見出し画像

Tencentを辞めた人はAAAゲームを目指している

今年8月頭に、一つのビデオゲームのデモ動画は中国インターネットを騒がせました。それは西遊記を背景にした「Black Myth: Wukong(黑神话:悟空)」というコンソールゲームのデモ映像です。

動画共有サイトBilibiliでアップされてからわずか1日で700万人の閲覧数が達成し、一時期6万以上の人は同時にその動画を見ていました。コメント欄には多くの人の絶賛の声や、「出たらすぐ買う」といったコメントが残されています。中国人ゲームユーザーが中国産の高品質コンソールゲームに対する期待感が伺えます。

中国のみならず、日本のゲーム業界でも話題になりました。例えば、ある有名日本アクションRPGシリーズ「Nier」のディレクターを務めている横尾太郎氏は「良すぎて死んだ」というツイートをしました。

画像1

このゲームのデモ映像はそこまで注目された最も重要な理由は、ゲーム品質だと思います。今回の映像はほとんどのシーンは、実際のゲームプレイの録画です。キャラクターデザイン、動作、背景、音楽などの面から見ると、「Black Myth: Wukong」はすでに日本のAAAアクションゲーム(例:ファイナルファンタジーXVやSEKIRO)のレベルに達しています。それだけではなく、映像には孫悟空の「72変化の術」や「身体の毛を抜いて、フッと息を吹きかけると自分の分身が現れるという分身の術」といった東アジア人にとって馴染みのあるシーンもあって、多くの視聴者に感動を与えました。

画像4

そのゲームの開発しているのは、Game Scienceという中国の杭州市にある数十人の会社です。一見すると普通の中小規模のゲーム開発会社ですが、実は、この会社のコアメンバーは全員Tencent(テンセント)の卒業生です。Tencentで頓挫した後、独立したそうです。

Tencentを辞めた

Games Scienceの創業者たちは、元々Tencentで「斗战神」というPCのMMORPGを作りました。その「斗战神」も西遊記を背景にしたゲームで、2013年末にリリースされました。最初、優れた動画品質や魅力的なストーリーで多くのユーザーの注目を集め、一時期60万人の同時ユーザー数も達成できました。

画像2

MMORPGというジャンルは、基本、常に新しいコンテンツ、いわゆるエピソードを出さなければいけません。しかし、開発リソース不足などの原因で、追加コンテンツの更新スピードは遅すぎました。それでユーザーの間の評判が瞬く間に下がり、人気がなくなりました。 

結局、Tencent内部で、初期コンテンツと同じ品質のコンテンツを作るにはコストが高すぎると判断し、より低コストかつ低品質のものを追加コンテンツとして出すことにしました。そのため、そのゲームの最初の数エピソードとその後のエピソードはまるで違うゲームのように見えます。

2014年6月に、プロジューサーのYocar氏やデザイナーの楊奇氏を含め、6人の「斗战神」のコアメンバーはTencentを辞め、Game Scienceというゲーム会社を立ち上げました。設立した当初、安定した資金を得るために、主にスマホゲームを作りました。正直に言えば、それらのゲームはお世辞にも良いゲームとは言えませんでした。ゲームプレイやデザインは基本、当時最も流行っていたゲームの要素を利用し、ビジュアルだけ変えたというFast Moneyを得るためのものでした。その時期のGame Scienceが目指したのは、革新的かつ高品質のゲームではなく、できるだけ早くリリースできるかつユーザーに課金してもらうゲームということだと思います。

初心に戻る

2018年頭頃になると、会社はある程度安定していました。売上も開発力も決して中国一流のゲーム会社ではないものの、会社の存亡は一応危うい状態から離れていました。その時点に、自分の初心、つまり本当のAAAのアクションゲームを作ること、に戻ることは芽生え始めました。

後日の取材で、デザイナーの楊奇氏はスマホゲームからAAAのアクションゲームに戻る理由について、こう述べました。「我々も飯を食うために、自分の本音に背いて課金型のスマホゲームを作った。しかし、ゲームクリエイターとしての人生は限りがあって、後何年できるか分からない。最近、体は悪くなってきて。昔、何徹しても大丈夫だったが、今、もう無理だ。まだ体力やクリエーティビティーがあるうちに、本当に作りたいものを作らないといけないと痛感した。」

画像5

様々の社内議論を踏んだ後に、Game Scienceは二つのチームに分けました。一つは引き続き収入源だったスマホゲームに集中し、もう一つのチームはAAAのアクションゲームにチャレンジすることにしました。後者は2018年末に深セン市から杭州市(上海から数時間離れた都市)に移りました。なぜ杭州市に移ったかというと、そっちの方は生活リズムが遅く、物価も低いため、開発者が落ち着きやすくて、ゆっくり時間をかけてゲームを作ることができると言われます。

ゲームの方向性について、開発チーム内では大きな争議がなかったです。全員は「少しだけオンライン要素が入るAAA格闘アクションゲーム」をしたかったです。皆ほぼ毎日ゲームのことばかりを考えていて、仕事中はもちろん、食事する時も、週末も。

技術面でいうと、Game Scienceは元々主にCocosとUnityといった比較的に学びやすい開発エンジンを使っていましたが、今回のプロジェクトのため、より複雑なUnreal開発エンジンを使用することになりました。そのため、チーム全員がゼロからUnrealを学びました。

2019年に杭州の開発チームは20名ぐらいに増え、「一つの完成されたエピソードを作る」という明白な2020年年末までの目標も決まりました。そのエピソードは、今回のデモ映像に出た「黒風山」でした。因みに、黒風山は西遊記小説の第16回目で出た場所で、孫悟空や玄奘たちが初めて妖怪に遭遇した場所でもあります。

画像3

中国でAAAコンソールゲームが生まれるか

中国ゲーム業界では「なぜ中国はAAAコンソールゲームが作れないか」というトピックが頻繁に議論されています。その理由は一言で言うと、「報われないからだ」と思います。日本やアメリカでAAAコンソールゲームを作るために、確かに初期の投資は少なくないですが、ヒットしたらそれをお金で買うユーザーがいます。中国の場合、多くのユーザーはネットで海賊版を無料でダウロードしたりしています。そのため、ゲーム開発会社に利益が流れない場合が多いです。結局、ほぼ全ての中国ゲーム会社は運営型のスマホゲームやPCオンラインだけ集中してしまいました(そっちの方が海賊版が少ないからだ)。

最近、中国でも海賊版対策の強化やユーザー意識の改善などの動きがあります。Game Scienceも恐らくその趨勢を見て、AAAのコンソールゲームに踏み出すことを決意したでしょう。果たして最終に販売するフルゲームはデモ映像を裏切らないゲームになれるかどうか、そして、もし作れたとしたら、それを買うユーザーがいるかどうか、注目したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?