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与勇輝作品の衝撃

私は展覧会巡りが好きでよく出かけます。特に好きなアーチストが何人かいるのですが、今日はその1人、与勇輝(あたえゆうき)さんの人形作品について書きたいと思います。

いつ初めて与勇輝作品を見たのか、はっきりと覚えてはいないのですが、テレビや新聞の広告で見たのではなかったでしょうか。写実性、デッサンの正確さだけでなく、指先まで魂が宿っているとしか思えない見事な表現力なのです。「徹子の部屋」の背景に置かれている人形でも有名ですね。特に2000年代後半くらいに話題になり、海外でも個展が開かれています。


昭和の原風景

与さんといえば昭和の風景です。特に、賢くてよく働きそうな着物の女の子たちが印象的で、顔の向きや表情、よい姿勢、指先のきゅっと締まった感じに、そのきちんとした性格が読み取れてとても美しいのです。それぞれの人形が今どんな気持ちなのかがとてもよく表れていて、お見事ですよね。

朝のお掃除/ふたり/ごめん下さい

戦後の混乱の中で生き抜く少年たちも、慢性的な怒りを秘めた表情や虚脱した状態、それでも未来に向かって希望をもっている表情などが描かれていて素晴らしいです。それまで封印してきたという、自分が目撃した風景を再現したものだと、DVDの中でご本人が語っています。

映画をテーマにしたものもあり、小津安二郎シリーズは、俳優にそっくりというよりむしろ、オリジナルのキャラクターがいるようにもみえます。私などは逆に、この人形を見てから映画を見たくなって見たくらいです。

小津安二郎/お早うー押し売り/東京物語ーもう帰ろうか

マネキン

なんでこれほど精巧な人形が作れるのでしょうか⁇人体、服のしわなど、形状の正確さが半端なく、これだけでも深く感動してしまいます。与さんがもともとマネキンを作る仕事をしていたことがベースにあるからなのでしょうか。作品の中にはスタイリッシュなものもあって、また別の美しさがありますね。

Andy/Keitai

冒頭に載せた妖精シリーズもマネキン系から派生したもののように見えますが、ファンタジーなのにリアルで、本当に森の中に生息していそうな錯覚さえ覚えます。

現物の発するものすごい生き物感

写真で見るだけでも十分感動するのですが、展覧会で現物を見ると、明らかに現実より小さいにも関わらず、これが生きてないとは思えない、と感じてしまいます。ずっと見ていると、あれ?今ちょっと動いた?と聞きたくなるくらいにリアルなんです。そしてなぜか涙が出てきてしまうという、不思議な感動を覚えます。

ロボット工学などでは、人間にそっくりなアンドロイドを見たとき、リアルであればあるほど不気味に感じてしまうという、「不気味の谷」現象が知られていますが、与勇輝作品の場合、そのようなことが全く起こらないのが不思議です。

これはどうしてなのでしょうか?私にはわかりませんが、与さんの人形の場合、人に与える共感が強すぎて、違いを検出する人間の脳機能が働かなくなるのか?などと考えています。

また、あえて強い感情、怒りや悲しみ、爆笑などは、表現しないようにしている、と話していましたが、これも関係しているかもしれません。一種の曖昧表情なので、見る人はそれを補完して表情を読み取る、それによって表情の動きを感じる、一種のimplied motionのようになっているのかもしれません。

河口湖ミューズ館という、与さんの作品が常設されている美術館があるのは知っているのですが、実は一度も行ったことがありません。近いうちに一度行ってみたいと思っています。


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