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CoCo壱サディスティック

激辛好きは馬鹿?



私は激辛料理が大好き

この話をすると「『辛さ』は味覚じゃなくて痛覚だから激辛好きなヤツは馬鹿」などと、したり顔で抜かす頓珍ボーイ&ガールがいるが大きな間違いである

SMのSにあたる「サディズム」の語源になった、フランスの小説家
マルキ・ド・サドの名言にこんなものがある


「快楽とは苦痛を水で薄めたようなものである」

マルキ・ド・サド
(1740~1814)


この言葉、裏を返せば
苦痛を水で薄めれば快楽のようなものになる
とも捉えることができるのだ

適量の飲酒は快楽をもたらすが、過度な飲酒は苦痛であることをイメージしてもらえると理解しやすいだろう


つまりこの世で「苦痛」とされるものは、ある一定のレベルまで落とせば「快楽」になりえるといえる

我々激辛・フリークスは「辛い辛い」などとのた打ち回りながらも実は「快楽」を得ているのである

この「快楽」と「苦痛」のギリギリのラインを見極めるのが激辛料理の真の醍醐味なのだ


CoCo壱との戦歴


筆者は過去に8辛(1辛の16倍)を1回10辛(1辛の24倍)を2回完食している

2回目の10辛に関しては衆人環視のもと、水なしで完食した

10辛は長らくCoCo壱番屋で最も辛いメニューであったが、ここ最近15辛(1辛の36倍)、20辛(1辛の48倍)が立て続けに追加された

CoCo壱の辛さ一覧表

激辛好きとしては20辛に挑戦しなければ噓だろう

20辛への挑戦権を得るには15辛を完食する必要があるので、あくまで通過点として15辛に挑戦することとした

ゴタ御託を並べたがCoCo壱の15辛カレーレポである


暴れるハリネズミ


〽天高く馬肥ゆる

雲ひとつない快晴のもと、心地よい風が吹き、自転車を漕ぐ足取りも軽やかである

12時前の店内に客の姿はない

恐らく一番乗りである

店員に促されるまま窓際のカウンター席に座った

その日最初の客が珍妙な注文をすることに、若干の気まずさを感じつつ、呼び出しベルを押す

「ロースカツカレー、ご飯の量は普通で、辛さは15辛でお願いします」

「はい~、15辛ですね~」

思いのほか淡々とした店員の対応に拍子抜けしつつ、カレーの到着を待つ

数分後、

お待たせしました~

相変わらずの淡々とした口調とは裏腹に、明らかにただものではないカレーがテーブルに置かれた

通常CoCo壱のカレーといえばサラサラとしたルーが特徴的であるが、明らかに粘度が高いのが見てわかる

とはいってもこの特徴は10辛にもあったものだし、そこまで取り乱すことはなかった

期待と不安と緊張が入り混じる一口目




苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛苦痛



舌にワニ口クリップを噛ませて高圧電流を流されたような衝撃が疾走る

ワニ口クリップ

あーーーーー、完ッ全にダメなヤツだこれ

もう笑っちゃうくらい余裕で苦痛である

体中の毛穴が開き、不快な脂汗が滲む

さっきまで「激辛料理の真の醍醐味~」などといって能書きを垂れていた自分をグレッチで殴(ぶ)ってやりたい

電流の衝撃の後は、口の中に小さなハリネズミを放り込まれたかのような鋭利な痛みが口中を蝕む

暴れるハリネズミをなんとか咀嚼し、飲み込む

鋭利でいて生温かい痛覚が食道を通過し、胃の位置を実感させる

食べ進めるほどに、身体が熱くなっていく

しかも、窓際の席なことが災いし、日が照りつけてすごく暑い

こんな伏線回収はいらん

とめどなく溢れる脂汗の雨は、頬を伝い激辛の海に滴り落ちる

後悔義務感だけで食べ進める

痛いーーー

ご飯とカツばかり食べてしまい、ルーが残りがちになっている

辛(つら)いーーー

「焼け石に水」の言葉の通り、水はほとんど役に立たない

止まりがちなスプーンをなんとか口に運ぶも、ほとんど減らない

普段はほとんど食べることのない福神漬けの力を借りつつ、息も絶え絶えでなんとか完食した

着席時、満タンだった水のピッチャーはほとんど空になっていた

完食の図

もっと綺麗に食べろという指摘もあるだろうが、本当にこれが精一杯だった

会計の際、喋ろうと思っても喉が潰れていて、
思うように声が出なくて驚いた

「…ひーろぃらなぃれぅ」 (レシートいらないです)

「ありがとうございました~」

相変わらず店員は淡々としていた

扉を開けるとさっきまでの苦悶が嘘みたいに
気持ち良い秋風が吹いていた

戦いを終えて


20辛への通過点として挑戦した15辛だったが、なんのことはない
ただの苦痛であった

「恐らく20辛を食べることは金輪際ないだろう」

隣のコンビニで買った飲むヨーグルトで口と喉の患部を冷やしつつ
そんなことを考えた


本文は秋ごろに書き始めたものの、卒論に忙殺されてずっと放置していたのを今頃完成させたものでした

拙文に最後までお付き合いいただきありがとうございました





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