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漫画原作:『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』第2話

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『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』第2話シナリオ(※マンガ原作形式)

凡例:

文章間に挿入された▼記号は、そこでマンガの該当ページが開始することを示す。

文章間に挿入された●記号は、そこでマンガのコマが変わることを示す。

文章間に挿入された2つの●記号は、そこでマンガのページが切り替わることを示す。

文章間に挿入された▲記号は、そこでマンガの該当ページが終了することを示す。

基本的にそのコマに入る、「 」でくくられた、擬音・字幕・独白・セリフ・解説を先に記載している。
次いで、そのコマに入る背景や人物の情報が記載されている。
この2つと文章間に挿入された●記号でマンガの1コマに入る情報を区別している。

人名の後の「 」の中には、その人物のセリフが入る。

人名独白の後の< >の中には、その人物の心の中のつぶやきが入る。

字幕の後の「 」の中には、5W1Hを説明する文が入る。

擬音の後の「 」の中には、そのコマに必要な効果音が入る。

解説の後の「 」の中には、作者の事項に対する解説文が入る。

「 」の中の( )はセリフのルビを示す。

「 」の中の" "はセリフの強調を示す。

( )は、( )の時点で、場面転換・時間経過・画面暗転が発生し、前のコマと次のコマとの間でストーリーが転換することを示す。

セリフなどの後の、背景や人物情報などを記載する文章の中の『 』や「 」は、背景や事物に、カッコ中の文章が記載されることを示す。 

※は、該当コマを作画化する上での注釈や作者の意図を示す。


1ページ


タイトル『蹴鞠の君~鞠庭秘抄』  第2話「蹴聖(しゅうせい)への第一歩」

綱丸「若様!!」
経澄「若…」
裏葉「……」
蹴鞠丸(しゅうきくまる)に声をかける綱丸(つなまる)・経澄(つねずみ)・裏葉(うらは)の上半身のアップ。
※登場人物たちの衣装は、前回と同じ。

擬音「ニヤリ」
擬音「ニヤニヤ」
人を見下した表情をとる対戦相手の大柄の童(わらわ)・小柄の童・女童(めのわらわ)の上半身のアップ。

蹴鞠丸「綱丸……」
綱丸の声に両手で鞠を抱えたまま背後を向いたまま蹴鞠丸の後姿。

2―3ページ


蹴鞠丸「鞠(まり)が…」
蹴鞠丸「鞠が空を飛んでいたぞ!!」
両目を輝かせうれしそうな顔で綱丸に語り掛ける蹴鞠丸。

擬音「ポカ~ン」
目を点にして呆気にとられる、大柄な童・細身な童・女童の上半身アップ。

大柄の童「はっははは」
擬音「ギャハハハ」
細見の童「"鞠が空を飛んでいたって?"」
擬音「キャハハ」
女童「あはは 当たり前じゃない」
腹を抱えてうずくまりそうになったり、仰け反りそうになりながら、大笑いする3人。

経澄独白「若…」
力無く肩を落とし、呆気にとられた表情をする経澄。

擬音「フルフル」
全身を震わせて、感動に包まれた時のような表情をする綱丸。
綱丸を不審げな表情で見つめる裏葉。


綱丸「若様が…あんな表情(かお)をするなんて」
心からのうれしさのあまり全身を震わせている綱丸。

綱丸「あんなにうれしそうな若様…見たことがありません!!」
目元を潤ませながら我が事のように笑顔で喜ぶ綱丸。

顔を上げて、空の上に蹴り上げられた鞠を見上げる蹴鞠丸。
何かに魅せられたようにキラキラした瞳で見つめている。
蹴鞠丸を空から見上げた俯瞰の構図。
※前回29ページ1コマ目と同じコマで。

蹴鞠丸独白「なんて…なんて麗しい(うるわしい)のだろう!」
蹴鞠丸の斜め上に浮かぶ鞠に目を輝かせた蹴鞠丸の顔の俯瞰アップ。
※麗しい…古語で壮麗・美しいの意味。
※前のコマを蹴鞠丸の顔を中心にカメラをアップさせたコマで。

蹴鞠丸独白「なんて…雅びやか(みやびやか)なのだろう!!」
両手に大事そうに抱えた鞠を心からうれしそうな表情で見つめる蹴鞠丸。
※雅やか…古語で優雅な・上品で美しいの意味。

4―5ページ


擬音「ポンポン」
蹴鞠丸独白「はやく…はやく鞠を蹴ってみたい!」
木製の浅沓(あさぐつ)を履いた右足で鞠を蹴り、調子を整える蹴鞠丸。
左手に据えた鷹を右手に握った鞭(むち)で打つように、左腕をやや上げ、右腕をやや下げている。

擬音「ポーン!」
蹴鞠丸独白「もっと…もっと高く鞠を蹴ってみたい!!」
鞠を右足で天高く蹴り上げて、細身の童に鞠を返そうとする蹴鞠丸。

蹴鞠丸が蹴り上げた鞠を見上げて目測を定めようとする細見の童。
※上空の鞠を見上げる細身の童をアオリ気味の構図で。

細見の童独白「へへ ちょろい ちょろい」
鞠を見上げる細見の童の顔のアップ。


擬音「キラッ」
蹴り上げられた鞠がちょうど太陽にかかる。
※下から上空の鞠を見上げた構図で。

擬音「カッ」
太陽の光が小柄の童の顔にかかる。

細見の童「うあぁ!」
太陽の光にめがくらんだ細身の童は右手を目元にかかげて、日の光を遮ろうとする。

擬音「ポン」
細見の童の足元に音を立てて落ちる鞠。

擬音「コロコロ」
原っぱの地面を転がる鞠。

蹴鞠丸たちが蹴鞠勝負をしている原っぱを俯瞰でみた構図。
画面左手(西側)には、画面奥(北側)から綱丸・蹴鞠丸・裏葉の順に立っている。
画面右手(東側)には、画面奥(北側)から細身の童・大柄の童・女童の順に立っている。
画面奥中央(北側)には、経澄が綱丸と細身の童の中間の位置に立っている。
原っぱの四隅には、木がそれぞれ1本ずつ立っており、北西の綱丸の側に立つ木は枝葉の茂った大木が立っている。

蹴鞠丸「やったあ!」
右手をかかげて飛び跳ねる蹴鞠丸。

6―7ページ


細見の童「くそう」
大柄の童独白「日の光で目測を誤ったか…」
悔しさのあまり地団太を踏む小柄な童。
細見の童を見つめながら、鞠を見落とした理由に気づく大柄の童の横顔のアップ。
目を細めて、怪訝(けげん)そうな表情をしている。

擬音「!」
大柄の童「おい!」
大柄の童の呼びつけに気づきハッとした表情の細身の童。

擬音「ヒソヒソ」
近寄ってきた小柄の童に、何事かを耳打ちする大柄の童。

擬音「ニヤリ」
我が意を得たとばかりに嬉しそうな顔をする細見の童の顔のアップ。

擬音「ビクン」
綱丸「ひっ」
細見の童の視線にたじろぐ綱丸。

擬音「ポン」
細見の童「そおーれ」
高々と右足で鞠と蹴り上げる細見の童。


蹴鞠丸「綱丸 そっちにいったぞ」
右腕を横に振りだして、鞠の飛んでいった先を綱丸に指示しようとする蹴鞠丸。

擬音「ハアハア」
空を飛ぶ鞠を懸命に走って追う綱丸。

綱丸「とあ~」
鞠を足に当てようと必死に右足を前にのばす綱丸。

浅沓を履いた綱丸の右足と鞠のアップ。

擬音「スルリ」
鞠は無常にも綱丸の浅沓のつま先の手前で地面に落ちてしまう。

擬音「!!」
綱丸が鞠に足が届かなかったことに対して、ハッとした表情で見せる裏葉。

8―9ページ


細身の童「へへへ」
お返しだと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる細見の童。

綱丸「ああ…」
鞠を落とし、狼狽した表情の綱丸。

鞠を落とした申し訳なさに、今にも泣き出しそうな綱丸。

擬音「ザッ」
原っぱにしゃがみ込んで両手で鞠を拾う裏葉の手のアップ。

両手で大事そうに鞠を抱え、無表情で綱丸の前に立つ裏葉。


擬音「ニコリ」
裏葉「だ・い・じ・ょ・う・ぶ」
裏葉は、両手で鞠を持ちながら、落ち込んだ綱丸を元気づけようと満面の笑顔で鞠を綱丸に手渡そうとする。

綱丸は、右手の人差指で右の瞼をこすり、涙を拭く。

綱丸「あっ…ありがとう」
目の端に涙を少し浮かべたままの綱丸は、はにかんだ表情で裏葉から鞠を受け取る。

擬音「ホッ」
蹴鞠丸独白「綱丸…」
元気を取り戻した綱丸の姿と、綱丸を気遣う裏葉の優しさにホッとした表情を見せる蹴鞠丸。

経澄独白「1対2…」
緊張した表情で勝負を見守る経澄。

点数を表示するように、地面に1つの小石と2つ小石がそれぞれ分けて置かれている。
1つの小石が蹴鞠丸たちの得点。
2つの小石が3人の悪童たちの得点。

10―11ページ


擬音「ポン」
綱丸「いっ いきますよ」
緊張した面持ちをして右足で鞠を蹴って調子を整える綱丸。

擬音「ポーン」
綱丸「それ」
渾身の思いを込めて右足で鞠を蹴り上げる綱丸。

擬音「ツルリ」
綱丸「あっ」
右足を振りきった綱丸は体のバランスを崩し、後ろに転びそうになる。

擬音「ドスン」
綱丸「いたた」
大きな音を立てて後ろに転んだ綱丸は盛大な尻餅をつく。

擬音「フワリ」
空をやや力なく飛ぶ鞠。

大柄の童独白「へへへ…ちょろいちょろい」
綱丸が蹴り上げた鞠の落下地点の目測を定め余裕の表情の大柄の童。


擬音「ポン」
大柄の童「そーら」
大柄の童は、力強い表情で、落ちてきた鞠の調子を整えることもなく、すぐさま右足で蹴り上げる。

力強く空を飛ぶ鞠。

鞠の行方を注意深く見守る蹴鞠丸。

擬音「ポン」
女童独白「うふふ」
大柄の童からの鞠を、不敵な笑みを浮かべながら難なく右足で受ける女童。

擬音「ポン」
顔の辺りまで軽く鞠を蹴り上げて調子を整える女童。
口元に笑みを浮かべながら、鞠を見つめている。
※女童は裏葉に狙いをつける。

裏葉「!!」
ハッとした表情で何かを感じ取ったような裏葉。

12―13ページ


擬音「ザッ」
蹴鞠丸「!」
直感で女童が鞠を蹴り返す先を裏葉に定めたことを感じ取り、裏葉のいる方向に駆け出す蹴鞠丸。

擬音「ポン」
女童が蹴り上げて、裏葉の方に向かって空を飛んでいく鞠を必死な表情で追いかける蹴鞠丸。

擬音「ハァハァ」
蹴鞠丸独白「追いつける…」
息を切らせながら、鞠を拾い蹴り上げる距離まで近づき、安堵の表情の蹴鞠丸。

擬音「ザッ」
蹴鞠丸独白「!!」
地面に落ちそうな鞠に、走り近づいてきた蹴鞠丸の右前方を黒い人影が横切る。

擬音「ドン」
蹴鞠丸「うわあ!」
蹴鞠丸の前を横切ったのは、鞠を拾おうと駆け出してきた裏葉であった。
蹴鞠丸と裏葉はお互いに身体を衝突させる。

経澄「若ぁ!」
大声を張り上げて蹴鞠丸の身を案じる経澄。
不安気な表情の綱丸。


蹴鞠丸「いててて」
地面に尻もちをついた状態で、おでこにできたたんこぶを両手で撫でながら痛みに耐える蹴鞠丸。
痛みのあまり目尻にうっすらと涙を浮かべている。
蹴鞠丸の側では、裏葉がうつ伏せの姿勢のまま地面に倒れている。

擬音「ハハハ」
細身の童「味方同士で"頭"をぶつけあうなんて…ぷっくく」
擬音「ウフフ」
女童「あら"声無し" 公家の若様と"お見合い"かしら?」
鞠を追って味方同士で衝突した蹴鞠丸と裏葉を見て、馬鹿にしたような表情の大柄の童・細身の童・女童。

蹴鞠丸「!!」
裏葉が気絶してしまったのかと不安な表情を見せる蹴鞠丸。

擬音「ビクリ」
うつ伏せのまま倒れている裏葉が気を取り戻したのか反応を示す。

擬音「フラフラ」
擬音「ムクリ」
蹴鞠丸と激突した影響が残っているのか裏葉は頼りなげに立ち上がる。
俯いたままの裏葉の表情が読み取れない。

14―15ページ


擬音「ニッコリ」
土まみれで頬に擦り傷のできた裏葉が涙を懸命にこらえながら、満面の笑みで「自分は大丈夫」だと自分を案じる蹴鞠丸達を安心させようとする。

1対3の状況を表すように、地面に置かれた1つの小石と3つの小石。

大柄の童「"声無し" さっさと蹴り返せ」
右手をかかげて、裏葉に鞠を早く蹴り返してくるように促す大柄な童。

擬音「ニヤリ」
大柄の童「どいつもこいつも…鞠を拾うことすらできないなんてな」
蹴鞠丸が鞠を満足に返すことができない様子を見て、人を見下した表情をする大柄の童。

細身の童「こりゃ 楽勝ですね」
女童「さっさと 終わらせましょうよ」
蹴鞠丸が相手にならないと思い、口元を歪めながらお互いを見合う細身の童と女童。

擬音「ポン」
大柄の童独白「一気に勝負を決めてやる」
裏葉が蹴り返してきた鞠を右足で整える大柄の童。
余裕の表情で自らが蹴り上げている鞠に視線を向けている。


大柄の童「こいつで とどめだ!!」
右足を振り切り高々と鞠を蹴り上げる

大柄の童が蹴り上げた鞠の行方を緊張した表情で見上げる蹴鞠丸・綱丸・裏葉の3人。

蹴鞠丸「綱丸! そっちに行ったぞ!」
左腕を振り出して、綱丸に注意を促そうとする蹴鞠丸。

擬音「!!」
先程、鞠を落としてしまったこともあり、アタフタと取り乱す綱丸。

擬音「カッ」
綱丸独白「あっ」
綱丸は、浅沓を履いた右足の甲に何とか鞠を当てるも、靴に跳ね返えってしまう。

綱丸独白「落ちる…」
今にでも地面へ落ちていこうとする鞠。

擬音「バッ」
鞠を見つめる綱丸の視界に黒い影が飛び込んでくる。

16―17ページ


綱丸「若様!」
浅沓を履いた右足を懸命に伸ばして鞠を拾い上げる蹴鞠丸。

擬音「ヨシ」
経澄独白「若!!!」
マウンドで強打者を三振に仕留めた投手のように、小さくガッツポーズをとる経澄。

擬音「ポン」
低い弾道で地面の上を飛ぶ鞠。

蹴鞠丸「頼む!」
声を張り上げて蹴鞠の行方を見守る蹴鞠丸。

蹴鞠丸の拾った鞠に行き先には裏葉が緊張した面持ちで立つ。


擬音「ポーン」
必死な表情で右足を振り切って、鞠を蹴り上げる裏葉。

地面をポップするようにのびてゆく鞠。

綱丸・蹴鞠丸・裏葉の3人の思いが詰まった鞠が、呆気にとられた表情の大柄の童の左のこめかみの脇をかすめてゆく。

擬音「ポン」
大柄の童「……」
後ろを振り返った大柄の童の視線の先では、地面に落ちた鞠が跳ね返っている。

18―19ページ


蹴鞠丸・綱丸・裏葉「やったあ!」
力を合わせて、ようやく鞠を返すことができたことに満面の笑みを浮かべる3人。
蹴鞠丸は歓声を上げ、綱丸はうっすらと目尻に涙をため、裏葉ははにかんだ様な微笑みを見せている。

擬音「ギリッ」
大柄の童「くそう」
思いがけない連携を見せた蹴鞠丸達に、歯ぎしりしながら悔しそうな表情の大柄の童。傍らの細身の童と女童も口惜しそうな表情をしている。

経澄独白「若…これから反撃ですぞぉ!」
うれしそうに期待に胸を膨らませて、興奮した表情の経澄。

解説「蹴鞠丸たちと悪童たちの"蹴鞠勝負"は一進一退を続けた」
2対3の状況を表すように、地面に置かれた2つの小石と3つの小石。


解説「悪童たちは鞠をお互いに回し合いながら 絶えず蹴鞠丸たちを揺さぶり続けた」
真剣な表情をしながら、右足で鞠を蹴り上げる大柄の童。

解説「これまでにない勢いで鞠を蹴り上げてくる悪童たちに 綱丸と裏葉は何度も鞠を落としそうになったが…」
綱丸の顔面に当たり跳ね返った鞠。
綱丸は両目を閉じて痛みをこらえるような表情をしている。
鞠を拾うべくのばした裏葉の右足に当たった鞠が跳ね返り地面に落ちそうになる。

解説「蹴鞠丸は2人が落としそうになった鞠を次々に拾い続けたのだった」
嬉しそうに右足をのばして鞠を拾う蹴鞠丸。

次々に鞠を拾い続ける蹴鞠丸の姿に、必死の表情の細身の童と女童。

両目を輝かせる蹴鞠丸の上半身のアップ。

(時間経過)

20―21ページ

擬音「ゴ~ン」
擬音「カアカア」
夕方になり、傾きかけた日が東寺(とうじ)の五重の塔の瓦屋根を照らしつけている。
遠くから鐘の音とともにカラスの鳴き声が聞こえてくる。

経澄独白「9対9…」
9対9の状況を表すように、地面に置かれた9つの小石と9つの小石。

擬音「ゴクリ」
経澄独白「お互いに あと1つ…」
緊張した面持ちで生唾を飲む経澄。

蹴鞠丸たちに顔を向ける大柄な童・細身の童・女童。
大粒の汗が頬を流れ、疲れが顔に滲んでいる。

擬音「ハアハア」
悪童たちに顔を向ける蹴鞠丸・綱丸・裏葉。
3人とも悪童たちと同様に大粒の汗を流し、疲れが顔に滲み出ている。
綱丸と裏葉のこぼした鞠を拾い続けてきた蹴鞠丸は、両肩を揺らして呼吸を乱している。


笑顔を見せているが、肩で息をして疲れを隠すことのできない蹴鞠丸。

擬音「ニヤリ」
大柄の童独白「あの手でいくか」
不敵な笑みを浮かべる大柄の童。

擬音「ポンポン」
やや俯き鞠に視線を向けながら、鞠を右足で蹴り上げて調子を整える大柄の童。

擬音「ポーン」
大柄の童「そうりゃあ!」
ゴールキーパーが前線にサッカーボールを蹴るように、天高く右足を振り抜く大柄な童。

22―23ページ


大柄の童の蹴り上げた鞠が、鞠庭(まりにわ)とした原っぱの北西にそびえる、ひときわ枝葉の茂った式木(しきぼく)に見立てた大木を目がけて飛んでいく。

擬音「!」
虚を突かれた表情で頭上を通り過ぎていこうとする鞠を見る綱丸。

細身の童「よしっ!」
相手は誰も鞠に追いつけないに違いない。
細身の童の女童は、勝ち誇ったような表情を浮かべている。

綱丸独白「そんな…」
半ば諦め顔でトボトボと鞠を追う綱丸。

擬音「ヘタッ」
綱丸独白「ここまで追いついたのに…」
両手と両膝を地面につき、両目を閉じて深く俯く綱丸。


擬音「!」
蹴鞠丸「うおおおお」
俯く綱丸は両目を開き、蹴鞠丸の叫び声に気づく。

蹴鞠丸「待て 待てえ!!」
両手を力強く振りながら懸命に走って鞠に追いつこうとする蹴鞠丸。

綱丸「若様」
経澄「若!」
綱丸は顔を上げて驚いた表情。
経澄は笑顔で嬉しそうな表情。
裏葉は微笑みながら蹴鞠丸の姿を見つめている。

擬音「カサッ」
鞠は木の茂った枝葉の中に入ってしまう。

蹴鞠丸独白「いける」
大粒の汗を流しながら、決意に満ちた表情をする蹴鞠丸。

24―25ページ


擬音「カサッ」
大木の枝葉に引っかかっていた鞠が、枝にぶつかり落ちて行く向きを変えてゆく。

蹴鞠丸「うおおお」
式木に見立てた大木の幹を垂直に駆け上がってゆこうとする蹴鞠丸。

鞠は、ぶつかった枝から地面に垂直に落ちていこうとする。

格闘ゲームの三角飛びのように、大木の幹を力強く左足で踏み、鞠目がけて跳躍する蹴鞠丸。


サッカーのオーバーヘットキックのように、地面に頭を逆さになりながらも、右足を振り抜き鞠を蹴る蹴鞠丸。
※このコマは、24ページと25ページの真ん中にコマ割りする。

勢いよく大柄の童達目掛けて空を飛んでゆく鞠。
鞠は鏡に日の光が反射したかのようにキラキラと輝いている。

蹴鞠丸独白「なんて…」
蹴鞠丸独白「なんて美しいのだろう!!!」
逆さまの姿勢で宙を飛んでゆく鞠の美しさに魅せられた蹴鞠丸の上半身のアップ。

地面に落ちる寸前の鞠のアップ。
キラキラと輝いている。

擬音「ポオン」
地面に落ちて跳ね返った鞠のアップ。

26―27ページ


蹴鞠丸「やった~!」
綱丸「若様~」
スパイクを決めたバレー選手の元にチームメイトが集まるように、蹴鞠丸に駆け寄る綱丸と裏葉。

心の底から嬉しそうな笑顔の蹴鞠丸の顔のアップ。

経澄独白「若ぁ……」
両目から滝のようなうれし涙を流す経澄。

大柄な童「くそう…」
顔を真っ赤にして負けたことを悔しがる大柄な童。


大柄な童「覚えていろよ」
小柄な童「待ってよお」
女童「え~ん」
原っぱから逃げるように走り去る大柄な童。
負けた悔しさに泣きながら後を追う2人。

地面に転がっている鞠。

鞠を拾おうとしゃがみ込み、右手で鞠をつかむ蹴鞠丸。

擬音「スッ」
3人から取り返した鞠を両手で裏葉に手渡す蹴鞠丸。

28―29ページ


裏葉独白「あ・り・が・と・う」
手渡された鞠を両手で抱えて、微笑む裏葉。

足元に落ちていた小枝を右手で拾う裏葉。

地面にしゃがみ込み、右手に握った小枝を使い自分の名前を書こうとする裏葉。
鞠は左腕で大事そうに抱えている。

蹴鞠丸「ん?」
裏葉が文字を書いている様子を後ろからのぞき込む蹴鞠丸。

地面に丁寧な字で「ありがとう うらは 裏葉」と縦書きで書かれた裏葉の感謝と名前の文字。

蹴鞠丸「う・ら・は…"裏葉"って名前なんだね!!」
後ろを振り向いた裏葉の名前をはじめて呼ぶ蹴鞠丸。


擬音「ニコリ」
蹴鞠丸に自分の名前を呼ばれ、頬を赤らめてはにかんだ様な微笑みを浮かべる裏葉。

(時間経過)

蹴鞠丸「それじゃあ またね 裏葉」
右手を振って裏葉にさよならの挨拶をする蹴鞠丸の上半身のアップ。

経澄「裏葉殿 帰りは気を付けての」
恥ずかしそうな表情で裏葉を見る綱丸と、裏葉に目礼する経澄。

両手で鞠を抱えながら蹴鞠丸達が去るのを見送る裏葉の後ろ姿。

擬音「ドクン」
裏葉独白「蹴鞠丸…」
裏葉独白「はじめて… はじめての…」
生まれて初めて友達を持つことができた嬉しさに優しい微笑みを浮かべる裏葉。

(時間経過・場面転換)

30―31ページ


字幕「平安京左京八条亭」
夜の八条亭。月明かりが中庭の池にうつりこんでいる。
人々が居住する寝殿や西の対の母屋は燭台(しょくだい)の明かりが外にもれている。
寝殿の梁に設置されている釣灯籠(つりとうろう)には灯(あか)りが、また、渡殿(わたどの)や中の門など、邸宅の随所に篝火(かがりび)が灯(とも)されている。
※蹴鞠丸の父、藤原 宗通(ふじわらのむねみち)の邸宅。

網代車(あじろくるま)の牛車が、八条亭の入口である、棟門(むねもん)をくぐる。
網代車…牛車の一種。主に中下級貴族が使用する牛車の形式だが、上級貴族も私用や遠出の際に使用していた。

牛車から降りる立烏帽子(たてえぼし)に直衣(のうし)、指貫(さしぬき)姿で浅沓(あさぐつ)を履いた宗通。
立烏帽子…烏帽子の頂辺が折曲がっていない烏帽子。主に貴族が着用する。
直衣…上級貴族のみに着用が許された私服の総称であるとともに、上着の名称。
指貫…直衣や狩衣(かりぎぬ)の下に履く袴(はかま)。
浅沓…衣冠・束帯・直衣・狩衣の際に履く木製の靴。

字幕「藤原 宗通(ふじわらのむねみち) 蹴鞠丸の父 検非違使別当」
擬音「ワアー」
宗通「何事だ?」
宗通が、怪訝そうな表情で中庭の方角に目を向ける。
宗通のいる西中門から、中庭に設置された篝火の灯りがもれてきている。

中門をくぐり、中庭に入る宗通。

擬音「!!!」
驚いた表情の宗通の上半身のアップ。


中庭の四方に配置された篝火の中心で、嬉しそうな笑顔を浮かべて、鞠を蹴っている蹴鞠丸。
蹴鞠丸の周囲には、綱丸や家人たちが蹴鞠丸とともに蹴鞠に興じている。

擬音「スッ」
経澄「殿…」
困ったような表情で主人である宗通に近づく経澄。
経澄の姿に気づく宗通。

宗通「これは…」
無表情の宗通。

経澄「申し訳ご…」
勝手に中庭に篝火を焚いて、蹴鞠丸が蹴鞠に興じていることに対して、地面に平伏して、主人である宗通に謝罪する経澄。

32ページ


宗通「はっはははは」
右手で持った蝙蝠(かわほり)扇の先で口を隠しながら大笑いする宗通。
平伏した姿で顔を上げ、驚いた表情で大笑いする宗通を見る経澄。
蝙蝠扇…何本かの骨に紙を貼った扇。貴族が良く使う扇子のことです。

宗通「四郎のうれしそうなあの表情… これまで見たことがない!!」
中庭にいる蹴鞠丸の姿を見ながら、満面の笑みを浮かべて上機嫌に話す宗通。

擬音「ニコリ」
宗通「経澄 今後とも四郎の守り役 しかと頼むぞ」
経澄「ははっ」
宗通の前で平伏する経澄。

経澄独白「思いっきり不安なのじゃが…」
平服したまま顔をあげて、不安な表情で蹴鞠丸を見つめる経澄。
笑顔で蹴鞠を楽しむ蹴鞠丸。

第2話終わり。次回に続く。

裏葉の鞠を3人の悪童たちから無事取り戻すことができた蹴鞠丸。
後世、「蹴聖」と称(たた)えられる蹴鞠名人への第一歩を踏み出していく!次回、蹴鞠に魅せられた蹴鞠丸たちを危機が襲う!!乞うご期待!!

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