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バッチバチ

もう10年くらい前、あるお店の店長をやっていました(正確には支店長です)。
本店に用事があって赴いた際に、占い師を名乗る女性が来ていて、近くのブースで営業中でした。
時間が空いたので、ブースを覗いてみました。
そこには何の力も感じない、大丈夫かな?と心配になる女性が、座ってお客さん待ちをしていました。
「お願いします」と声をかけたら、料金も激安で、なんだか頼りない占いをしてくれました。
帰ろうとすると「友だちになってください」と泣きつかれ、「家に遊びに来てください」と縋り付かれました。
なんだ?この人。
うさぎちゃんか?寂しいと死んじゃうのか?

仕方がないので、お家に行く約束をして、その日は別れました。

お家に行った日は、持っているスピスピアイテムを全部披露してくれて、「私も力に目覚めたいんです」と告白されました。
正直、そういう人とそうならない人は、もう明確に違います。
うさぎちゃんが望んでいても、そうはならないことは明らかでした。
でも、「エネルギーを送れます」と言うので「やってみてください」と私も見守りました。
「ふーーーん」と息を詰めて、まるでエセサイキックの人が念を込めてるみたいだったので、「何やってるんですか?」と訊いたら、「やっぱり見破られちゃった」と嘘をついたことを白状しました。

うさぎちゃんは、パワーのある人と知り合いで、その人がすごいから会ってほしい、と言ってきました。
次の機会にその人のところへ行くことになって、ようやく私はうさぎちゃんの家庭訪問を終えました。


電車で1時間半くらいの所にパワーの人は住んでいました。
玄関のチャイムを鳴らして、その人が出てきて目が合った瞬間、バチバチバチッと稲妻が走りました。「これは来る」と感じました。


その日はその人の知り合いが何人か呼ばれていて、ご主人も同席して、一緒にお昼ご飯をご馳走になりました。
私の見た感じでは、パワーの人は確かにパワーはあるんだけど、神聖さの欠片もない、美しさや光、優しさからも程遠く、ただ力を撒き散らしているだけ、という印象でした。こういう人、けっこういます。
ご主人のほうが繊細な波動の持ち主で、人を読める力のある人なのが伝わってきました。
ご主人は、「この人すごいよ」と私を見て言いました。パワー奥さんは、むっとした顔をしました。

「来週セッションに来て。1時間1万円」とパワー奥さんに言われて、「ああ、来たか」と思いました。
「いえ、私は」と辞退しようとしたら、うさぎちゃんが腕を掴んできました。
「すごいから、受けてみてください!」
気が向かなかったけど、お食事会のホストからのお誘いなので、「じゃあ来週、お願いします」と時間を決めて、その日はお開きになりました。


翌週、再び、パワーの人の所へ向かいました。
1時間は余裕をみて電車に乗りました。
でも、途中の駅で、違う電車に乗っていることに気づきました。すぐに降りて、元の駅に戻りました。
でも、元の駅に戻ってみると、先刻の電車は間違っていないことが判明しました。
「ああ、これは止めが入ってるんだな」と思い、行くのをやめようかと考えました。
でも約束はしているので、目的地の駅へ向かいました。


パワー奥さんのセッションは、酷いものでした。
罵倒、罵声が警報レベルで降ってきました。
「おめえ」だの「てめえ」だの、言いたい放題でした。
私は初めから、この人が私をやり込めたくて呼んだのが分かっていました。自分の方が上だと、パワーでねじ伏せようとしてきたのです。
心に耳栓をして、1時間早く過ぎないかなーと思っていました。
そして終盤、全部ひっくり返したろ、と考えていました。
ところが、終盤にご主人が帰ってきてしまいました。
優しいご主人の手前、ひっくり返してやるのは可哀想に感じました。

ご主人が帰ってくると奥さんは豹変して「おめえ、てめえ」も封印しました。
気持ち悪いくらいニコニコして「◯◯ちゃんは良いエネルギー持ってるから大丈夫だよ」と宣い始めました。
ご主人に「すごく気分悪かったです」と打ち明けてしまおうかと思いましたが、言うのはやめました。

帰る直前で、パワー奥さんに「友だち紹介して」と言われました。
それが奥さんの集客方法らしかったけど、大切な自分の友人を「おめえ、てめえ」呼ばわりする人には到底会わせられない、と思いました。

帰りの駅で、耐えきれなくなって、便器に覆い被さるようにして、吐きました。

1〜2日、奥さんの強い念がまとわりつきました。
強めの浄化をして、それを流しました。
後日、この件を先輩に話しました。
「分かり易い赤信号、無視しちゃったね」と先輩は笑いました。
「仰るとおりです」私もそう言って、苦笑しました。
バチバチバチッと稲妻が走った時点で、そして電車の方向がおかしく感じた時点で、もう、警告は出ていたのに、行ったのは私のミスでした。


それ以降、パワー奥さんにも、うさぎちゃんにも会っていません。
パワー奥さんは地方に去り、うさぎちゃんも消えていきました。
道が違うと、ひとは静かに別れていくものです。


読んでくださって、ありがとうございました。
また明日。
おやすみなさい。

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