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青柳いづみこ 「花を聴く花を読む」(2021年12月刊行)~百合の章(ロセッテイ、漱石、ドビュッシー)を中心に

フランス音楽の演奏家にしてエッセイストである、青柳いづみこさんの最新作「花を聴く花を読む」。「華道」の連載を加筆修正して単行本化したもの。薔薇、ミルテ、睡蓮、すみれ、菊など、花にまつわる文学と音楽について綴ったエッセイ。

 特に「百合」の章で、ロセッティの詩と絵画「選ばれた乙女」、漱石、そしてドビュッシーとの関連が印象に残った。

 夏目漱石はドビュッシーの5歳下にあたる。1900年頃ロンドン留学して1902年末に帰国するまで何度もナショナルギャラリーを訪問し、そこに展示されているラファエル前派の影響を受けた。漱石の「夢十夜」の第一夜は、ロセッティの詩と絵画「選ばれた乙女」からインスピレーションを受けている。詩と絵画「選ばれた乙女」は、天国の金の手すりに持たれた美しい乙女が三本のユリを持っている。

 夢十夜では百合と美しい乙女はこのように描写される。

 長い髪でうりざね顔の女が亡くなった後、彼女の墓石から青い茎が伸びてきて、主人公の男の胸あたりでとまった。

「と思うと、すらりと揺ぐ茎の頂だきに、心持首を傾ぶけていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂った。そこへ遥かの上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴したたる、白い花弁に接吻した。」

 墓石から百合が咲く。百合は純潔の象徴なので亡くなった女は穢れなき女性なのか。墓場というのが不気味だけど男が百合に接吻する場面はロマンチックですね。

 ところかわって、ラファエル前派が好きだったドビュッシーもロセッティの詩と絵画「選ばれた乙女」をもとに独唱と語り手、女声合唱によるカンタータを書いている。ガブリエル・サラザンが仏訳したロセッティの詩は、天に召された乙女が地上に思いをはせるという内容で、オーケストラには透明感があり、静謐なハーモニーが乙女の歌を優しく包み込む。

 この曲はフランス語の独唱と合唱が本当に美しくて愛聴しています。特にデセイさんのアルバムで。漱石とドビュッシー、今まで連想が繋がらなかったけど、意外と趣味が合う二人かもしれませんね。


●La damoiselle élue

https://www.youtube.com/watch?v=NVz2zox7AMI

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