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眠れない夜は”反出生主義”について考える

品田遊「ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語」を読了した。

予約注文して発売直後から読み始めたのにもかかわらず、読み終わるまでに5ヶ月も経ってしまった。枕元に置いて眠れない時に読んでいたから、なかなかページが進まなかったのだ。

時間はかかってしまったけれど、寝る前に読む本としてかなり適した本だと感じた。反出生主義について考えているうちに、いつの間にか夢の中に落ちてしまうから、何度も眠れない夜を救ってもらった。

この本は、人類を滅ぼす使命を持つ魔王とその召使い、そして、様々な主義を掲げる10人の人類によって進んでいく物語だ。「なぜ自分が人類を滅ぼさなければならないのか」と疑問を持った魔王が、10人の様々な主義主張を持つ人類を集め、「人類を滅ぼすべきか否か」を議論させる。そして、魔王を納得させる根拠のある結論に従う、というルールのもと話は進む。

悲観主義者、楽観主義者、共同体主義者、自由至上主義者などがいる中で、反出生主義者の主張を中心とした議論が展開されていくのだが、お恥ずかしながら、私は「反出生主義」というものの存在を、この本を読むまで知らなかった。

反出生主義は、その名の通り、「人間は生まれてくるべきではない」という思想だ。もちろん、反出生主義者は「人類を滅ぼすべき」という立場で登場する。

私は特に「生まれてこなければ良かった」と思ったことはほとんどないし、「人間は生まれてくるべきではない」なんて考えたこともなかったのだけれど、反出生主義者の主張を読んでいると、「人を産み増やすことは倫理的・道徳的によくないことなのではないか」という気分にさせられてくる。

主張に納得させられることも多く、私がこの場にいたらどうするのだろうかと考えてみたけれど、どこか「それは違うんじゃないか」と思う部分があるのに、それをうまく言語化できないもどかしさを感じた。

なぜ納得させられてしまうのか考えた時に、「生まれたら死ぬだけなのに、なぜ人は繁殖を繰り返すのだろう、それになんの意味があるのだろう」と、心のどこかで疑問に思ったことがあるからなのではないかと思った。誰しも一度はそんなことを考えたことがあるんじゃないだろうか。

その証拠と言ってはなんだけれど、話を読み進めていくうちに、私はその時に感じていた不安な感覚を思い出した。宇宙空間のような暗闇にぽっかりと浮かびながら、はるか遠くに見える人類の営みを、ひとり寂しく眺めているイメージが重い浮かんだ。

そんな風に言うと、「読むと不安になる本」のように思えてしまうけれど、これが不思議とニュートラルな感情で議論の行く末を見守ることができる。取り乱したり、人の話の腰をおったりするような登場人物がおらず、今から自分たちが滅ぼされるかもしれないなんて微塵も感じさせないからかもしれない。

反出生主義という難しい題材を扱いながらも、重くなりすぎていない。かといって、軽いというわけでもない。だから寝る前に読むのに適していると感じたのだろうか。気分の浮き沈みに関係なく読むことができて良かった。

しかし不思議なことに、読み進めているうちは反出生主義について理解したつもりになるのに、読み終わってみるとよく分からなくなってしまう。どういうことだったか改めて説明しなおそうとすると、なんだかちょっとずれた説明になってしまって要領を得ない。一回読んだくらいで理解できるほど、私の頭は賢くできていないというだけなのかもしれないけれど。

反出生主義への理解を深めるためにも、紹介されていた参考文献に当たっていくのも面白そう。ある程度理解したのちに読み返したら、また違った見方ができそうな気がする。

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