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『大人の本音だだもれ。』25話 大人は子どもとあまり変わらない?【Web小説】

第25話 成長しないだけ? それとも本能?

 大人は面倒だ。

 社会人になって勤め始めると、会社の看板もあるから軽率な行動はできなくなる。まったく知らない者同士の合コンとかは警戒するし、派手に遊び歩くようなことも減っていく。

 学生のときからの友人を経由した出会いの場はあるけど、結婚するとそれもなくなる。友人たちとの付き合いが減っていくのとは相反して、同僚や取引先で仲良くなった人など、会社を通じた出会いが多くなる。

 俺の場合は、友人と会社関係の両方で交流の場があり、いろんな人と縁ができていった。汪花おうかとの縁は、彼女が俺の勤めている会社に派遣で入ったことだった。

 汪花は産休に入った女性社員のカバーとして短期派遣でやって来た。俺が所属している部署とは違っていたけど、美人で仕事ができる女性が入ったと、すぐに情報が流れてきた。ちょうど事務部に用があったので、俺は噂の美人を見に行くことにした。

 初めて会った汪花は噂以上の美貌で見とれてしまった。そして少し話をしたらすぐに仲良くなりたいと思った。容姿が好みだったこともあったけど、それ以上に彼女の性格に惹かれたんだ。

 汪花は明るくて人当たりがよく、面倒見もいい。思ったことはすぐに話すし、また考えていることが表情に出るので裏表がなくて安心できる。俺とは年齢が近かったから最初から友達感覚でいて、くだけた口調で話していた。

 汪花はさっぱりしていて話し方も男友達と変わらない感じだ。だから気がねなく職場でよく話していた。それがよくなかった。俺がうかつだったんだ……。

 気さくな性格で人に好かれやすいのは良いことだが、長所は時に欠点にもなる。汪花は性差を意識せず、どんな人とでも気軽に接する。そして感情をストレートに口に出すから勘違いしてしまう人もいる。

 汪花は男女の区別なく接していたけど、女性社員たちの中には汪花が男性社員と話しているのをよく思わない人もいたのだ。嫉妬からあることないことを言いふらし、汪花の印象を悪くしていった。

 汪花は女性社員たちから陰口を言われていることにすぐ気づいたようだった。俺には話さなかったが、雑談しているときに表情に陰りが出始め、孤立している姿を見かけるようになって、ようすがおかしいことに気づいたんだ。

 変だと気づいたとき、俺は汪花から何が起こっているのか聞き出そうとした。でも「何もないよ」としか言ってこない。何度聞いても同じ答えで、事を荒立てないようにしていた。

 汪花は自分から絶対に話してこないとわかったので、事務部の男性社員をつかまえて話を聞き出した。そこで俺は汪花の置かれている状況を知った。

 仲が良かった人まで汪花の悪口を言い、避けるようになったというから、汪花はかなりショックを受けているはずだ。それでも何事もなかったかのように振る舞い、きちんと仕事をこなしていく。

 俺は自分の軽率さに後悔したけど、結局のところ汪花を助けることはできなかった。汪花は派遣最後の日まで愚痴ぐちをこぼすことなく、ていねいに仕事を片付けて去っていった。

 この件があってから汪花は職場では仕事に集中する『仕事モード』でいると決めたようだ。いつもは弱音を言わないんだけど、かなり酔ったときに、一度だけ職場では感情を出さないようにしていると、こぼしたことがあった。

 俺の記憶には楽しそうに仕事をしてる汪花の姿がある。作業をしているときは真剣そのものだけど、休憩しているときは、周りの人たちとコミュニケーションを取って笑顔が絶えない。汪花の周囲にはいつも和やかな空気があったんだ。

 そんな明るさをもつ汪花が、迷惑をかけないために黙々と仕事だけをして、自分を殺しているところを想像すると心苦しくなる……。

 でも同時にうれしさもわいてくるんだ。

 俺だけが本当の汪花を知っている。

 汪花を独り占めできてると思うと、うれしくてたまらないんだ――。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle



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