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五十嵐誠一・酒井啓子(2020)『ローカルと世界を結ぶ』岩波書店

本書は「グローバル関係学」シリーズの第7巻である。重視されるべきは、グローバルとローカルの間の意味の交換と相互作用である。グローバリゼーションによって、ナショナルに抑圧されていたローカルが、グローバルと手を組んで、もしくは、グローバルな舞台で行動することによって、自らの主張や利益を訴えるという現象は、今日では自明のことである。
また、グローバルの側でも、ナショナルを飛び越えて、自らの規範の魅力をローカルに訴えかけるという手法も自明のこととなっている。
このようなグローバル・ナショナル・ローカルを垂直的・階層的なものとするのではなく、それぞれの間の6通りの「関係性」について着目し、豊富な事例研究をもとに説得的に叙述した論考によって成り立っているのが、本書の特徴である。

主体中心主義から関係中心主義への視座の転換を謳う「グローバル関係学」では、トランスナショナルな主体の制度化の度合いや、国家主体の政策決定過程そのものに着目するのではなく、規範の拡散・定着を巡り繰り広げられるさまざまな関係のなかで、それらの主体が掲げる規範や行動形態がどのように変化し、どのように解釈されていったかに焦点を絞る。

本書:p.9

つまりこれは、制度論や政策過程論といった手法が見落としがちな、一定の「関係性」を有するアクターの間での規範のすり合わせ、または利用に焦点を当てることを意味する。
公的機関と異なり(一部例外はあるが)国際NGOなどは、その存立基盤となる一定の規範性をもって、ナショナルを飛び越えてローカルの問題解決を図ることが多い。しかしそこには、それぞれの地域における「規範の翻訳」といった問題がある。逆にローカルな側でも、グローバルな国際NGOや国際機関の規範を利用して主体的に問題解決を図ろうとする。
ナショナルを飛び越える(もしくは迂回する)。
これが、グローバリゼーションがわれわれに与えた現実である。

現代のトランスナショナルなネットワークがナショナルな境界を跨ぎ超えるだけではなく、サブナショナルな行為主体がナショナルな境界線を迂回して飛び越える、より跳躍性を持ったつながりを分析対象に含めて論じることから、「国際/インターナショナル」ではなく「グローバル」の用語を使用する。

本書: p.9

日本社会は得てして、いまだ「国際」の視点からの理解に拘泥しているように思われる。もちろん、ハイポリティクス(安全保障)などの分野ではいまだに「国際」的な世界が存在している。
しかし他方で、ローポリティクスの分野や非伝統的安全保障の分野では、「国際」的な視点では十分に説明できない事例が多い。
さらに言えば、自治体の国際交流などのソフトな分野や学術界などでは、人と人との「関係性」が基軸となり、物事が動いている。そこに行政区分的な境はない。
私が所属する「国際学部」は英語名だとFaculty of Global and Regional Studiesとなる。両方合わせれば、多様な視点を包摂したものであることがわかる。(「国際学部」という名称は、設立当初、人気のある名前だったからだろう)。
「関係性」への着目は、人々を垂直的な世界から解放する。グローバル化は「フラット」なのであり、いかにネットワークのノードとなり、リンクを増やすかが重要なのである。

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