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Back to the world_015/5歳までを繰り返して水上を歩く

「あ。でもずいぶん前のちっちゃい頃ーー5歳くらいの頃の話なんでそう言われると記憶がアレなんだけどさ…」
「いやいやジェリー、俺らの歳を3つに割った場合の1/3ぐらいの頃の話でしょ、ずいぶん前じゃないだろそれは」
「うん、ーーえ、何?どういうこと?『3つに割った場合』って?…いや、でもなんだかほんのちょっと前みたいな気がして来た、全然根拠はないのに」

「佐内ちん、賢そうに言うからだよ」
純に追い討ちされた佐内はショーグンを軽くヘッドロックした。
「ショーグン、こら!」
「いてて、佐内ちんは5歳の子供が3回生きてる人ってことじゃないの?もしかして!ははは」
佐内はヘッドロックをしたまま、しばらく動きを止めて考える。
「…ははは!それ面白いね!いいじゃん。なるほどそういうことか、気に入った。俺は大人になれる気がしないもん、5歳を何回もやってる気がする、ははは」
大人になれる気がしないのは純も同じだったが、話を進めたいのでそれについては触れずにおいた。

「ハハッ。それが、兄貴たちと川で遊んでてさ」
「えっ、ジェリー兄貴いたの?」
「うん。もう一緒に住んでないけどね」
「いくつなの?お兄さんは」
「20…1かな?いや、2か」
「へーっ、じゃもう一人暮らしって感じだったり?」

「そんなとこ、ウン。そうだね…俺さ、水の上を歩いたんだよね」
「出た!ジェリーってトートツ?だよね?川が二つに割れたの?」
「いや水面を」
「佐内ちん、聞こう聞こう」
「ん。俺はそのあとしばらくしておじさんちの横へ引っ越して来たんだけどさ、そん時は夏休みで遊びに来てたのよ。あ、俺東京で生まれて北陸で育ってんのね」「言ってたね、日本アルプス見えてたって」

「うん。でその水上歩いた川ね、今住んでる近所なんだけど」
「え、俺も今度行って試したい」
「いや川が特別ではない、普通の川」
「ではジェリー選手が特別?」
「やっぱりショーグン、悪いなあ!まあいいや、ははは。そんでそんで?」

「悪いよね、ハハッ。そんでね、浮き輪なかったんだけど、そん時の俺の首ぐらいの高さの川なのね、で兄貴が見ててやるから飛び込め、っつってーー。
俺岩の上で迷ってたんだけど、ふと水面が滑らかな瞬間があって、歩ける!って思ったのよ。岩の上って言っても高いとこじゃなくてさ、水面と高さ同じぐらいの。
そんで足を出したらさ、二歩三歩、って歩けて」

「えーーっ?!」

「その時俺びっくりしてさ、兄貴もこう、抱き止める手を出したままびっくりした顔してた、そしたらその瞬間、ドボン!って体が沈んで…」
「えええ!それなんかさ、自信がなくなったから落ちたんじゃないの?」
「あ、僕もそう思う!そう思った!」
「やっぱり?!俺もそう思ったんだよ!なんか気づいてさ、感じ変わったんだよ!『アレッ?!』て。ーーで四歩目行けたようなダメだったような…って感じで沈んだんだよね」

「あるよ、それ!俺鳥肌立った!」
「ハハハ、佐内ちん大丈夫かよ?嬉しいけどそんなにハマッてくれると俺怖いな」「子供は純真だからあるかもしれないじゃん」
「僕もそれあると思うな、まさか佐内ちんが『純真』なんてこと言うとは思わなかったけど」
「ショーグン悪いよねー!ははは」
「ふふ、すいません。それは、一度きり?」

「うん、もちろん。俺焦っちゃって溺れるみたいになったから、兄貴も焦って大変だったって記憶があるな。
でもしばらくは話題にしてたよ。実験もした、もちろんドボンッてなってたけどね」
「お兄さん今も憶えてるのかなあ?」
「うん。いやあんまり話さなくなっちゃったな、もう家にいないし。でも憶えてるはずだ」

「そうかあ、その川今度ぜひ行ってみないとな、俺自信あるな、なんつっても5歳だから!」
「うん、でも佐内ちん逆に水に潜れなかったりしてね、5歳でもやっぱり心が汚れてるから弾かれちゃって」
「何?今日のショーグン、タヌキがついてるんじゃないの?」
「やめてよー、僕だいたいこんな感じだよ、ふふ」

「でもこの話気に入った!俺はないんだよ、そういうの全然。プール始まったらやってみよう、5歳児として」
「鴨沢に竹刀で沈められちゃうよ」
「『ポーズをとれウェーイ!』ははは。あいつ、柔道の時に『船島の小天狗とはワシのことじゃい!』つってさ、態度悪い先輩を投げ飛ばしたんだって!」
「ははは!はははは!え?『船島』って?もしかしてここ出身なの?あいつ故郷の高校の先生になったんだ?」
純は鴨沢の鴨沢らしさに爆笑した。

「いや、僕はそうじゃないって聞いたけど?確か九州だったはず」
「ええっ!いい歳してそんな、出身地でもないのにそんな?ええー?あの酔っぱらい!ははははは!」
純は佐内とショーグンのやりとりを笑って見ていたが、早く話を進めたい気持ちも少しあった。

「あ、そういえばジェリー選手、なんか他に確かめたい事があるって言ってなかったっけ?」
「んっ?!…ああ、言ったっけ?俺」
「ショーグンもうやめようよ、ジェリーに『選手』ってつけるの。だいたい選手じゃないし」
「ははは。いやいや、そうだね…じゃあ、『ジェリー』、続きを」
「『じゃあ』っていいね、ショーグン!」
佐内がショーグンの脇腹をこづいた。
3人は笑いながら、胸の内を暖かい湯が流れたような感覚を感じた。■


とにかくやらないので、何でもいいから雑多に積んで行こうじゃないかと決めました。天赦日に。