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5年ぶりにCSEdCon@ラスベガスに参加したら、日本の情報教育が進んでいることに気がついた話

こんにちは。みんなのコード代表の利根川です。
先日、ラスベガスで開催されたコンピューターサイエンス教育のカンファレンス「CSEdCon」に参加してきました。私がCSEdConに参加したのは、2018年以来です。

今日は私の海外での学び、そこから見える日本のこと、そしてこれからのことについてお話ししたいと思います。


CSEdConとは?

私が今回参加したCSEdConは、2013年に設立されたコンピューターサイエンス教育を推進するアメリカの非営利法人 Code.org が主催する、国際的なコンピューターサイエンス教育に関する会議です。今年はアメリカで最も華やかな街、ラスベガスで開催されました。

カンファレンスには

  • みんなのコードのように情報教育を推進する各国の団体

  • アメリカ国内でコンピュータサイエンスを推進する団体

  • 政府関係者(今回は3ベリーズ、コソボ、バングラデシュの3カ国から教育大臣も来ていました。)

  • 研究者、シンクタンク

  • 国際機関(UNICEFやUNESCO)

  • 他、国際的なNPO(Micro:bit教育財団やカーン・アカデミーの方が来ていました)

など、コンピュータサイエンス・情報教育の関係者が一同に集まりました。

4日間、参加者と同じホテルに滞在し、朝は8時の朝食から意見交換が始まりました。朝食後もすぐにセッションが始まり、夕方まで続きました。さらに、セッション終了後も夕食を共にしながら話が盛り上がり、それだけでは足りず連日夜12時過ぎまで2次会が開催されるくらい、各国のいい大人たちが情報教育について熱く語り合っていました。

CSEdConを通しての5つの気づき

1. 各国の悩みには共通点がある

日本の情報教育に向き合って仕事をしていると、どうしても「これは自分の国だけの悩みなのでは?」と感じることがあります。しかし、海外の事例を聞いていると日本独自の課題は意外と少なく「各国で悩んでいることは、共通だよね」という話をしました。話題に上がった悩みは、

  • 政策をどう変えるか
    若い国・小さい国では、教育大臣が自らカンファレンスに足を運び、すぐに政策に反映させるなど変化が早いように感じました。一方で、成熟した民主主義国では、やはり何かを変えるのは時間がかかり大変だという傾向がありそうでした。
    解決法は各国で異なるのですが、州単位で教育政策が異なるアメリカの場合、Code.org が州ごとの政策をレポートで比較し、進んでいない州にプレッシャーを掛けられるようにしていました。

  • インクルーシブ(特にジェンダーギャップ)
    みんなのコードも重点的に取り組んでいることですが、Code.org も今後の3つの重点項目の中の1つとして、ジェンダーギャップをあげていました。

    とはいえ、日本の情報教育に関する研究会では、参加者も登壇者もまだまだ男性ばかりになりがちな一方、CSEdConは女性の参加者も非常に多く、パネリストが全員女性というセクションもありました。このような景色でもジェンダーを重点項目として掲げている状況を見て、日本の状況を改善していくことの大変さを改めて感じました。
    (参考)みんなのコード「テクノロジー分野におけるジェンダーギャップの解消に関する取り組みについて」

  • 教員養成
    参加者が口を揃えて「教育は先生が大事、CS教育でも先生の養成・研修が一番大事な問題」と言っていました。

  • 機材・インフラ
    例えば、南アジアの国では30%の学校にはデバイスが一台も無いとのことでした。後述しますが、Code.orgの人も、日本のGIGAスクールの話は知っていて、この観点で日本は世界的に進んでいることを実感しました。

  • 親の理解 
    上記に記載した課題は、諸外国においても問題として認識していたのですが、今回のカンファレンスに参加して、親の理解を得ることの大変さについて、実は日本だけではないと知れたのは新しい気づきでした。

2. 今話題のAIは、それぞれの国で考え方に大きな違いがある

AIについては世界共通で話題になっていると感じたのですが、その中で何を語るかは国によって違いがあると気づきました。

アメリカでは、今年話題になったAIというと画像判定や画像生成等も含めて、AI・ディープラーニングを総合的に捉えているように感じました。しかし、日本の教育関係者は、ChatGPTを含む対話型生成AIだけに特化して考えがちです。もちろん、AIがどう教育や仕事のあり方を変えていくのかの議論については、大筋アメリカと日本で共通点が多かったです。

一番顕著だったのは、アメリカでは、AIの話題になると二言目にはバイアスの問題について語られることが多い一方、日本人はハルシネーションや安全性を気にする事が多いということです(他のアジアの国でも近い傾向にあると感じましたが、日本ほど気にする国はありませんでした)。

各国のAIにまつわる考え方の背景には、正解主義の日本とポリティカル・コレクトネス(政治的妥当性)が課題であるアメリカという文化的な違いがあるのではと感じました。この件に関しては、Code.orgの方とも「新しい気づきだ」と盛り上がりました。

3.  韓国の取り組みに一番親和性を感じ、気になった

教育を議論する際には、文化的、歴史的コンテキストが非常に大事だなと改めて感じました。
韓国と日本では、教育システムをはじめ、文化など似ているところがたくさんあります。韓国からの参加者と話す中で、自国の取り組みについて「どの学校段階ではどの教科で年間何時間、どういった内容を教える」と私が聞きたかった内容の話をしてくれたり、「知識・技能もいいけどやっぱり態度大事だよね」という観点から語っており、親近感を覚えました。

4. 話題になっていないこと・気づきに行くことの重要性

世界的なカンファレンスで議論になる課題は、そもそも課題として顕在化しており、認識され、解決に向かいつつあるものです。
逆に、ここに居ないプレイヤーや、ここで語られていない話題に気づきに行くことも重要だと感じました。

以前から、CSEdConに参加をする中で「Too westernized」という違和感を覚えていました。そこで、今回勇気を出して「欧米系以外の取り組みをもっと語り合いたい」と課題提起をしてきました。
そうすることで、ニュージーランド*の方を始め、何人かの方々に共感いただけたのが嬉しかったです。
UNESCOの方にもご賛同いただけました。

*元々の原住民がいたところに、イギリスから白人が入植した歴史がある。その方も白人ではない

5. 情報教育を学ぶためにも、学校教育の基盤が整備されていることが大切

今回CSEdConに参加していたユネスコの方が、低所得国では、10歳段階での母語の識字率が未だ30%とのことで、情報教育を学ぶ以前の状況下の国もまだまだ多くあるということでした。

また、ウクライナの高校の情報の先生も参加されていて、戦争が始まってから、東部はずっと授業がオンラインで実施されているそうです。その方の勤務校は西部にあるとおっしゃっていたのですが、空襲警報がなると地下に4時間避難しなければいけない状況であるという話を聞きました。ウクライナでもコロナ禍でオンライン授業が始まった際に、積極的でなかった先生も、現在は子どもたちの学びを戦争の中でも止めないように必死にやっているとのことで、涙しそうになりました。

コロナ禍のときも感じましたが、基盤となる学校教育の品質の重要さを改めて痛感しました。基盤となる学校教育があるからこそ、充実した情報教育が実践できると強く思いました。

海外に来て改めて日本のことを考える。

久々に海外のカンファレンスに来て、各国の情報教育の関係者と対話を繰り返していく中で、日本の状況を客観的に考える良い機会になりました。

日本の公教育における情報教育のインフラは一流

日々仕事をしていると、出来ていない部分に注目してしまいがちですが、1億人の人口規模の日本において、全ての小・中学校で、一人一台端末と学校内のインターネット環境が行き渡っているというのは、世界の中で見ても進んでいると認識しました。比較対象になるかは定かではないですが、ある南アジアの国は、30%の学校にまだ一台もパソコンがないと言っていました。
日本では、GIGAの回線が遅いから使えないと学校現場で言われていたり、ましてや端末を授業の中で使わず眠らせている、無駄にフィルタリングかけてほとんど使えないようにしているなど、なんて贅沢なことを言っているんだろうかと感じ、憤りさえも感じました。

日本の情報教育は、世界と比較して相当がんばっている

①高校の情報教育
日本では、2022年に高校情報Iが必履修科目として新設されました。つまり、日本の高校生は必ずプログラミングを含む情報教育を学んでいます。一方、アメリカの場合は選択科目を含めて、情報関連の科目の開講率は100%になっていません。日米で入試制度に違いがありますが、日本では大学入試の共通テストに2025年から情報が入るというのも相当先進的です。

生成AI
米国のTeachAI イニシアチブのToolKitに先んじて、日本では文科省が7月という早い段階に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表しました。

2つの気づきから
「日本はこんなにも情報教育進んでいる!」
「日本の情報教育関係者、もっと自信持っていいじゃん!」と強く主張したい
です。

引き続き、日本は日本でがんばろう

日本は、教育行政がインフラや情報教育をリードして行い、企業・研究者・みんなのコードをはじめとするNPOなどがデバイス・教材の提供、カリキュラム策定をしています。これだけの多くの関係者が集まり、情報教育のコミュニティを形成しているのは日本の強みであると思います。
日本にいるとどうしても「諸外国がこうやっているのに、日本はダメ」だと悲観的になりがちですが、世界からみた日本は、これだけ頑張っていることがわかったので、自信を持って今後もやるべきことをどんどんやっていくべきだと感じました。

グローバルコミュニティにも貢献したい

これは私個人の思いですが、9年前にHour of Codeをはじめて触った時に感動して、同じようなものを日本でも広げていきたいという思いから、みんなのコードを立ち上げました。少し先に10周年を迎えたCode.org が、今後の注力事項の一つに”グローバル”を掲げていました。立ち上げの時に多くの方々にサポートしてきてもらい、ここまでみんなのコードが大きくなってきたので、自分たちが支援してもらうだけでなく、これまで培ってきた私たちの経験を他の国のコミュニティにも還元していきたいと感じました。(この点、みんなのコードと関わりのある方には是非ご一緒いただきたいです。)

最後に

CSEdConに参加をしていた各国の方々は、未来志向・利他的な人が非常に多く、参加者一同「このコミュニティは素晴らしい」と声をそろえて言っていました。
先進的な取り組みを行っている方々のセッションも学びが多かったのですが、何よりも参加者同士のコミュニケーションが私にとって今回参加した財産となりました。休憩時間や終了後にご飯食べながら、それぞれが何をやっているのか、何故やっているのか、何が課題なのかを日付が変わるまで語ったことは、オンラインでは得られない価値でした。
主催していたCode.orgが今年10周年を迎え「これからは”AI”・”ジェンダー”・”グローバル”の3つに注力する」とのことだったのですが、みんなのコードも今年9年目なので、2025年の10周年を迎える時にはもう一段階高い視座で(自信をもって)日本国内において情報教育をけん引していく存在でありたいと強く感じました。

報告イベントをやります!

11月22日(水)18時30分から、CSEdCon@ラスベガスでの気づきをオンラインイベントでみなさんにお伝えできればと思っています。
詳細はこちらからURL:http://ptix.at/jzFmdU

多くの方々にご参加いただければと思っておりますので、お気軽にご参加ください。

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ここまでお読みくださりありがとうございます。

みんなのコードは、「誰もがテクノロジーを創造的に楽しむ国にする」をビジョンに掲げ、2015年の団体設立以来、小中高でのプログラミング教育等を中心に、情報教育の発展に向け活動し、多くの方からのご支援をいただきながら取り組んでまいりました。

私たちの活動に共感いただき、何かの形で応援したい、と思ってくださった方は、みんなのコードへの寄付をご検討いただけると嬉しいです。
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引き続き、21世紀の価値創造の源泉である「情報技術」に関する教育の充実に向けて、これからも取り組んでいきます。

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