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旅に出るときの乗りものは

暗い夜の海に、大型のフェリーが一隻浮かんでいる。
その中の2等部屋に自分たちはいる、らしい。薄い毛布が配られ、限られたスペースには、決して少なくない人数がひっそりと乗っている。

周りの乗客の気配を含んだ静けさは、その質量のまま緊張感に置き換わって、無意識のうちに息を殺してしまう。気がつけば、体も少しこわばっている。

船のつくり自体はある程度しっかりしているらしいので、天地がひっくり返るような揺れはない。「安全な航海」ができればよいなら、このまま我慢を続けることもできるだろう。

船の目指す「目的地」と、自分のほんとうの「目的地」は同じだろうか。

身の安全は確保されやすい、けれど、快適さや心の安全はどうだろうか?
船を降りる頃には体のすべてが硬直して、息の仕方も忘れているかもしれない。そして目的地さえも。

息をひそめて夜明けを待つ。
朝靄の中、フェリーの後ろにうっすらと筏が見える。

きっと安全性は低いだろう。けれど、目指す方向に向かうなら、少数の仲間と筏に乗って冒険するのも一興か。

どの船に乗るか、どこに行きたいのか。
靄が晴れて光が差す先には、どんなものが見えるかしら。

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