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【エッセイ】密室劇のダイゴ味

 近年では、CGの進化によって映像作品のアクション・シーンなどが、迫力あるものになってきました。ストーリーのテンポも速くなり、昔のドラマ10回分くらいの情報が、1話のなかで怒濤の如く流れたりします。
 そうした現代的な作品とは対極的に、一場のなかの台詞重視でみせる密室劇は、意外性のあるストーリー展開がダイゴ味になります。
 そんな密室で展開する映画作品を集めて、分析してみました。
(できるだけ、ネタばれを含まないよう注意しましたが、若干内容にふれています)

完全な密室劇「エグザム」

 密室劇とは言っても、舞台劇とはちがって映画では回想シーンなどで、他の場面が挿入されるのがふつうだ。
 しかし、2009年のイギリス映画「エグザム」は、本当に場面は試験室とせいぜい廊下まで。舞台でもできる完全な1場でのやりとりだが、映画なので結構動きがあるように感じる。

 やや近未来風の部屋に集められた、8人の男女。 
 これから就職試験を受けるのだが、これが巨額な年俸を保証される合格か、交通費だけを支給される失格かの分かれ道。

 クセの強そうな求職者たちが、机の上の試験用紙を開くと白紙。当惑しながら周りを見回すと、どうやら全員白紙らしい。
 事前に提示されたルールを破ると、即座に強勢退場になるいっぽう、席を立ったり会話しても咎められないことがわかる。

 落伍者を出しながらも、求職者たちは一端休戦し、協力して「問題はなにか?」を探り出そうとする。
 エスカレートしていく求職者の行動は、やがて・・・

 単なる就職試験が、最後は世界を救う話にまで昇華する、展開の妙が味わえる作品。(U-NEXTほかで配信)

集まったのは誰?「キサラギ」

 優れた密室劇は日本にもある。  
 2007年の映画「キサラギ」は、舞台や小説化もされた傑作。

 自殺した売れないアイドル如月ミキの一周忌に、追悼企画で集まった5人のファンが、本当に自殺だったのか? という疑問から推理を巡らす。
 回想シーンなどで別の場面の挿入があるが、概ね5人が集まったペントハウスで物語が進行する。

 限られたスペース、限られた情報から推理が進行する。そのキモは集まった5人の正体。
 徐々に明らかになっていく5人の本当の姿によって、自殺したアイドルとの真の係わりと、事実が少しづつ明らかになる。

 他の密室劇作品でもそうだが、集まった人たちの中に正体を隠した人物がいたりするのが、結構ポイントになることが多い。
(なんやかんやで動画配信はなし。残念! ツタヤでDVDレンタルできる)

「ソウ(Saw)」どんでん返しの傑作!

 2004年のアメリカ映画「ソウ(Saw)」は、ホラーとかスプラッターに分類されることもあるが、どんでん返しの傑作。

 きったない廃墟のバス・ルームで、対角線上に鎖で繋がれたふたりの犠牲者が繰り広げる、生き残りゲームの話だ。
 ジグソウ・キラーと呼ばれる殺人鬼が、犠牲者を誘拐して無理やり命がけの脱出ゲームに挑ませる。その脱出ゲームの展開と、ジグソウの正体が物語の主軸になる。

 特異な状況に置かれた登場人物の、生き残りをかけた脱出が主題なので、ソリッドシチュエーション・スリラーとも呼ばれる。
 ラストのどんでん返しには、初めて観たとき衝撃を受けたし、何度見返しても面白い。

 物語のどんでん返しは、意外なオチをつければ良いというものではない。意外なだけなら、夢オチやロボットオチのようなもので、読者・視聴者が「ヤラレタ!」と納得する快感がない。

「Saw」や「エグザム」のオチは、物語の冒頭に堂々と描かれていたものが、別の解釈でラストに繋がるというもの。
 だから観ていた人が、ダマされた!ことに納得しつつパズルのピースがうまく嵌まった快感がある。

 ややネタに触れるが、1991年のアメリカ映画の名作「羊たちの沈黙」を観た人は、そのトリックがSaw、Saw2に使われていることに気づくだろう。
 トリックの本質は同じだが、当然異なるシチュエーションで使われていて、パクリとかではない使い方の見本と言える。
(U-NEXTなどの動画配信。ツタヤでDVDレンタルがある)

密室の中と外「崖っぷちの男」

 2012年のアメリカ映画「崖っぷちの男」は、密室劇とは言いがたい。
 けれど密室劇のダイゴ味である、密室の中と外で繰り広げられるドラマの繋がり、がうまい作品だ。

 ホテルの高層階で、突然窓の外の狭い張り出しに出て自殺を宣言する男。
 彼を説得して、自殺を思いとどまらせようと交渉する女刑事とのやりとりが、密室の中。
 そこで心理的な駆け引きが繰り広げられる一方、密室の外である向かいのビルで、男の弟たちによるもうひとつのシチュエーションが展開する。
 
 実は、男はダイヤモンド窃盗で無実の罪を着せられた元警官。自殺をアピールして注意を惹き、その間に弟が向いのビルに隠された、盗まれたはずのダイヤを取り返そうとする。

 このように、ふたつの場面の進行を同時並行で追うことで、スリリングな展開が期待できる。
 これはSaw2でも使われ、さらにトリックで味付けされている。
 かつての「新本格」推理では、こういったトリックが叙述を絡めて使われて、何度も驚かされた。そのうち食傷気味になったけど。
(Netflixで配信、ツタヤでDVDレンタルあり)

 映画では監督がだれ、主演がだれ、は話題になりますが脚本は注目されにくいですよね。
 潜水艦ものの映画に名作が多いのは、シチュエーションが限られていて、低予算でも脚本に時間と金が掛けられるから、とかつて言われました。

 密室劇のようにスペースが限られた中で、読者や視聴者が驚くストーリーを創作できるようになりたい、と思うのですが。なかなか創作は難しいですね。

#密室劇 #創作 #映画 #シチュエーション・スリラー


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