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『大人の本音だだもれ。』24話 オトナの男の恋愛【Web小説】

第24話 俺と彼女の関係

 八時をすぎていても高層ビルの最上階にある展望室には人影がちらほらある。フロアは夜景がよく見えるように照明を暗くしていて、ボリュームをおさえて音楽を流している。

 展望室はカップルが多く、窓際で寄り添っている。ロマンチックな夜景を見てムードを高めているんだろう。彼らの邪魔をしないように気をつけながらフロア内をゆっくり回っていく。

 探していたものを見つけて足を止めた。しばらく眺めてから再び歩き出し、夜景が見える窓辺に着いた。

「おつかれ」
見影みかげ!?
 おつかれさん。偶然だね」

「偶然じゃないよ。
 今日は汪花おうかの派遣最終日だろう?
 だからいるかなと思って」
「最終日だけど……。
 でもよく展望室ココにいるってわかったね?」

「もともとこの場所を教えたのは俺だし。
 それに派遣の最終日はよくここに行くって前に話していただろう?
 だから今日もと思ったら当たってた」

 短期の派遣契約が終了した汪花は会社を出たあと、電車移動してこの展望室へ寄ったのだろう。終業時間から考えて、もう数時間も経っているはずなのにまだ飽きないみたいだ。汪花の隣に立つと都会まちの景色を眺めた。

 しばらく窓の外を見ていたけど汪花に声をかけた。

「なあ、食事に行かないか?」
「あ――…… ごめん、金欠」

「おごるよ。派遣終了をねぎらってやる」
「やったぁ!」

 汪花は床に置いていたバッグを手に取って肩にかけると、うれしそうにそばに来た。そのまま連れだって歩き、展望室をあとにした。


 なじみの居酒屋に入るとカウンター席に案内された。すぐにメニューを取って、いつも頼んでいる料理を注文していく。汪花は早くも横でくつろぎ始めている。

 ドリンクが席に運ばれてくると、グラスを合わせて「おつかれさま」と乾杯して飲み始める。しばらくすると頼んでいた料理が次々とテーブルに置かれていった。

 汪花はごくごくとおいしそうにチューハイを飲む。本来、お酒が好きなのだが、仕事の飲み会ではアルコール類はなるべく飲まないようにしているらしい。でも俺と一緒にいる場合は遠慮なく飲んでいく。

「相変わらずいい飲みっぷりだな」
「見影のおごりで飲み放題なら、飲まないと損、損♪」

 飲むペースは早くてドリンクもアルコール度数が高めだ。すぐに汪花の頬はピンクが差し、ほろ酔いとなってリラックスしてきた。ご機嫌となった汪花は運ばれてきた料理を次々とたいらげ、食べきるとメニューを見始めた。

「これ、注文してもいい?」
「おごりだって。好きなの注文しろよ」

「いやいや、スポンサー様の了解は必要でしょ?」
「変なところを気にするよな」

 了解を得たらいくつか追加注文し、夢中で食べていく。汪花の胃袋が落ち着いてきた頃合いをみてから聞いた。

「今回の派遣先、どうだった?」
「仕事は楽勝で楽しかったよ」

「書類作成だっけ?」
「ワープロ系がメインだったから楽だった」

「人間関係でトラブルはなかった?」
「いい人たちだったよ」

 汪花は派遣先のことを思い出しているようで宙を見ている。そんな汪花を横目で見ながら、ゆっくりとした口調で聞いてみた。

「言い寄られたりしたんじゃないの……?」

 汪花は料理を口に含みながら中空に目をやって回想している。黙っていたけど、ほんのわずかに困ったような表情になり、ドリンクに手を伸ばして喉を潤すと話し始めた。

「いた……。言い寄ってきた人」

 思わずビールを飲む手が止まってしまった。でも汪花は気づかず話を続けていく。

「はじめはやたら距離が近いなと思った。
 書類を渡すときに手にふれてきたこともあったっけ。
 別に気にしてなかったけど、告られた」
「……で? どうしたの?」

「もちろん断った。
 けど、諦めてなくて忘年会のときに、また告白された」
「……OKしたの?」

「しないよ。
 だってさ、通せんぼして顔を近づけてきたんだよ?
 強引すぎてちょっとムカついてさ、首に噛みついたんだ。
 そしたら離れてくれた。予想外って顔で驚いてたよ。
 まだまだ青いな~って思った」

 表情が切り替わって笑っているけど、俺には笑えない出来事だ。

「……そのあとは何もなかったの?」
「ん――? 忘年会が終わったら、一緒に帰った人とコンビニに寄った。
 アイスを買って外で一緒に食べて、そのあとは電車に乗って帰った」

「その人は女性?」
「うん、年上の女性。
 派遣期間中、私に良くしてくれたいい人だった」

「ほかに何かあった?」
「ほかに?
 ん――、いや…別になかった……?
 仕事に集中してたからわかんないや。
 本当は今日、私の『お疲れさま会』をする予定だったけど、事前に断っておいた」

「なんで?」
「主役だとお酒をすすめてくるでしょ。
 アルコール入ると判断能力が低下するから、それは回避しないと。
 最後で『仕事モード』が解けたらマズイ」

 軽く流して笑っているけど、汪花はいろんな思いを隠しているように見える。

 派遣先で小さなトラブルがあったみたいだな。
 俺のときもそうだった。
 本当の性格を知っているから真相は想像できるけど……。

 汪花と話していると自然と過去のことを思い出す。

 俺が汪花と出会ったのは、勤めている会社に派遣として入ってきたときだった――。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle



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