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生活保護費の障害者加算、28年にわたり過支給か 秋田県秋田市 対象者に「返還」求める

 秋田県秋田市が1995年から28年にわたり、生活保護の「障害者加算」を誤って過大に支給し、対象者に過支給分の返還を求めていることが判明した。これまでに過支給した世帯数や総額は不明。秋田市は過支給が把握できた38世帯に対し、時効が適用されない過去5年分の過支給額を返還するよう求めている。突然、多額の返還を求められた受給者からは「貯金もない状態で、払えるわけがない」との声が上がる。

 秋田市によると、過支給のミスは会計検査院による5月の検査で発覚した。市はそれまで精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上を有する生活保護受給者に対し、障害者加算を一律に支給していた。だが、会計検査院の指摘で「障害基礎年金の受給権があり、年金の請求手続きをしていない人」などは本来、対象外だと分かった。障害者加算の認定については、厚生労働省が1995年、各都道府県や中核市などに文書で通知していたが、市は何らかの理由で見落としたまま、28年にわたり支給業務を行っていたとみられる。

1995年、当時の厚生省が各都道府県などに送った通知

 返還対象額、140万円に上る人も


 10月2日までに秋田市が過支給を確認したのは38世帯。秋田市は7月から8月にかけ、対象世帯に過支給のミスがあったことを謝罪し、経緯を説明。保護費は8月以降、過支給分を差し引いた額に減額され、振り込まれている。また対象の世帯のうち返還額が確定した世帯から順に、過去分の返還を求めている。

 過支給の金額は、一世帯あたり月額約8300円~2万4000円。
 時効にかからない過去5年分の返還額は、最も多い人で140万円に上る。対象者は今後、返還額の軽減を図る「自立更生」(国の実施要領に基づく制度)を活用しながら、分割納付などで過支給分を返還していくことになる。
 
 秋田市福祉保健部は「対象者の方々には大変申し訳なく考えております。全職員をあげて全容の解明 に努めて参ります」と話している。

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突然の請求「払えるわけがない」

 

「額が大きすぎてびっくりしている。とても払えない」
市のミスによる過支給が判明し、100万円近い返還を求められているAさんは取材に対して語った。

 Aさんは精神障害者保健福祉手帳の2級を持つ。うつ病を患って就労が難しい状況になり、生活保護を受ける ようになった。今年7月までの保護費(家賃補助を除く)は、月約8万円強。過支給分を受けていた時でも、生活は厳しかった。

物価高騰、電気代値上げで苦しく


 ここ1、2年の物価高騰に加えて今夏は歴史的な猛暑に見舞われ、特に切り詰めなければならなかった。エアコンを使うと電気代が高くなるため、昼間はうちわでやり過ごし、夜間は寝付くまでの1時間半ほどエアコンのスイッチを入れた。

 このほかに悩まされたのが食材価格だ。以前はより安価な商品を求めて複数のスーパーを自転車ではしごし、やりくりしていたが、最近は物価上昇で状況が一変した。「安い店がなくなった。今は、どこに行っても高い」。食材に加え、洗剤やトイレットペーパーなどの生活必需品も値上げされた。いくら切り詰めても出費はかさんだ。

 7月、そんなAさんのもとに市から連絡があった。毎月振り込まれていた保護費のうち、2割近い金額が過支給だったため、8月からその分を減らす、とのことだった。減らされる額の大きさにショックを受けた。

「毎月厳しいけれどやりくりをしてきました。この物価高騰の中でさらに2割も引かれたら、生活できなくなります」

 保護費は毎月3日に振り込まれる。8月3日、記帳に行くと支給額は前月より2割近く少なくなっていた。「本当に減らされるんだ」と追い詰められたような気持ちになった。

返還の「救済策」もあてにならず


 さらに追い打ちをかける 出来事があった。

 市から電話があり、Aさんに誤って支払ってきた5年分近い障害者加算を返還してもらうことになる、と告げられた。100万円近い額だった。

 「自分が何かミスをしたわけではないのに、いきなりそんな大きな額を返せ、と言われても」。言葉がなかった。日に日に食欲が落ちていった。

 返還については、国の実施要領に定められた「自立更生」という手続きを踏めば、返還額が一部軽減されると市から知らされた。

ただし、それには厳しい条件があった。

・過支給額のすべてまたは一部が預貯金として残っていること
・過支給額を消費済みの場合は「領収書」が残っていること。ただし対象になるのは家具や家電などの購入費。食費や家賃、光熱水費、携帯電話料金は対象外。

 預貯金がない場合は「全額が返還対象となります」、領収書がない場合は「全額が返還対象となります」。結局、Aさんはほぼ全額を返還しなければならないという結果だった。

「月約8万円の生活費で、貯金なんてできるわけがないです」

 過支給についてAさんには何の落ち度もない。だが、生活への激変緩和措置はなく、 担当のケースワーカーだけが現場で苦労しているようにも見えた。市に対して、憤りを感じた。それでも強くは主張できない。

「私は、ほかの人や企業が支払った税金で暮らしている。生きているというよりも、生かされている。世の中の端っこで生きなきゃいけないと思っています」

 秋田市は事態発覚から5カ月がたった10月2日まで、ミスがあったことを公表していない。「せめて市にはきちんと公表してほしい」とAさんは話す。            (三浦美和子)

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