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#10 一道は万藝に通ず。 140人の手元に渡ったオリジナル竹刀袋を作った話 vol.1


この竹刀袋を持ち歩いている人を見かけたら、その人は生地胴倶楽部メンバーです。
ありがたいことに、オリジナル竹刀袋「一道万藝」は好評を博し、約140本が販売されました。オリジナルの同一デザインで一時期にこの数の竹刀袋が人の手に渡ったのは、結構すごいことだなと素直に喜んでいます。
審判旗袋も作成し、次は…手拭いでしょうか??

■不器用でも続けられたこと

私はマルチタスクが使えない不器用な人間です。
運動神経も鈍くて、運動会やマラソン大会が苦手な子どもでした。
大人になってから走ることを少し覚えましたが、膝がよくないこともあって球技はダメです。子どものころ野球をやっていたので、ボールを投げてバットを振るくらいはできますが。

まわりに釣られたりしながら、何かに手をつけたこともあったのですが、結局剣道に戻ってきてしまうのは、不器用でも継続すれば何かしら進化(深化)できることを感じるからだと思います。

■継続することの大切さ

継続は気づかぬうちに自信となります。剣道の継続により得たモノが自分の人生をどれだけ豊かにしてくれたでしょうか。
生きていく中で直面するさまざまなイベントと向き合い、乗り越え、作り上げるときに剣道の継続が役に立っていることに案外気づかない剣道愛好家は少なくありません。

「剣道を継続している」という事実だけでもすごいことなのだと、自画自賛してもいいと思います(ただし、あくまでも自画自賛に留めておきましょう)。
ちなみに私は、剣道を継続したことで様々なことに影響があったことを題材に、母校で高校生を相手に講義をしたことがあります。それはまた別の機会に書いてみたいと思っています。

■継続により得られるもの 「一道は万芸に通ず」


「一道は万芸に通ず」という言葉があります。
宮本武蔵が五輪の書に残した言葉で、「ひとつのことを極めると、その道理は、あらゆることを熟達する力につながる」という意味です。

稽古により次の段階に進んでいくために辿った過程は、剣道だけではない他の物事にも置き換えることができる。物事の解決に剣道が役立つことがある。
―そういう経験をしたことがある人は少なくないはずです。

一方で、私がこの言葉を知る前から好きだったエピソードがあります。
「ワインに詳しくなりたかったら、自分にとってのとっておきのワインを見つけることだ。探す過程で自然とワインに関する知識が蓄えられられていく」
「一道万芸」とは逆説的でありながら、通じる部分があるように感じています。
何かしんどいことがあっても「なんとかなる」と思えるのも、続けてきたものがあるおかげかなとつくづく感じます。

また、万芸に通じるための道を学ぶということ=道理を知ることでもあります。
視野を狭め、周囲を見下したり、人を選ぶための一道ではなく、道理を知れば知るほど、自分以外の物事、思想、人を寛恕するということにつながるはずだという理想もこの言葉の意味のひとつであると思います。
私は何も極めていませんが、とりあえず「極めてみたい」と案じながら40年以上にわたり続けてきたものはムダではないと信じています。

■仲間と会えない閉塞感、繋がり、解放への願いを形にしたい

コロナ禍が始まり、剣道の稽古も中断せざるを得なくなった期間がありました。
私が管理人として運営する生地胴倶楽部でも不定期ながら年に1~2回のペースで稽古会を開催していましたが、それも叶わなくなると、なにかでこの閉塞感を乗り越え、また解放のときをみんなで喜び合える象徴のようなものがほしいと考えました。
そこで思いついたのが、倶楽部オリジナルの竹刀袋の作成であり、「一道万芸」の揮毫を入れることでした。

竹刀袋は、カッコいいものであることは当然ながら、「他では手に入らないもの」「自分ではそういうデザインのものは求めないけど、企画モノとしてならアリと思えるもの」「派手過ぎずに目立つもの」などのコンセプトを考えました。

制作をお願いしたのは、私が全幅の信頼を寄せている「絵布乃工房」さんです。生地のサンプルなども見せていただきながら、袋自体が生地胴の雰囲気を思わせるものとしました。
●生地の素材は、乾燥させた生革のザラっとした手触りと質感を思わせる酒匂袋風のもの
●色は、生地胴というジャンルにおいて普及率が最も高く親しみやすい(と思われる)拭き漆胴のオレンジと、元来の素地のクリーム色のどちらかを使う
●三本入れ以上の大容量のものとし、実用性を確保

品質において一切の妥協をしない絵布乃工房さんは、これ以上のことは何も言わなくても、質感高く丈夫な袋を作ってくれるので、デザインと三本入れであること以外はお任せでした。
拭き漆の色と素地(塗り下)の色は、ベースの色と揮毫の刺繍糸の両方に使うことで、どちらも叶えることができました。色のバランスもうまく取れました。

画像提供  絵布乃工房
竹刀袋の生地の色見本
刺繍糸は素地の胴台の色々をイメージ

■一道万「藝」は誤字??

画像提供  絵布乃工房

竹刀袋の「一道万藝」の文字は、私が書いたものです。
お気づきの方はいるでしょうか?
一道万芸ではなく、一道万藝であることに…
「芸」ではなく「藝」にしたのは、旧字体を用いたということだけではない理由があります。

そのことは次回以降に。

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