持ちはひたすら暗い。なんで俺がこんな目に、あんな人に自分の大切な時間を使うなんて、みんなはこんな面倒な目をうまく避けるんだろうな、俺は......俺は......などと思いながら、力無く柱に寄りかかる。

そうだ、ブツクサ言ってても仕方がない。どうせ人生なんて地獄、学校も社会も家庭も地獄なのが現代日本だ、じゃあ笑うしかねえべや。
俺は半ば無理をしながら、薄笑いを浮かべた。ポジティブ精神。
すると、スマホがポッケの中で振動がした。
取り出しスイッチをON。
「出町柳駅に付かなかったから荒神口(出町から徒歩16分)で降りた、あと財布忘れた。河原町にする?」
スマホをぶん投げそうになった。無理して作った薄笑いはどっかに消えた。
ふざけるなと打ちそうになる指を宥め、「出町にしてくれ、歩いてこれないか?」という旨のメッセージを送った。金もなければバスも間違えるような人間だし、歩くのが確実だと思った。場所を変えるのも混乱を招くだけだ。
同意の返信が来たのを確認し、周囲を歩いて時間を潰した。
「×××」
ストレスのあまり、まずい言葉を吐いた。
焦って周囲を見渡す。
幸い、誰もいなかった。
既に限界だ。

信号の向こうにいるSがこちらの姿に気づくと、嬉しそうな様子で駆け寄ってきた。
「ごめん〜遅れて!」
彼女は眩しいほどに笑顔だった。健康そうなのは良い事だが、常に目を合わせてくる彼女の目線は嫌だった。
おい、見てくるな、目を合わせにくるな。俺は見たくないんだよ......。
ロッテリアに促し、コーヒーを二つ頼んで席についた。
向かい合わせの席に。
それも嫌だった。

話は始まった。穏やかな雰囲気を保つ事と、話の主導権を握る事は絶対条件だったから、それを意識しつつ話を進める。
意外と会話は和やかに進んだ。
たまたま向こうの気分が良いだけ、という事ではない。俺の努力と、蓄積された信頼の賜物であった。
メンヘラと話す時に気を付けるポイントは以下の通りだ。
・必要最低限しか喋らない
・相手の意思を尊重する
・否定をしない
・相手の人生がより良くなる事を願っているとアピール

書いてて嫌になった。いや、別に間違ったことは書いていないが。

彼女と話すと思考がフルで稼働するから、普段の自分と比べると尋常ではないほど頭がキレているように感じた。
ケアが必要な人と、仲良くなりたい人と話している時だけ異様に頭のキレが良くなる気がする。普段からそのくらい人に気を使えよ。だから俺はダメなんだよ。
そう自分にツッコミをした。
思えばこの2年間、自分はダメになる一方だったように思える。
メンタルはダウナーになる一方、関わる人は変な人ばかり。そういえば、最も話す5人の平均がその人の人生になるという話があった。
その話が本当なら、俺は壊滅的だろう。周囲の人間は、皆尊敬していて面白いが、まともな人生を送っているようには見えなかった。優秀な彼らと俺は違う。逸脱し切ったら、生きいける自信なんてない。
ふと我に帰り、Sを見た。俺は彼女に、時間を割く余裕なんてあるんだろうか?

Sを見ていると、自分の弱い部分を見ているようだった。だから、どこか放って置けないような気になるし、適切な対応もできていたような気もする。
そう考えると、やっぱり対応してきた事に後悔はなかった。
損得で人に切られるのは、誰だって嫌なはずだ。
切る事はできない。
自分だって散々上の先輩方にお世話になった訳だし、お互い様だ。
もう俺は大人なんだ。
人に頼られたら、ある程度は応えなければ。

彼女はひとしきりセクハラめいた質問とお気持ち表明をすると、どこか満足したような表情になった。それでは、と話を切り上げ、ロッテリアで別れた。


どうでも良い出来事に関する記録が終わった。日付は回り、1月24日。気づくと外は明るい。いつも通り、シェアハウスの朝が始まっていた。みんな、好きに1日を始めたら良い。
俺は大きく伸びをして、布団に潜った。

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