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なぜか話してくれない娘

母と娘は仲が悪かった。

いや、もともとは良好だったはず。
「おかあさん!おかあさん!」と
片時も母の傍を離れない娘が頭をよぎる。
どうしてこうなってしまったのだろう。

思春期に入った娘は母と話をしなかった。
話をしないだけではない。
部屋の物は片付けない、宿題もしない。
いつも友達のところへ遊びに行き
帰るのは決まって夜遅くだった。

母は娘が帰るなり怒鳴りつける。
そんな毎日の繰り返しだった。

どんなに娘を叱っても、諫(いさ)めても
娘の行動は変わらない。話してもくれない。
どうして娘は私の話を聞いてくれないのか。

母の心労は日に日に増していった。
やがて気力も底をつき、母は心底疲れ果てた。

今日も深夜に娘が帰ってきたが
もはや怒鳴る気持ちは枯れ果ててしまった。

悲しみを込めて母は言いました。
「一体、お前、どうして、そうなの?」

娘は思案顔で母親を見ると、静かに言いました。
「・・・お母さん、本当に、知りたいの?」

弱々しい表情でうなづく母を見た娘は
最初はためらっていましたが
やがて滔々(とうとう)と話し始めました。

・・・その時、母は娘が生まれてから初めて
娘の話を最初から最後まで聞きました。

それまでは、話をさえぎっていました。
娘が自分の考えや感じたことを
楽しそうに母に話しかけるたび、
「それはね…」と娘の話が途中なのに
自分の話をしていたのです。

長い時間をかけて一通り話し終えた娘は
母の顔を見ていました。

母は気付いた気がしました。
娘は、母である私を必要としているのだと。
ただし、やたらに怒鳴ったり命令する母でなく
娘の気持ちをしっかり聞いてあげれる母
娘が迷ったときに良き相談相手となる母を。

この日から、母は娘の話をさえぎらないで
全部聞くことにしました。

母と娘の仲が悪かったのは、もう昔の話です。

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