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好きの裏側に、羨む気持ち【初恋の果て感想】

すごくすごく好きになったのは、私の外見や性格じゃなくて、私が紡ぎ出す言葉を「好きだ」と言ってくれたからだった。

そんなふうに、自分の感性を好きだと言ってくれた人、あるいは自分の感性に刺さる感性を持ち合わせていた人を好きになる物語は世の中にありふれている。

誰もわかってくれなくても「私は好き」って言ってくれる。その他大勢に「キライ」と言われても、あなたからの、その言葉だけで、世界はキラキラと輝いていった。

「あーもう何もいらない」「わたしが好きだと思っていた人が、わたしのことをわかってくれるなら、それでいい」

お互いの才能に恋をするというのは、きっとそういう気持ちで心がいっぱいになることなのだろうと思う。

でも、才能に恋をすると言うのは怖い。

だって、もしもその才能が嘘だったら?才能があるゆえに歩いていた路線から途中下車してしまったら?

きっと、どちらか片方が、そうなった場合「じゃあね」を言うのは難しい。「あなた、本当は私のことなんて好きじゃなかったんだね」「才能がない私なんて、魅力がないんだね?」と責められるのが怖いから。本当はそうだったとしても、そこまで薄情な人間だと思われたくないから、きっと強がってしまう。「大丈夫、何も持っていまいとあなたが好きだよ」と。

一方で失った側は、そう言われると信じて思ってもいない言葉を投げつけてしまうことがある。「どうせ私なんか」「才能なんてない」「持っている側の人にはわからない」と。

そんな言葉、「そんなことないよ」と言われたい待ちのただの嫉妬だ。薄々気づいていても、絶対にそうとは認めないけど。

『初恋の果て』は、生ぬるい風にずっと当たっているような気分になる作品だった。ずっと微熱が下がらなくて、そんなときに口の中で溶かすアイスクリームのような感覚。泣きたいのに、鼻の奥がツーンとする止まりで涙は出てこない感じ。

なぜだろう。自分のことのように苦しい。

いつか私は、心地よいとは言えない、この生温さから抜け出すことができるだろうか。


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