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coming out of the closet《Club with Sの日 第7回レポ》

半年ほど前。
ノンバイナリーを自認してから少し経ち、ジェンダー関連の記事を積極的に読むようになっていた頃。
ファッションについて扱った記事で、ある単語に目が釘付けになった。

“Agender”

エイ、ジェンダー……?
なんじゃそりゃ!!
聞いたことがないし、ノンバイナリーとはまた違うものなのか?
気になって調べてみる。

直訳すると“無性”。
性別(gender)が無い(A)。
男女の性差ではなく“個”を尊重する。

あ、これ、自分だ……
見つけてしまった!!
男女どちらにも属さないジェンダー・アイデンティティであるノンバイナリーを自認してきて、今まで自分がパッと性別を答えられなかったのは、中立的(ジェンダー・ニュートラル)でも流動的(ジェンダー・フルイド)でもなく、性別が無かったからなんだ。
ノンバイナリーは包括的な概念だから、どこかふわっとしたイメージだけど、Aジェンダーは違う。
くっきりしている。
わかる、わかる!!
突然解像度が上がった喜び。
目の前の霧が晴れた清々しさ。
「誰に説明しやすくなる」とか、そんなのどうでもいい。
自分がしっくりくる。
これ以上の安堵があるか……!!

記事ではAジェンダーを自認するモデルさんの活躍が取り上げられ、ファッション業界のジェンダー多様性について語られていた。
ジェンダーレスな表現をいち早く発信してきたファッション業界。
この記事をきっかけにファッションへの興味が増し、Instagramで色んなブランドをフォローしては、投稿されるユニークなデザインを楽しんだ。
おそらく一生手にすることはないハイブランドのコレクションを観て、何がそんなにおもしろいの? と思われるかもしれない。
でも、いつの間にか自分にとってファッションは、身に付ける“アイテム”ではなく、鑑賞して味わう“アート”になっていた。

ジェンダーとファッションが同時に語られること。
それには、「ジェンダー・アイデンティティがファッション化されるのではないか」「脱ぎ着できるものだと誤解されるのではないか」といった懸念が付いてくる。
だけど、自分はファッションをテーマにした記事のおかげでAジェンダーを知ることができたし、当事者と出逢うことができた。
そして何より、自分のアイデンティティを見つけられて救われた。
だから、感謝している。
多様なジェンダーを表現してくれたファッション業界に、心から感謝しているのだ。
さらには、ファッション雑誌やブランドのサイトで“ノンバイナリー”だったり、男・女以外のジェンダー・アイデンティティを表す単語がもっと自然に登場すればいいな、とも思っている。
それをきっかけに調べる人もいるだろうし、結果的に本人が自認する・しないに関係なく、存在が可視化される意義は大きいから。

しかし、これはあくまで自分の意見。
他のノンバイナリーの人たちはどう捉えているのだろう?
聴きたかった。
そのためのClub with Sの日《ファッション特集》である。

……長い!!
相変わらず本題に入るまでが長い(笑)

8月4日21:30
新メンバーの方も来てくれて(ありがとうございます!!)、ミーティングを開始する。

印象的だったのは
「服装を選ぶ時に、どのような自分orジェンダーを表現したいか、ということと同じくらい、それを表現できる環境であるかどうかが重要」
という意見。

確かに。
例えば、そこが鍵をかけた自分だけの部屋だったなら。
僕らは本当に着たい服だけを着て、自由に自己表現をするだろう。
例えば、そこがClub with Sでのオンラインミーティングだったなら。
「ネクタイをしてパンツスーツを着るって、男性寄りになりたいの?」とか「スカートを履くなんてノンバイナリーらしくないよ」とか、誰も言わないし、誰にも言わせないから、ビデオONにして堂々と私服紹介ができるかもしれない。
でも
例えば、そこが親戚同士の集まりの場だったなら。
滅多に会わないしそこまで親しくはないけど、他人でもない相手に囲まれて、僕らは開放的でいられるだろうか。
おそらく、周りからジェンダーをどのように捉えられるか、どのような誤解を招きかねないか、ということを綿密に計算して、かつ、ありのままでいたいと望む自分の気持ちとも相談しながら、その一枚を選択するのではないだろうか。

だからこそ続けて飛び出したこの意見。
「選択肢がたくさんあること、そしてそれをすぐに選べることが特権である、ことにすら気付いていない人がほとんど」

ある人は、たった数秒でその日着る服を選んでいるかもしれない。
一方、ジェンダーについて悩んでいる人は、何時間も、もしかしたら何日もかけて考え、何度も試しながらその一着に行き着いているのかもしれない。
少し当事者の立場に立ってみれば、想像できる光景だ。

ミーティングの参加メンバーと話していて嬉しかったのは、自由に自分を表現できる場を求めていたのが一人だけではなかったこと。
そんな空間があったらいいな、そんな空間をつくりたいな、とちょうど考えていたところだったから(笑)

“coming out of the closet”

僕らは確かにクローゼットから飛び出した。
でも、クローゼットの中に大切な服を置いてきてしまった。
だから、今度は自分だけの表現を取り戻す旅に出よう。

ファッションだけじゃない、ヘアスタイルやメイクアップ、言葉遣いや所作、ジェンダー表現と関係している全ての要素に、もう一度向き合いたい。
──本当に自分が望んでいる姿は、何?

心配しなくていい。
模索している人間はひとりじゃないから。
Club with Sに来れば旅の仲間と出会えるし、きっとヒントを見つけられる。



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