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エピソード 3 愛の源泉(3817文字)

今回は、「愛の源泉」について解説する。

前回、媚薬のエッセンスに「純」と「潔」、そして「粋」を置いた。もちろん、愛に関与する語彙はこれだけではない。特に、徳目の解説をしなければならないだろう。これについては、エピソード5「愛の徳性」で触れるとして、今回は、前回に引き続き「愛」を探る旅に出かけよう。

1)「愛」の原初

まず、はじめに「愛」の感情が湧き出(い)ずる原初を探ってみよう。

愛のエッセンスを、「純粋」「純潔」などの語彙を基に解説したが、もともと「愛」は人間の崇高な感情でもある。

この源泉をたどる前に、そもそも感情はいつ目覚めるのか紐解いてみよう。私たちの感情の原初はどこにあるのか。そしていつ感情に目覚めるのだろうか。

その答えは「不快」を表す、際立った「嫌悪」だとされる。

つまり「イヤ!」だ。

乳幼児が、空腹や排泄、眠いときぐずって泣く。このときに感じていた情動を、私たちは覚えていないが、一連の生理的反応がどんな感情をもたらすのか振り返ることはできる。

お腹が極限まで空いているとき、トイレに行きたくてたまらないとき、睡魔が襲ってきたとき、どんな感情が渦巻くだろうか。

きっと、めちゃくちゃ機嫌が悪くなり、そわそわすることもあるだろう。

乳幼児は、体の微妙な変化を、いつもとは違う「不快」と感じ取る。これらの感覚的反応が感情の原初であると考えてよいだろう。

2)陰性感情(ネガティブ感情)

では、感情を、ネガティブ感情(陰性感情)とポジティブ感情(陽性感情)に分けて記してみよう。

今回、東洋思想の五行、五情(五志)を基本に、陰陽それぞれの感情に整理してみた。

左ページの上下に二つの六角形がある。上に陰性感情。下に陽性感情をまとめた。上の六角デザインは、心境を立方体に見立てた内部の面を見ている状態である。下のデザインは立方体の外部から眺めた状態を示している。詳細は後ほど、動画と図で解説する。

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簡単に図の解説をしよう。上の陰性感情の六角の底に、嫌悪の感情がある。ここが感覚と感情の原初に当たる領域だ。嫌悪と合わせ、その他ネガティブ感情として、怒り、恐怖がある。

嫌悪、怒り、恐怖と合わせて三大ネガティブ感情となる。

怒りと恐怖は、ある程度高次の認識が表出してから現れる。したがって、なかでも特に「嫌悪」の感情が原初であることがわかる。

ちなみに、にさらに高次のネガティブ感情としては、嫉妬、悲しみ、悩みがある。

ここで、西洋的ネガティブ、ポジティブ感情と、東洋医学的陰陽の関係を記しておこう。これは気分、気心(きごころ)と関係する。つまりは「気」の動きだ。

ネガティブ感情は、気分がふさぎ、沈みがちになる。この感覚は物の軽重の表現と似ている。

怒りや嫉妬は、熱のイメージがあり、陽にもなり得る。しかし、これらの陰性感情を東洋医学では、「虚熱」を利用していると理解する。

本来能動的な巡りある熱ではなく、瞬時に感情が激高することでエネルギーが発散消耗し、差し引かれて生じる熱を意味する。これを「虚熱」という。

感情的になり情動を荒げる反応的な態度に終始すると「虚熱」が生じる。これが結果的に陰をもたらす。つまり「気」の巡りが悪くなり「気」が滞るからだ。

このことから、激高や激情あるいは消沈や陰鬱も、さまざまな「病」をもたらす。

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原初の感情である「嫌悪」を引き出す大元の反応は、中心に据えた「驚き」である。それが中心に存在し、対象の刺激が波のように周囲に波及し、認識できる段階のネガティブ感情が反応を来すという仕組みだ。

3)陽性感情(ポジティブ感情)

一方、右下の六角は、ポジティブ感情を示している。三大ポジティブ感情として、喜び、共感、肯定という感情がある。これらの感情は、基本的にネガティブ感情より、より高次の認識が必要だ。さらに高次の感情として、あくまでも現状で仮の表現だが、辞譲じじょう惻隠そくいん免赦めんしゃの感情がある。

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つまり、辞譲は、譲り手放し、惻隠は、寄り添い、免赦は、許しの感情である。

あくまでも仮のマッピングではあるが、免赦や許諾の感情は、それが完全であればあるほど、その意志に従う心境は、より高貴な感情となる。したがって、この免赦の感情が、昇華し、完全肯定という立場で意志に従うとき、本当の受容とともに、喜びや共感という陽性感情が湧きでるのだろうと想像する。前回のエピソード2『愛の媚薬』の<いき>でいえば『粋』ではなく『意気』の方である。

上図でいえば、ゆるしを受け肯定するという下から上への流れがあると推測する。

陽性感情の発露は、基本的に高次の感情認識がベースにある。その認識の総体は「受容」である。それが中心に存在し、ネガティブ感情に対する反応が周囲に波及し、認識できる段階のポジティブ感情が反応を来す仕組みだ。

4)陰性感情からの転換

先に、私たちの感情の原初「不快感」のお話をしたが、それは、食欲や排泄、睡眠の生理的欲求に関連していた。

しかし、乳幼児期における親の世話により、基本的な陽性感情の素地は作られていくと考えられる。その理由を東洋の叡智から紐解いてみよう。

東洋医学的な専門的立場から解釈をしてみよう。東洋思想を東洋医学的立場から理解する上で非常に重要な視点であるが、興味ある方は是非お読みいただきたい。

下に流注の図を示した。これは私が考案した『経絡立体流注図』である。東洋医学では、栄養の吸収という意味で小腸経が関与し、排泄は大腸経、睡眠は脳の心包経が関係すると考えると、この三つはポジティブ感情を生み出す面と関連していることが分かる。空腹、排泄、睡眠に関与しているということだ。

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憶測に過ぎないが、このような陰性感情をもたらす欲求が満たされたとき、大きな陽性感情が引き出されるのではないかと考えている。つまり、空腹が満たされれば喜びを、排泄が処理されたときには共感が、睡眠が満たされれば快適な感情が生じる。

他の哺乳動物とは異なり、人間は乳児期がおよそ2年続く。この間に、親の献身的な「愛」により、基本的な肯定感や喜び、共感性が培われるのである。

5)愛の源泉

陰性陽性両感情が、立体モデル中でどのような位置関係になっているかをここでもう一度検証してみよう。改めて、二つの感情構造を図示しておこう。

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左側は、反応的な陰性感情の図である。右側が受容的な陽性感情のシェーマ。より高次の陰性陽性感情は省略してある。それぞれの三大感情を統括する「驚」と「受」を中心に示したものを重ね合わせてみよう。すると下の図のようになる。

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そして、反応的な「驚」のマインドから、「受容」の心境に至る段階に変容する流れの中で、恐れや怒り、不快な感情が次第に変化していく。この変換に関与するチカラが「愛」の役割と考えている。

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最終的には、悩み多き心に浄化が生じ、穏やかで清々すがすがしい心境になる。そして、活気に満ちた意志と心構えが据わる。そのような心持ちを得るために、大切な作用をしているのが、「愛」のチカラなのだ。

悩み、怒り、嫉妬、嫌悪、悲嘆、恐怖、驚愕から

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免赦、共感、辞譲、肯定、惻隠、歓喜、受容の流れへ、この全ての流れに「愛」は関与している。

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さて、ここで示した陰性陽性の感情が、立体モデルの中でどのようにマッピングされているか、動画とシェーマを交えてご紹介しておこう。

この見立ては、自我構造とその向こうにある、自らの理性に照らした構造になっている。詳細は、今後も触れていくので、今回は単純にデザインとしてご覧いただこう。

立方体の対角同士に軸を置き、骨格だけを示した図である。ここに自らの視線(矢印)を据えたとき、その反対側にあるのが、理性的な根源的領域である。

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この図では、視線である矢印も重なり合っていおり、その全容が分かりにくい。そこで、下の動画を参考にされたい。

この動画をご覧になれば、こころの奥行き感が深まるだろう。単なる立方体同士の重なりだけでなく、周囲の位置関係も把握できる。そして、考えも付かないトリッキーな動きに、戸惑われるかもしれない。

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少し角度を変えて全容を確認していただこう。そして、この形姿は、マインドの基本的なデザインとお考え頂くとよいだろう。

そのポイントは、視座にある。

自らの視座は、いつも黄緑色の玉から矢印の方向を見ている。しかし、奥にある紫色の玉は隠れて見えない。この紫の玉が、本来の自分自身の在り方を知っている玉であり、理性的根源や自らの使命を知っている玉である。

紫と黄緑以外の玉は、周囲に存在する自分を形作る資源(リソース)だ。そのすべてを「客格」※という。

※「客格」については、『哲学』の散歩道 Vol.20『思考のこころみ』 命題2 意味と価値と真実1を参照

つまり、主格は黄緑の玉、そしてその奥にある紫の玉が、本当の自分のガイドとなる玉、周囲の玉がそれらを支え、気づきを与え、調和を整える和気の働きをする。

この黄緑と紫を貫く軸、それが「愛の矢」であり、「愛の源泉」はその中心部に存在する、自らの御霊、その御霊に気づき開くとき、愛のチカラは実感を伴ったものとなる。

なお、このモデルは基本モデルであり、まだ人間の本当のマインドを示すものではない。本当のマインドの構造については、エピソード8『愛の欲求』でお話しよう。

※このマガジン『愛の美学』に連載されている他の記事はこちらから



では、また来週、次回へつづく




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