【詩】扉

扉を開けると　きみがいた きみの後ろは暗闇で きみの笑顔だけが光だった それが眩しくて　僕は扉を閉めた 次に扉を開けた時　きみの顔は深海魚だった 暗闇に慣れすぎたのか 僕のことを視認できていなかったようで 不気味にブサイクにただ笑っていた そんなきみを抱きしめたくなって 僕は扉の向こう側へ一歩踏み出した 僕の気配を察したのか 途端にきみは走り去った そうか　そうか きみにとって僕は 無神経なほどに眩しすぎたのか 暗闇に取り残された僕は いつの間

【詩】飛行機雲

真っ青な空　どこまでも青く青く この時期にしては風も弱く　約15℃ 自転車でちょっと遠くへ 汗ばんできた　上着いらなかったな かぶっていたフードを脱ごうとして ふと空を見上げる 飛行機雲　飛行機雲　飛行機雲　飛行機雲 それらの連なりの先に飛行機み〜つけたっ どこへ行くのだろう 私もこれからどこへ行くのだろうか そんなことを考えながら 自転車に乗ってひたすらぶらぶらぶらぶら 疲れ切った体をあったかい布団で包み込み だらだらスマホをいじる　一日の終わり

【詩・掌編？】病院に行った

病院に行った ずいぶんと空いていた 受付に診察券を提出して ５分ほど待っていると名前を呼ばれた 「今日はどうしたんですか。この前のイボですか」 「いえ、イボは完治致しました」 「そうですか、よかったですね。それで、今日は一体どうされましたか」 「いえ、特に何ともないです」 「はい？」 「特に何ともないです。体に異常はありません」 「え、それじゃあ…… その、何のために」 「親や友達が口を揃えてお前大丈夫か、病院行けとおっしゃるので、ここにきました」

【詩】月の光

そういえばさっき　キミのお母さんが 帰り道だったのかな　殺されてたよ 最近話題だろ　この地域の通り魔 テレビでよく見る目撃情報と全く同じ格好で ばかみたいにナイフでメッタ刺しにしてたよ 夕方見たんだ　僕がキミの家に向かう途中でね 殺し方は下手くそなのに　逃げ足だけ速かった 狂ったように刺してたね　圧巻だったよ 狂ったように喘ぎやがって　なあ 本当はなんとなくわかってたんだろ なんとなくわかってたような顔しやがって お母さん、今日帰り遅くなると思うから、ね

【詩】トンビ

池に幼女の小指を投げる すかさず２匹のコイがそれに食いつく 小雨によって無数にあけられた水の表面の穴に 波が被さっては消える　を繰り返す トンビが上から見ている　トンビが上から見ている 池の底には昨日やった肉片が沈んでいる 何の肉かも分からんほどに腐っている 後ろから物干し竿が落ちた音がした 靴の中に入った砂利の感触を 足裏で弄んでいるうちに頬が濡れた ２匹のコイはやがて１匹の巨大なコイとなった トンビが上から見てる トンビがつかんでいたガラス板をはな

えらいね〜のうた

「彼氏と仲直りしました！」 え〜ら〜い〜ね〜　え〜ら〜い〜ぜっ 「東京の大学受かりました！」 え〜ら〜い〜ね〜　え〜ら〜い〜ぜっ 「上司に褒められました！」 え〜ら〜い〜ね〜　え〜ら〜い〜ぜっ 「話題の映画観てきました泣きました！」 え〜ら〜い〜ね〜　え〜ら〜い〜ぜっ 「カラオケ90点出ました！」 え〜ら〜い〜ね〜　え〜ら〜い〜ぜっ 「旅行先で新たな発見云々しました！」 え〜ら〜い〜ね〜　え〜ら〜い〜ぜっ 「『ドグラ・マグラ』読み終えました！」 え〜

【閲覧注意】俺と椅子

俺はあの女の子が座ってる椅子になりたい でも椅子はそんなこと思ってないだろうな 俺はどうしようもない人として こんなことを思うのが当然であるように どうしようもない人であるわけで 椅子は椅子として当然であるように ただの椅子であるわけなんだ だから仮に俺があの椅子になったところで 俺は椅子以上のものにはなれない　虚しいね ああ　女の子よ　俺の顔面に座ってくれ

掃除機のホコリ

凸凹な歩道を歩く 目の前の歩行者信号が点滅する 凸凹な歩道を歩く 犬がいつもと違う所で糞をする 凸凹な歩道を歩く 部屋の天井に貼り付けられた白色 凸凹な歩道を歩く 鼠の死骸を空一面に引き伸ばす 凸凹な歩道を走る 少女が透明な小便をする 凸凹な歩道を走る ウェットティッシュを食べる 凸凹な歩道を歩く 個人情報が書かれたハガキだけが届く 凸凹な歩道を歩く 紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚 凸凹な歩道を走る 紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚紙魚

雪国というほどでもないが

30分ほどの眠りから覚めると雪国であった どこなのかよくわからない 真っ白な田んぼがただ広がるだけの光景を 心地よく揺れる電車の窓から　ぼんやりと 次は駅到着のアナウンスで目が覚めた 真っ白な町に降り立つ 吐き気を覚えるほどに寒い 冷たい空気が厚着を貫通して 腹に体当たりを繰り返すせいだ 本当は　本当は来たくなかった 今朝　胃の底にあった不安の種から 発芽したモノがすくすくと伸びる その動きを感じた ああ　こんなに寒いというのに 順調に成長しやがっ

漠然としている一方で実は割とちっぽけな不安とそれに対する明日の私の想定される怯えを少しでも落ち着かせるための少しばかりの予防的な記述

漠然としている一方で実は割とちっぽけな不安とそれに対する明日の私の想定される怯えを少しでも落ち着かせるための少しばかりの予防的な記述を開始する 明日の私は　まず　いつもより２時間ほど早く すなわち　７時半に目覚める 明日の私は　いつもとは異なり＂何も考えず＂ 洗面所へ赴き　歯磨きを開始する ぐちゅぐちゅ　ぺっ　をいつもより２回多く すなわち　５回行い歯磨きを終了する 次に　いつもなら歯磨きの前に行うはずの 放尿を開始する　このとき立ち小便 さて　朝に特にやる

ネガを描く (Rap ver.)

友達や恋人との楽しい食事の報告を 満面の笑みでネットに投下する皆様方 こんばんは！　奥野田です ラップします 満面の笑みで目指すは敵無し世界 実に素敵で　スケールはデカい 願い下げですねとキラキラお星様 ってかアンタ誰　どちら様で？ ハロー　アイム　フローム トナリアワセ　シアワセトジユウ　 エーケーエー　リソウノチキュウ やたらおしゃれな机上の写真 それら残したら　よこせお年玉 お金よりもかけがえのないものって なんですか　愛と勇気は友達ですか

去年の今日の私は、しゃぶしゃぶで肉を食べすぎて死にかけてました。