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居宅介護事業所版BCPをつくる5つのポイント

BCPは自然災害が発生した場合に、担当している高齢者だけでなくスタッフや業務を守る役割があります。令和6年から介護事業所でのBCP作成が義務化されますが、ケアマネジャーが働く居宅介護支援事業所も同様です。要介護高齢者への介護サービス提供を業務としない支援センターにおいて、BCPはどのような視点で作成するとよいのでしょう。
今回は、居宅介護事業所版BCPをつくる際に参考にしていただきたい5つのポイントや日頃からできる災害対策について紹介します。「まだBCPの完成度が低い」「どのような内容を記載したらいいのか分からない」という方は是非参考にしてください。

居宅介護事業所版BCPをつくるポイント5つ

居宅介護支援事業所は、高齢者やその家族からの介護に関する相談にケアマネジャーがのり、必要なサービスの調整や支援計画をたてる事業所です。担当している高齢者は、日頃からなんらかの支援が必要な人が多いため、災害が発生したときには、ただちに安全を確保したり必要なサービスへつないだりする必要があります。そのために役に立つ5つのポイントがこちらです。

災害別に対応を考えておく

事業所の災害リスク

筆者は令和4年8月に全国の介護支援専門員240名を対象にBCPの進捗状況と課題把握のためアンケート調査をおこないました。その中で所属事業所における災害リスクを複数回答で質問すると、災害とはいえ表のように非常に多岐にわたることが分かりました。
つまり活断層付近の地域では地震の危険がありますし、河川付近では水害のおそれがあります。自然災害とはいっても地域によって対策方法が全く異なるといっても過言ではないのです。

BCPを作成する上でまず重要なことは、事業所がある地域にはどのような災害リスクがあるのか、について情報収集をしっかりおこなうことです。理想としては災害ごとにBCPを作成することですが、まずは一番リスクが高い災害の対策をおこなってから、少しずつ種類を増やしていく方が負担は少ないかと思います。
なお、国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、地域で発生しうる災害ごとに地図を色分けして視覚的に確認することができますので参考にしてみましょう。
<参考:ハザードマップポータルサイト|国土交通省

事業所内での連携が重要

ひとつの居宅介護支援事業所に複数のケアマネジャーが勤務している場合、もし災害が起こったら協力しあって担当している高齢者の安否確認をおこなうことが大事です。そのためには日頃から自分がどのような高齢者を担当しているのか、災害時には被災リスクが高いのはどの高齢者なのか分類しておくことが効果的です。
そのためには事業所内で安否確認をおこなう優先度のルールを決めておいたり、もし担当ケアマネジャーが不在でも情報が取り出せるよう取り決めをしておくことが有効です。また停電でパソコンが使えないことも想定して、利用者データを紙でファイリングしておくこともおすすめです。

最低限出来る業務を決めておく

災害時には、限られた資源を活用して業務を継続することが重要です。資源とは、日頃業務で使用しているパソコンや通信機器、車などが思い浮かぶでしょう。しかし、特に忘れてはいけないのは「スタッフ」です。もし大きな地震で地域が被災した場合、スタッフがどのくらい出勤できるかによって、対応できる業務が限られてしまいます。
少ない人数で、どの業務を優先しておこなうのか、どの業務であれば先送りしてよいのか、事業所内で共有しておく必要があります。
ちなみに、下の表は私の所属する居宅介護支援事業所の災害時業務優先表です。実際にこのとおり動くことは難しいかもしれません。ですが、災害発生時に混乱することなくあらかじめルールを作っておくことが職員の安心にもつながっていると感じています。

災害時に行う業務

新規受入業務は後回し

私たちが想定外の自然災害に見舞われたら、不安を感じて混乱することは当然のことです。ましてや、高齢で一人暮らしの方であれば、些細なことでも心配になったり相談に乗ったりしてほしいと思うでしょう。
実際、担当地区が水害に見舞われたケアマネジャーの体験談では、「災害時に少ない人数で対応しないといけない時ほど、担当高齢者からの緊急相談が多くなる」という例がありました。日ごろ高齢者の生活に寄り添った支援をおこなうケアマネジャーだからこそ、非常時に頼りにされるのも当然です。
そういった場合に、地域のケアマネジャーが優先業務に専念し、少しでも復旧の間接的な支援ができるように日本介護支援専門員協会や都道府県DWATチームが、災害地域へのケアマネジャー派遣をしています。介護支援専門員会の各都道府県支部や都道府県高齢福祉担当課などが窓口になっていますので、確認しておきましょう。
<参考:大阪府災害派遣福祉チーム(大阪DWAT)の設置について|大阪府

事業所に来なくても業務ができるようにしておく

災害時の出勤状況

この表は私の居宅介護支援事業所で作成している緊急時の参集に関する項目です。実際に洪水や土砂災害、地震による建物倒壊などがあれば、この通りに来れるかわかりません。また、せっかく事業所にたどり着いても停電により事業所で業務ができない場合もあります。

つまり極端な話になりますが、ケアマネジャーが担当高齢者の現状を把握し、必要なサービスや支援を調整することができれば、必ずしも事業所へ出勤する必要はないと考えています。二次被害のリスクが高いときに、あえてケアマネジャーを危険にさらさないということもBCP対策の一つと言えるのではないでしょうか。
そして、もし安全な場所で業務ができるのであれば、データや個人情報のセキュリティ対策のために、クラウド環境の構築をしておくことをおすすめします。
<参考:介護ソフトを 選定・導入する際のポイント集 - 厚生労働省

日頃からできるケアマネジャーとしてのBCP対策

災害対策において最も重要なのは、平時の備えがどれだけできているかに尽きます。つまり日頃から災害に備えて何をしておくのか、を考えることが減災につながるといっても過言ではありません。

避難場所と避難所の確認

避難所とは災害時に自宅で暮らせないときに一定期間過ごす場所をいいます。具体的には警戒レベルが一定以上になった時点で解放される体育館や公民館などが該当します。ケアマネジャーは担当している高齢者の避難所がどこにあるのか、どうやってそこまで行くのか、を確認しておくことが大事です。また、洪水や土砂崩れの被害があり避難所に行くことが危険な場合、自宅の2階や知人の家など安全な避難先も確保しておきましょう。

担当高齢者の優先順位を決めておく

ケアマネジャーが担当する高齢者は一人あたり30名を超えます。災害が発生したときに、安否確認や避難確認をどの順番で行うか、あらかじめ決めておくことでスムーズな対応につながります。

たとえば

  • 医療的ケアが必要で電気が止まると機器が使用できない人

  • 認知症で独居の人

  • 日中家族が不在で寝たきりの人

  • 高齢者夫婦の世帯

  • こども家族と同居している人

ここにあげた例だけでも優先順位は明確に決められません。ましてや対象者の年齢や介護度、住んでいる地域によってさらに順位は変動してきます。ですからケアマネジャーは事前に災害がおこった時を想定して高齢者やその家族と対応を相談しておき、客観的かつ専門的な知見で優先順位を判断することが重要です。

なお、地域によっては個別避難計画という災害時の支援方針を高齢者個々に自治会や民生委員が作成している場合があります。すでに個別避難計画があれば、その内容を確認したうえで、ケアマネジャーとしての対応を考えましょう。

地域ケア会議を活用しよう

地域ケア会議とは、市町村や地域包括支援センターが主催して開かれる地域内カンファレンスです。地域住民や民生委員、ケアマネジャーやサービス事業所など議題によって参加者は多種多様に設定されます。議題も「一人の高齢者の課題」から「地域が抱える問題」「自治体を巻き込んだ地域づくり」まで多岐にわたります。災害をテーマにした地域ケア会議も全国の色々な地域で開かれていて、高齢者の避難支援や防災対策などケアマネジャーとして地域住民と協働する貴重な機会となっていますので、機会があれば是非参加してみましょう。
<参考:地域ケア介護の概要|厚生労働省

まとめ

ケアマネジャーとして地域のほかの介護事業所のBCPを確認しておくことをおすすめします。なぜなら、いつも利用できていたはずのヘルパーサービスが制限されたり、緊急ショートステイが開放されたりするなど、災害時には想定外のことがおこりうるからです。つまりいつも通りのサービスが、災害時にも当たり前に提供されるとは限りません。

居宅介護事業所は直接介護サービスを提供出来ません。その代わり様々な情報がケアマネジャーにとっての武器になり、そして高齢者を守る手段になります。そう思うと災害を見据えて今すべきことは沢山あります。

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本記事はCloudBCPブログの転載です。 https://www.cloud-bcp.com/posts/%E5%B1%85%E5%AE%85%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E6%89%80%E7%89%88BCP%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8B5%E3%81%A4%E3%81%AE%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88

執筆者: 柴田崇晴
日本介護支援専門員協会 災害対応マニュアル編著者

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