見出し画像

“君は悪くない”と小児科医

3ヶ月前に会った時、診察室で何を聞いても話してくれず、お母さんに話を聞こうとすると「言わないで」とお母さんを制し、また受診してねというと、「絶対イヤだ!」と言って、涙を流していたAくん。不登校だったA君のお母さんは毎日が不安で、A君と同じように涙を流していました。

僕は何をどうしたら良いかわからず、ひとまず体調を崩してしまう学校には行かずにしっかり休む約束をして、短めの間隔で話を聞きました。何かイヤなことがあったであろうことは想像できたので、それが何かはわからないけどトラウマになったのかなと想像しました。そして、彼の中の「登校できない自分を責め不甲斐なく思う気持ち」「大好きなお母さんを心配させて申し訳ないという気持ち」「学校に行きなさいと言うお父さんへの抵抗」「外出すると同級生に会うかもしれない怖さ」に思いを巡らせました。僕なりにいろいろな想像をした末に、僕は

「A君は悪くないよ、お母さんも悪くない」

と言いました。トラウマを抱えた子は非機能的認知という自分を責める考えに縛られ自分を傷つけているので、その認知を変えることが治療の目的だと習ったからです。本来は患者さんのトラウマにフォーカスした上で行う治療ですが、僕にはそれができず、苦し紛れの若干無責任な発言になるかと心配しましたが、次に来てくれた時にお母さんは

「心が楽になりました、寝る前におまじないのように2人で言ってます」

と言ってくださいました。その後も診察を繰り返しています。すぐに大人が望む結果になるわけではありませんが、彼は少しずつ話をしてくれるようになりましたし、外出する回数が増え、家族と焼肉を食べに行くことができるようになりました。今は彼の小さなトライを一つずつ、一緒に喜ぼうと思っています。時計を少しゆっくりにしてね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?