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『大人の本音だだもれ。』16話 彼女からOKをもらう自信はある【Web小説】

第16話 最後の押しで彼女も俺に

 目が覚めたときから感情がたかぶっていた。
 今日はあのミッションを実行する。
 これも成功するはずだ。

 駆け引きは面白い。自分でつくった攻略マニュアルに沿って駒を進めていき、目標を達成できたときは満足感が得られる。だから恋愛をする。

 恋愛の場合、ラスボスは女性だ。心を射止めるというゴールをクリアできたときの達成感は最高で、そのために恋愛をするようなものだ。

 恋愛ゲームを攻略し、ほとんどの女性が彼女になった。今回も俺が勝利を手にするに決まっている。すでに布石を打っていて使うときがきた。


 汪花おうかさんにまた仕事を依頼し、その場でランチに誘った。前のランチで貸しがあるから断れないとわかっている。それでもていねいに頼みこんだ。汪花さんが承諾したので今度はボックス席のあるカフェにした。

 食事は二回目だけど気を抜いてはダメだ。彼女を落とすまで警戒心を持たせてはならない。気を引き締めて会社を出た。

 店へ案内するときは少し前を歩いて導く。店に入ったらゆっくり料理を選んでもらい、自分が注文して、食事中は食べることに集中してもらう。前回のランチと同じように振る舞うことで、安心させることが重要だ。

 食事が済むと、前と同じようにしばらく仕事の話をしていた。汪花さんの警戒心がゆるんでいるとわかって切り出した。

「ところで汪花さんって、お付き合いしている人、いるんですか?」

 やっぱり驚いた顔をした。突然プライベートなこと、しかも彼氏がいるのかって聞いたら、警戒するし返答に困るだろうと予想していた。だから答えを聞かずに駒を進める。

「お付き合いしている人がいないなら、僕が立候補してもいいですか?」

 見下ろすのではなく、少し首をすくめるようにして上目づかいにした。そして声のトーンは不安げにして話した。とどめは、すがるような目で見つめる。

 女性は告白に弱い。
 それにフリーなら断れないはずだ。

 催促せず返事を待てばプレッシャーを与えることができる。そうやって逃げ道をつぶすのが肝心だ。告白されたら誰だって悩む。ましてフリーなら、断る理由を考えないといけないから罪悪感で流されやすい……。

 しばらく黙っていた汪花さんが口を開いた。

「お気持ちはうれしいですけど、職場で恋愛はしない主義です。ごめんなさい」

 申し訳なさそうに言うと頭を下げた。

 イケると思っていたのに……。
 男っ気はないから汪花さんがフリーなのは確かだ。

 女性は押していけば流されて付き合いが始まった。また付き合いに発展しなくても好意を持った。それなのに……。

 フラれたのはショックだけど困難だとわかると燃えてくる。
 鉄壁を崩して俺に惚れさせたい。

 社会人としての立場がある。だから引き際を良くしてきたけど、汪花さんに対しては絶対に落としたいという闘争心がわいてくる。

 頭を下げていた汪花さんが顔を上げた。目が合うと驚いた顔になった。

 ああ、汪花さん、気づいたな。
 っていうか、もう隠す気はない。

 腹が決まったので目を閉じた。それから深呼吸をする。ゆっくりと目を開けて彼女の目を見た。

「汪花さん、俺に惚れさせてみせます」

 これが本来の俺だ。負けず嫌いで欲張りでもある。バレると女性は引くだろうから恋愛モードのときは仮面をつける。でも猫をかぶったままでは彼女は落とせない。だったら、本当の俺 こっち で勝負だ。

 しばらく目を合わせていた汪花さんがゆっくりと席を立った。手を伸ばして伝票を取ると、無言のままバッグを肩にかける。準備が整うと俺を見て笑みを浮かべた。

「無理ですよ」

 それだけ言葉を残すとレジへ向かって歩き出した。会計を済ませると、ふり返ることなく店から出ていった。

 内気だと思っていた。
 でも違う。
 汪花さんは俺と同じ負けず嫌いだ。

 職場の彼女は黙々と仕事をしている。自己主張しないから、おとなしい性格だと思っていた。初めて見せた男勝りな姿は挑戦的で自信があふれていた。それでいて色香もある。

 俺が挑発したからが出たんだ。

 やさしい男の仮面をつけて、相手が求めている男性像を演じれば女性は簡単に落ちた。恋愛はちょろいものだと思っていた。

 自分の攻略マニュアルでは落ちない強敵。男の本能をゆり動かされて気持ちが昂る。

 好きだから大切にしたいという想いと、勝ちたいという気持ちがぶつかる初めての感情がわき出ていて、自分でも驚くほどワクワクしながら会社へ戻った。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


🏝️ 動画 準備中 🏝️
【動画の内容】※音あり(音声「🏝️」)


\連載中/  

Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

  ただいま準備中



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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