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あなたならどうする!?(ケーススタディ ドイツ・ベルリン編)

序章

ドイツはベルリンでの出来事

今年2月、ベルリンで開催される国際ダンスコンクールへの参加権を取得したダンサーのアシスタントとして渡独することとなった
私はひと足先にフランクフルトの友人宅へと向かい、日本から向かうダンサーグループとは現地で落ち合うこととなっていた ダンサーグループはそれぞれ日本各地から集まってきているため、私以外でも二名の方(大人と14歳以下の子ども)が別で現地入りしていた 

公共交通機関7日間乗り放題券


滞在日数は約1週間 前もって公共交通機関の乗り放題券という便利なチケットがあることを知っていたため、到着して買うつもりだった 最初に到着したグループは空港の窓口ですでに全員が購入済みだったのだが、その後到着した二名の方からの情報によると、この乗り放題券を買おうとした際、窓口のスタッフより、「14歳以下の子どもは大人同伴であればチケットは買う必要はない」と言われたため、二人で一枚のチケットを共有していた そのことを聞いたグループのリーダーの方が、私がまだチケット購入前だったため、自分の生徒(14歳以下)のチケットを買いあげてもらえないか、との申し出があったため、あいまいな情報を真に受け、彼女からチケットを譲り受け47ユーロを支払った 
そしてこのことがのちほど事件を巻き起こすこととなる



私はフランクフルトにいる友人にすぐさま、「ドイツって素晴らしい国だね!14歳以下の子は大人同伴だったら公共交通機関タダで乗れるんだね!」などとのんきなラインをしたところ、彼女からは「え?そうなの?州によってシステムが違うのかなぁ… 6歳以下の子は料金いらないのは知ってるけど…」という返答がきた
彼女は半年前に家族でドイツに移住してきたということもあって、そこまで詳しいことはまだ知らなかった わたしもなにか腑に落ちないところがありながらも、とりあえずベルリンの地下鉄、トラム、などを乗りこなすことに必死だったため、しばらくチケットのことは棚上げとなった


それから数日間、なにごともなく日々は過ぎていった
そして帰国前日、事件は起こった

事件発生

私たち一行は、コンクール最終日の表彰式とエキシビジョンに参加するため地下鉄に乗り会場へと向かっていた アレクサンダープラーツという大きな駅周辺のホテルに宿泊しており、そこから会場まで地下鉄とバスを使って所要時間約30分 乗車後2つか3つめの駅でなにやら警察のような(でも警察とはちょっと風格が違っているような)大柄の黒人男性一人と白人女性など三人がドカドカとすごい勢いで乗り込んできて、そのうち黒人の男性が一目散に私たちの方へ寄ってきて「Please show me your Ticket!」 と言ってチェックを始めた
検閲官だったのだ!! 

ドイツには改札がない

私が学生のころはじめてドイツを旅行した際、一緒にいた友人が、「ドイツって改札がないんだよ、切符を買うかどうか個人に任せてあるんだって。そのかわりもしキセルが見つかったらすごい金額の罰金を払わされるらしいよ!」と教えてくれた 駅では販売機はあるが、改札というものが存在せず、乗ろうと思えばだれでも乗ることができる 日本では考えられないようなルールにちょっとしたカルチャーショックを覚えたことを思い出した
へぇー、なんかすごい国だな~ 切符なんて買うのが当たり前だと思ってるけど、見つからなかったらタダ乗りできちゃうんだ ひとりひとりのモラルにかかってるってことか・・・
当時のわたしの記憶をたどると、検閲官に出くわしたこともなければ、だれかが捕まっているのを見たこともなかったような気がする
けれども、今回のこのドイツ旅行はまだこの後も続くのだけれど、わりと頻繁に検閲官を見かけたし、チケットを切られる光景を目の当たりにしたことも一度二度あった

検閲官にチケットを切られる

ところが、まさか・・・
こんな身近で起こるとは

検閲官は次々とチケットを見せて、といって事務的に作業を進め、例の14歳の女の子の番が来た 私のチケットを持つ手が少し震えていた やばい・・
彼女は英語が話せないため、事情を説明するどころか、ただただその場にたたずんでいた 目が怯えている
彼女の先生がなんとかこの一連のことをしどろもどろながら英語で伝えようとしているのだが、検閲官はまるで獲物を捕らえたハンターのように、鋭くそしてとてもアグレッシブに「チケットをなぜ持っていないんだ?」と責め立てる
乗車している人びとの視線が一気にこちらを見つめている ものすごいプレッシャーだ

検閲官は「次の駅で降りろ」と言って、私たちは電車を降りひとことも口出すことが出来ず見守っていた
「違反だ IDを出しなさい」と言われた彼女はパスポートのコピーを差し出した
彼女の先生はなんとかそれを阻止しようとするが、言葉が出てこない

私はどうするべきだろう・・・
助けたい でもすべてを説明しつくすことができるだろうか
彼女は私の生徒ではないからでしゃばるのも何か違うか・・・
迷っているうちにどんどん時間が過ぎる

結局手も足も出ないまま、チケットが切られ、「一週間以内に支払うように」とだけ言い残して彼らは足早に去っていった 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「罰金 60ユーロ」

痛い・・・・

わたしたちはとにかく会場へ向かうため次に来た電車に乗り込んだ
14歳の彼女はあまりの怖さに泣きだしてしまった
そりゃそうだろう、怖いに決まっている
何が起きたのかもわからず、何をしゃべっているのかも理解できず
ただ自分は違反者としてのチケットを切られてしまったのだ

わたしはいてもたってもいられず、「大丈夫だよ 方法を考えよう」
と言ってなぐさめた

お金を払えば解決?!

彼女の先生は、パニック気味で母に電話し、事のいきさつを説明していた
母という方は、このダンスコンクールの幹部であり主催者でもあったため、先に会場入りしていた どうやら、私の責任でもあるから罰金は私が払うから心配しないで、と言われたそうだ

その内容を聞いて、私の中にある怒りのようなものが発生したのを感じた

えっ? お金払えば終わることなの?
やってもいない濡れ衣を着せられて、お金払っておわり?
彼女の名誉はどうなるの???

そんな声が内から聞こえてきた

この状況で何ができるだろう・・・

はやる気持ちを抑えながら、あれこれと方法を考え始めた
よし、まずフランクフルトの友人に電話してみよう
彼女の旦那さんはドイツ人だ
ドイツのシステムに詳しい人に、どこへいけば交渉することができるのか、そもそも交渉の余地はあるのだろうか、など聞いてみよう、と思い友人に電話をしてみた
彼女はすぐに電話に出てくれて、旦那さんに聞いてくれた

友人の旦那さんからのアドバイスは、
・検閲官に抗議しても意味がないということ(彼らの仕事はチケットを持っていない人を見つけチケットを切るだけだから)
・一番近い大きな駅、今回の場合はアレクサンダープラーツへいって、そこの窓口で説明をすること
この二点だった

彼女も含め他の方たち全員が表彰式に参加するため会場へ向かわなくてはいけない
この状況で動けるのは自分だけだ なんせ、彼女たちは明日朝早く空港へと向かわなければならないのだから

ただひとつ、自分の中に躊躇があったのは確かだった 私は今回のコンクールには当事者というよりはアシスタントとして飛び入り参加していたため、全くグループの方とは面識もなく、この提案を言い出しにくいなと思っていた
そして、もう話は、罰金を支払う、という方向で動いていっている

言うべきか 言わざるべきか・・・

迷った挙句、ダメ元で提案をしてみた

もし私でよければ、交渉してくることは可能だと思います
何かお手伝いできることがあればいつでも言ってください、と伝えたが

反応は… なし

なぜか気まずい空気が流れたままその日は重い空気のまま過ぎた

次の日の朝、私以外の全員が空港へ向かうべくホテルのロビーに集合していた
軽く挨拶を済ませ、そこでお別れとなった

その後、違反したことの履歴は記録として残るのかどうかみんなが心配しているから、フランクフルトの友人に聞いてもらえないかとのラインが来た
私は一応友人に聞いては見たものの、経験がないからわからない…とのことだった
なんとも後味の悪い結末だった

後悔、そして学び

その後も私は旅をつづけながら、この一連の出来事についてしばらく考える時間が続いた
おそらく何らかの後悔のようなもの、がジンジンと心の中で鈍くうずいていた

今回のことを最初から振り返ってみて今後の教訓にしたいと思うことが2つ上がった

一つ目は、人からの情報は鵜呑みにしない、ということ
そもそも最初の段階で、窓口で言われたことの理解がどこまでされていたのかもわからないまま、「どうやらこうらしい」的な内容のものを、聞いたまま信じ込んでしまったこと 本来ならその情報の真偽は自分で納得いくまで調べるなりする必要があった
のちほど知ったのだけれど、14歳以下の子は大人同伴であれば切符はいらない(ただし7日間乗り放題チケットの場合)というシステムは確かに存在するようだ その場合、窓口でチケット発行の際そのことを伝えて刻印なりをしてもらう必要があるということだそうだ

そしてもうひとつ
ここは見解が分かれるポイントではあるとは思うのだけれど、個人的な意見としては、本当に罰金を払うしかなかったのか? もちろん、言葉の壁は高い けれども、それは外国へ来るときの心構えとしてわかりきっていることだろう 自分で交渉できるならする、無理そうだったら誰かに助けを求めるもアリ 大事なのは「自分はキセルをしたのではない!」ということを伝え、自分自身は自分で守ってあげることなのではないかと思う
そしてその交渉をする場合、もともとの47ユーロは正規で支払う、という意志を伝えることはやはり必要不可欠だろう あくまで誤解されたことを解くことが目的であり、本来自分が負担するべきだった料金についてはきちんと払うというのが正当だろう

日本を一歩出てみると、なかなか厳しい環境が広がっていることは確かで、人種の壁、言葉の壁、などなど不利な条件は多い そんな世界に飛び込んでいって、当たり前のように自分の権利なり名誉が守られない環境で、さて、自分はどうありたいのか
そんなことを深く考えさせられる大きなイベントであった

こちらへ帰ってきた今でもたまに思い出す そして想像してみる
もしあの時アレクサンダープラーツまで行って交渉していたとしたら、どんな結果になっていたのだろう、と

さて、あなただったらこんな場合どのように行動をしますか?