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忘れえぬ人々 1 幼稚園のS先生

 その人は、小さな町の老舗旅館の娘さんでした。S先生は幼稚園の先生で、私の人生で最初の恩人です。
 幼稚園での生活が息苦しく登園拒否をした幼い私に、先生は個人的にご自宅でオルガンを習わせてくれました。そこで過ごしたのんびりとした時間はかけがいのないものでしたし、幼い私の狭い生活世界が広がるきっかけにもなりました。
 オルガンを習うため、初めて自分のためにオルガンという大きなものを買ってもらいました。幼稚園児ながら、一人で市電で先生の家まで通ったり、10円のアンパンを買い食いすることもできました。それらの経験は幼いながらも私の自尊心や自立心を育ててくれたと思います。
 残念ながら卒園後、お会いする機会はありませんでしたが、その後S先生は結婚を反対され、駆け落ちしたそうです。笑顔の素敵なやさしい先生でした。

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