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『大人の本音だだもれ。』28話 人生にはスリルが必要だろう?(完結)【Web小説】

第28話 平坦な人生だとつまらない

 回想から戻って隣にいる汪花おうかをちらりと見た。にこにこと笑っておいしそうにチューハイを飲んでいる。ほろ酔いだからあまり話してくれないだろうけど、今回の派遣先の探りを入れてみた。

「またネコかぶっていたんだろう?」
「ネコかぶるって……。
 前に見影みかげに人間関係のコツを聞いたとき、『口はわざわいの元』とか『三寸の舌』って言ってたでしょ?
 だからなるべく話さないようにしていただけだよ」

 三寸の舌は、『三寸の舌に五尺の身を亡ぼす』のことだろうな。
 気にしていたのか。
 でもそれは俺自身に対する教訓だよ。
 汪花は違う。汪花は話すと人柄があふれ出る。
 とても魅力的なんだけど――。

「ボロは出なかった?」
「おうよ。でも忘年会は危なかったよ~。
 やっぱりお酒が入ると気がゆるんじゃう。
 飲むならが出ても安心できる見影じゃないとね」

「俺とか?」
「うん。私のを見てもドン引きしないのは見影くらいでしょ?」

 ドン引き? 逆だよ。
 汪花は本当の姿のほうがよけいに魅惑する。

 俺が汪花をパートナーにしたい最大の理由は、一緒に人生長い時間を過ごしたいと思える人だからだ。

 本来の汪花はどこへ行っても目を輝かせて楽しみ、感情がおもてに現れる。笑顔でいることが多く、腹を探る必要のない言葉は、そのまま受け止めることができて心が穏やかになる。

 また外見には似つかわしくない強情ともいえる面があり、物事に取り組んだら手を抜かずに全力投球する。芯が強く信頼が置けて実直さもある。素直なところと真っすぐなところに惹かれた。

 知れば知るほど汪花に興味を持ち、どんどん好きになる要素が増えた。

 汪花は無邪気だ。俺はそれが最大の魅力だと思っている。でも無邪気は時に短所になることがある。

 「好き」と言葉にしただけで勝手に裏読みし、性的なアピールととらえてしまう人もいる。汪花の魅力に惹かれて色恋へ発展する事態もありうる。

「うーん……。目立たなくしているのに、なんでかなあ?」

 珍しく汪花から独り言がこぼれている。汪花は話してこないけど、俺は彼女が短期の派遣を選ぶ理由を、なんとなく知っている。おそらく長くいたら、また人間関係でこじれるかもしれないと恐れているんだろう。

 汪花は自分の魅力の大きさに気づいていない。目立たなくするとかのレベルじゃなくて、存在していることで人を引き寄せるんだよ。もうずいぶん前から知っていることなんだけど、これも汪花には教えてあげない。

「このままだと、いずれ働ける場所がなくなりそう~」
「仕事がなくなったら、俺が面倒みてやるよ」

「派遣が終わるたびにいつも言ってくれるよね。
 避難場所があるって安心する。ありがとう。
 でもすぐに次を探すよ。また就活だな~」

 本当は不安なくせに明るく返すなよ。
 俺の前では弱いところを見せても大丈夫だぜ……?
 そして「一生●●面倒みてやるよ」って告ってるんだけど、気づかないんだろうな。

 鈍いところはたまにイラッとするけど、それも汪花の魅力の一つだ。困難にぶつかっても自分で道を切り開いて、立ちはだかる壁も楽しみながら対処法を考えて越えていく。うらやましいぐらいの真っすぐさだ。

 俺は完全に汪花にハマってしまった。もうだいぶ前から汪花に俺のパートナーになってほしいと思っている。充足感をくれる彼女は今でも十分に魅力的だけど……オマケもあるんだ。

 汪花がパートナーになったら引き出したいと思っている部分がある。それは汪花自身は気づいていない魅力だ。

 汪花は時おり妖しいくらいの色香をまとう。ふだんの言動にほんの少しだけ現れることもあるけど、そこまで気になることは少ない。だが酔うと閉じ込めていたものが解き放たれたかのように妖艶に映ることがあるんだ。

 ほろ酔いになると、すぐに容姿に変化が現れる。頬にピンクが差し、潤んでとろんとなる瞳は誘っているようで艶めかしい。信頼しきって俺の前で見せるガードのゆるんだ姿は、無防備すぎて理性がゆらぎそうになるくらい魅惑的だ。でもそれだけじゃないんだ。

 前に飲んだとき、満員電車に乗ったことがある。すごく混んでいる中、俺の前に立っている汪花との距離が近くて耳が目についた。イタズラ心で耳に息を吹きかけると、敏感に体が反応して小さな声がもれた。予想外の感応の高さに本能が刺激されて、危うく飛びつきそうになった。

 汪花は感じやすくていい声を出すだろう。酔った姿を見るたびに、汪花を快楽におぼれさせてみたいという衝動に駆られる。俺のパートナーになったら、絶対に女の魅力を引き出してやる。

 えっ?
 「そんなにいい女なら今すぐ食っちまえ」って?

 そうだな、割り切った関係の相手ならそうするさ。
 だがパートナーは別だ。
 俺はたった一回のミスで信頼を失いたくない。
 それに人生にはスリルもあったほうがいいだろう?

 は?
 「悠長にしてたらそのうち誰かがかっさらうぞ」って?

 心配無用だ。
 汪花はくだらない人間にはなびかない。

 俺は汪花をパートナーにしたいと思ったときから、彼女にふさわしい男になるように自分を磨いている。経済力をつけ、体も鍛えて備えている。汪花が安心できる居場所を与え続けることが俺の目標だ。

 俺と張り合えるヤツなんてそうそういないだろうから自信はあるが、一つだけ不安要素がある。汪花はとても魅力的だ。暴走したやつが彼女を襲ってしまわないかだけが心配だ。

 以前の俺だと欲情する思いのまま汪花を強引に押し倒して、気持ちをぶつけていただろう。でも今は大人だ。焦らずゆっくりと俺の良さを伝えて、汪花が自然と好きになるようにしてやるさ。


― 了 ― 


※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


🏝️ 動画 準備中 🏝️
【動画の内容】※音あり(音声「🏝️」)


【完結済み】  

Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle



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