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『大人の本音だだもれ。』15話 彼女に恋心をもたせるために【Web小説】

第15話 感情で動くのではなく計画的に

 朝の電車、会社に向かうビジネスパーソンで混雑している。みんなスマートフォンを見ていて、コピーしたように同じポーズだ。その中に木庭こばの姿もある。

 無表情でスマートフォンを操作し、ニュースを読んでいるように見えるけど、頭の中では今日のミッションを何度もシミュレーションしている。

 汪花おうかを落とすと決めたときから攻略マニュアルを立てている。これまでの経験から成功した方法を使って攻めていくつもりだ。今回はかなりの美人なので腕が鳴る。

 駅に到着し、電車が停車した。スマートフォンをしまって車両から降り、改札へ進んでいく。これからのことを考えると口元がゆるんでしまう。

 会社に着いてオフィスに入った。自分の席へ向かう途中、ちらりと見ると汪花さんは仕事の準備に取りかかっている。

 仕事を頼んで二日経ったから、そろそろいいだろう。

 実行する予定のミッションが浮かんで気がくけど、周りに気づかれてはならない。平静を装って自分の席に着いた。


 昼休みになって、外へ出かけようとしていた汪花さんに声をかけた。

「汪花さん、ランチ一緒にしませんか?」

 汪花さんは少し困った表情になった。異性と二人だけの食事は誤解を招くもとになるから避けたいのはわかっている。でも気づかないふりをして返事を待つ。

 「ランチに誘う」が今回の作戦。用事がない限り、人からの誘いは断りにくいと知っていて決行している。案の定、断る口実がなくて汪花さんは承諾した。

「近くのファミリーレストランでいいですか?」

 警戒されないようにと考えて選んだ店だ。初めて誘う場合は人が多い場所、つまりファミリーレストラン系がいい。安価だし周りに人がいると女性は安心する。計画どおり、汪花さんは「いいですよ」と言ってきた。

 店へ向かう間、半歩ほど先を歩いてさりげなくリードする。入店して席に着いたら、先にメニューを取って汪花さんに渡してから自分のメニューを見る。

 料理を選んでいる間は、話しかけないで時間に余裕を持たせるのがコツだ。メニューが決まったら店員を呼んでスムーズに注文していく。

 女性はリードされると安心する。
 くわえて気がきくとなれば喜ぶからな。

 頭の中で組み立てた攻略マニュアルに沿って進めていく。食事は汪花さんのスピードに合わせるようにし、食事中はあまり話さないで食べることに集中させる。

 まずは胃袋を満足させてリラックスさせる。
 そうすれば気がゆるむはずだ。

 これまで接触するのを我慢していたので早く話をしたい。だが、がっつくと女性は引くのでこらえ、食後のコーヒーが運ばれてきてから話し始めた。

「僕がお願いした仕事に不備はありませんでしたか?
 わからないことがあったら、いつでも聞いてください」

 会話の流れも自然さを心がける。「仕事」を押し出すのがポイントで絶対に警戒心を持たせないことが大事だ。ずっと仕事の話をし、サポートをすると強調しておけば安心するだろう。

 最も重要なのが会計時だ。初回は先にレジへ行き、二人分を支払う。「自分の分は払います」と言われても、「次におごってください」と返して支払わなければならない。そうすれば必然的に次の食事の約束を取り付けることができる。

「木庭さん、待ってください! 会計は別々で」
「大丈夫です」
「でも――」
「じゃあ、次は汪花さんが持つってことで」

 笑顔で返すと相手は強引になれない。汪花さんは財布を手にしたまま困った顔をしている。会計は進んでいくので最終的に折れた。

「わかりました。では次は私が払います」
「ええ。そのときは、ごちそうになります」
「今日はごちそうさまでした」
「どういたしまして」

 ほら、な。成功した。
 でも最後まで気を抜いてはならない。

 恋愛感情を持っていることはおくびにもださず、仕事の話を続けて警戒心を持たれないようにする。感情をコントロールしてミッションをやり遂げた。

 会社に戻り、自分の席に着いてようやくほっとできた。

 うまくいった。
 これで糸の端に足がかかった。
 あとは巣の真ん中へ引き寄せていこう。


 木庭は「人」をよく理解している。たいていの人は好意的な押しに弱い部分があり、断れない状況だと流されてしまうことが多い。その心理を恋愛に活かして計画を立て、相手を攻めていく。

 性格が良さそうに見える青年は策士で、欲しいものを得るための努力は惜しまない。恋愛モードに入り、狙いを汪花に定めてからずっと観察してきて攻略マニュアルもつくった。

 木庭の攻略マニュアルでは今日はランチのみと決めている。しかし次の手はすでに考えていて、仕事をしながら頭の片隅でシミュレーションしていた。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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【動画の内容】※音あり(音声「🏝️」)


\連載中/  

Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

  ただいま準備中



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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