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【実績】インクルーシブデザインによる博物館常設展リニューアル|徳島県立博物館(2019)

・実施期間:2019.05-2019.06
・クライアント名:徳島県、株式会社乃村工藝社
・パートナー:京都大学 総合博物館 准教授 塩瀬隆之氏
・実施分類:サービス・商品開発|インクルーシブデザインワークショップ

(※徳島県立博物館では2020年もワークショップを実施しています。本記事は2019年の活動をまとめたものです)

日本で初めてインクルーシブデザインを用いて博物館常設展のリニューアルを行った徳島県立博物館。常設展リニューアルへ向けたワークショップの企画・運営を、2019年から2020年の2年間に渡って担当しました。「誰もが歓迎される博物館」を目指し、初年度である2019年は2回のワークショップを実施。多様なリードユーザーを招き、どうすれば常設展の展示内容が「伝わる」ものになるかを共に探り、リニューアルに反映していただきました。

What has changed

  • 日本で初めて、インクルーシブデザインによってリニューアルされた博物館が生まれた

  • インクルーシブデザインを初めて体験することで、これまでの伝え方では「本当に伝えるべき内容が届いていない」ということを職員自身が発見し、気づく機会を得た

  • 職員の意識が変わり、ワークショップ後も自ら発見を続けて改善策を考えるための土壌が生まれた

  • 各展示物で知っていただきたいポイントが明らかになり、それらが来館者に伝わるよう、ハンズオン展示やキャプション展示の環境、デジタルツールを使った多角的な鑑賞環境デザインにつながった

STORY

 徳島県徳島市、文化の森総合公園に建設されている総合博物館・徳島県立博物館。1990年の開館以降、「郷土に根ざし世界に広がる博物館」「開かれた博物館」「研究を大切にする博物館」「文化財を守り自然の保全をめざす博物館」の4つの理念を掲げ、人文科学と自然科学の分野をあわせた総合的な展示を続けられています。

 今回、開館30周年の節目に、「誰もが歓迎される博物館」を目指した常設展のリニューアルが計画され、その中でインクルーシブデザインの手法を取り入れることとなり、乃村工藝社さんを通してCollableへとお声がけをいただき、ご一緒させていただくことになりました。

 今回のプロジェクトで特徴的だったのは、「インクルーシブデザインとは何か」「なぜインクルーシブデザインが必要なのか」といったインプットを、ワークショップ以前に塩瀬先生から職員の皆さんに対して行なっていただいていたということ。唐突に「インクルーシブデザイン」という言葉を突きつけるのではなく、前段としてその意味や意義を少しでも職員の皆さんが理解してワークショップに臨んでいただけたことは、参加者の心理的な負担を減らすと共に、「共に気づきを探しにいくんだ」という重要なマインドセットをすることができ、私たち運営者にとってもとても有難いステップとなりました。

 2019年度は、博物館の利用者として想定される方々の中から車椅子利用者、徳島県在住の外国籍の方、聴覚障害のある方、視覚障害のある方をリードユーザーとして選定し、7名の方にワークショップに参加していただきながら、展示物の展示方法や解説の方法について職員の皆さんと共に検討していくというワークショップを設計しました。

リードユーザーの選定

 私たちCollableは、インクルーシブデザインを実施する際のワークショップに参加していただく当事者の方々(リードユーザー)の選定には、いくつかの重要な視点があると考えています。今回は特に「博物館」という場所柄、職員の皆さんが普段から「本当に展示内容が伝わっているのか?」と気になっていた博物館の鑑賞者となりうる方々をお招きしました。

 また、徳島県立博物館は地域の文化を伝える場所でもあり、近隣の地域住民との関係性も深いことが予想されることから、「徳島在住者」に絞っての選定を行なうことも大切にしたポイントです。これは、インクルーシブデザインというものの性質である「デザインをする上で想像されにくく、排除されてしまいやすい方々を含む、多様な声を聴き共に創り続けることが重要である」という点も踏まえ、博物館が今後も小さなアップデートを続けていくことを念頭に置き、その街に暮らすリードユーザーの声を聞く機会や接点を作っておくという狙いも持っています。

ワークショップの内容

 ワークショップは2回に分け、5月と6月に実施。7名のリードユーザーの皆さんには2日程どちらにも参加をしていただき、館長・副館長や職員(学芸員)の皆さんも共にワークショップに参加していただく形で運営を行いました。
 5月のワークショップは、主にリサーチを行うことを主な目的として運営し、6月はそれらをもとに展示リニューアルに反映させていくアイディアの種をたくさん生み出すことを主な目的としています。
 当日は参加した職員の皆さんと共に5-6名程度のグループを作ってもらい、アイスブレイクを行なったあと、触れることのできる展示物をそれぞれに触ってもらったり、それについて職員が解説を行なったり、館内を巡りながら展示物を鑑賞してもらうということを行いました。

 例えば、目の見えないリードユーザーに敢えて情報を与えずに巨大なアンモナイトの化石に触れてもらうとどうなるか。実際にワークショップの中で起こった会話としては、こんなものがありました。

視覚障害のあるリードユーザー「これは石ですか?」
博物館職員「いえ、これはアンモナイトです」
視覚障害のあるリードユーザー「“アンモナイト”……?」
博物館職員「アンモナイトは、タコのような触手が貝殻のようなところから伸びていて……」


実際のワークショップの様子

 職員さんが伝えている「アンモナイトの知識」は正しいものの、リードユーザーの方が触れているアンモナイトの化石には「柔らかな触手」や「貝殻のような触感」はなく、そうなると結果的にアンモナイトがどのようなものなのかが上手く伝わらないということがここでは起こりました。

 こうした体験をすることで、「もっとわかりやすく展示するための工夫ができるのかもしれない」という視点に加えて、「もしかすると、普段の展示方法や解説は健常者にとってもあまりわかりやすい内容ではないのかもしれない」「そもそも自分たちが考える『来館者に伝わってほしいこと』って何なんだろう?」といった問いや発見を参加者たちは重ねていきます。

 また、リードユーザーとの対話を続ける中で、お互いに伝え方の工夫や見せ方のアイディアを発見し、それらをグループごとにまとめて可視化することで、展示の改善へのヒントとすることができました。

 後日談として、展示部分以外に駐車場への改善の視点も生まれ、後日職員の方自らが提案し屋根を取り付けるなどの工夫をされたというお話も聞いています。積極的に参加されていた職員の皆さんが、インクルーシブデザインワークショップをきっかけにそのような「気づき」へのアンテナを持って下さったのだとすれば、こんなに嬉しいことはないなと思います。

【参加していただいたリードユーザー】
車椅子利用者2名、徳島県在住外国人2名、視覚障害者1名、聴覚障害者2名
【ほか参加者】
乃村工藝社社員、近代美術館職員、二十一世紀美術館職員、徳島県立美術館職員


2020年の取り組みはこちらから


関連リンク

徳島県立博物館

徳島県立博物館常設展全面リニューアル・これまでの取り組み

徳島県立博物館 常設展リニューアル(乃村工藝社)


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