見出し画像

「1年間、毎日退職勧奨された」 非正規公務員アンケート 7割「ハラスメントや差別を体験」

 非正規公務員当事者や連帯する学識者らでつくる「非正規公務員voices」による「非正規公務員ハラスメントアンケート」の結果がまとまった。非正規公務員として働く中で差別やハラスメントを経験した人は68・9%にのぼった。背景には非正規が対等に扱われない職場環境があるとみられる。

仕事内容も勤務時間も「フルタイム」


 今年4〜6月、ウェブアンケートを行い、531人から回答があった。回答者の属性は現役の非正規職員が68%、退職者19%、非正規の再任用7%、委託・派遣4%など。性別では女性が84・7%を占めた。「社会保険に加入している」は79・3%で、短時間勤務でも補助的な仕事でもない「フルタイムの非正規」が非常に多い日本特有の状況がうかがえる。

 ハラスメントや差別を受けた回数は、「何度も」が67%、「2〜3回」が22%、「1回」が9%。

 今まで受けた中でいちばん重大なハラスメントや差別は「非正規を理由にしたパワーハラスメント」が最多で62・5%。ハラスメントをしてきたのは「上司(正規職員)」63・7%、「上司以外の正規職員」23・3%。職場で正規と非正規が対等だと「思わない」が78・9%を占めることを合わせ考えると、力関係に優劣がある中で、正規職員からのパワハラが横行していることがわかる。

正規職の仕事任され、情報は共有されず


 非正規であることでの不当な扱いやハラスメントの例を挙げてもらったところ(複数回答)、「正規職の仕事を任された」49・3%、「必要な情報を教えてもらえない」40・0%、「非正規さん、会計さん、非常勤さん、臨職さんなどと呼ばれる」33・0%、「何かと非正規だからと言われる」32・8%、「会議資料・研修資料が渡されないことがある」27・9%、「仕上げた仕事を正規職に取られた」27・7%、「会議やミーティングがあることを知らされない」26・4%など。

院内集会で紹介された当事者の声=東京都内

 収入が低い中で、「仕事に必要な資格を自費で取得した」「業務に必要とされる研修に自費で参加した」などの経験も2割前後あった。

約77%がハラスメントで体調悪化


 非正規公務員当事者が分析した約1000件の自由記述のうち、退職や雇用の打ち切りをほのめかす「クビハラ」の記述は121件にのぼった。

・「辞めてもらって構わないよ」
・「うるさい、クビにするよ」
・ 意見を言うと、「このプロジェクトに合ってない(から)、契約が終わる(更新しない)」などの言葉があった。
・ 上司の正規職員から「あなたは契約更新されないかもしれない」「要らない」と言われた。
・ 労働基準法違反を指摘したら約1年間毎日退職勧奨され、断ると雇い止めにあった。
・ パワハラを訴えた非常勤がまとめて雇い止めになった。

 ハラスメントを受けて体調が悪化した人が76・9%。その約半数が病院を受診し、1割強が休職している。

クビハラ横行、救済システムもなし


 共同調査者で和光大学名誉教授の竹信三恵子さんは「職務の実態に合わない短期契約を背景に、対等ではない関係に基づくハラスメントが多発している。雇用を脅しに使うクビハラが横行し、救済システムも不在だ。それによって住民サービスの劣化も起きている」とみる。

非正規公務員ハラスメントアンケートの分析について話す藍野美佳さん(左)と竹信三恵子さん=東京都内

 もう一人の共同調査者で広島大学ハラスメント相談室准教授の北仲千里さんは「非正規公務員はスクールカウンセラー、特別支援学級サポート員、児童相談所、福祉系相談員、労働相談、文化財調査員、男女共同参画センター、図書館司書、事務職、医療職と多様な職種にわたるが、どの職種もハラスメントを受けていたのが、この調査の発見だった」と分析した。ハラスメントの体験者は職種だけではなく、国、県、市町村など、雇用主の行政区分も問わないという。また、公務職場であるにもかかわらず、セクハラ、マタハラのほか、SOGIハラ(セクシュアルマイノリティーであることに伴うハラスメント)も広く見られたという。

「声を上げた人の雇用を守ってほしい」


 広島県内の自治体で、非正規の女性相談員を8年務め、3年前に退職した藍野美佳さんは、「東京にいる私の下に未だに広島県内の女性から相談が来る。DVや虐待にあっている人にとって、行政は命の最後の砦。非正規公務員を大切にすることが住民を大切にすることだ」と話す。非正規アンケートの当事者の声の分析に、フラッシュバックに苦しみながら取り組んだ経緯を明かし、「声を上げた人の雇用をみなさんで守ってほしい」と訴えた。
              (阿久沢悦子)


取材費にカンパをいただけますと、たいへんありがたいです。よろしくお願いいたします