下部 博一

下部 博一

最近の記事

8 ツイスター空間について

非ケーラー多様体として、ツイスター空間の研究を連想する人は、結構存在するようである。少なくとも、以前筆者が述べた、balanced計量やstrongly Guaduchon計量を連想する人よりは、圧倒的に多いはずである。しかし、筆者はツイスター空間を研究をしたことがないので、ツイスター空間に関する研究成果を俯瞰的に延べることはできない。ただ数学サイドでのツイスター空間の研究が物理サイドにどのように還元されるのか、その辺のことを述べた論説文は皆無だと思われる。あるいは、数学サイ

    • 7 コンパクト複素多様体の起源

      局所共形ケーラー多様体の理論の続きを書きたかったが、かなりマニアックな内容なので、今回は休んで、もうちょっと王道な話をしたいと思う。ただし、メインは非ケーラー幾何につなげる予定である。 ちなみにここで注意事項を述べるが、本連載は、いわゆる自己完結的な書き方ではなく、随所に未定義の数学用語を用いている。この小論をきっかけとして、何かに興味を持ってもらうということが狙いなので、例えば、前回の記事だと、エキゾチックなホップ多様体とは何ぞや、みたいに興味を持ってもらって、読者自身

      • 6 局所共形ケーラー多様体の定義と例

        今回は序文で述べた局所共形ケーラー多様体について解説したいと思う。局所共形ケーラー多様体とは、局所的にケーラー計量に共形なエルミート計量の入るコンパクト複素多様体である。コンパクトケーラー多様体は、自明に局所共形ケーラー多様体であるので、とりわけ非ケーラーな局所共形ケーラー多様体を考えることに意義がある。ここで、局所共形ケーラー多様体の正確な定義を述べよう。局所的にケーラー計量に共形なエルミート計量というのは、次のように表現できる。 定義6-1 $$ d \omega =

        • 5 多様体から解析空間へ

          関数たちの零点の共通部分とは何なのだろうか。幾何学では、微分可能多様体、代数多様体、複素多様体などいくつか構造が知られているが、これらは、すべて、関数たちの零点の共通部分を張り合わせたものとして得られる空間の構造である。例えば、この連載で扱っている複素多様体は、局所的に正則関数たちの零点の共通部分として定義される集合が正則に張り合わさったものである。よく知られているように、現代幾何学では、多様体を考える際に外側の空間を前提としないので、あまり関数たちの零点の共通部分として多様

        8 ツイスター空間について

          4 クラスCのコンパクト複素多様体について

          クラスCコンパクト複素多様体は、正確には、Fujiki-Class Cと言われる。その名の通り、藤木先生が最初に定義した多様体である。現在では、クラスCコンパクト複素多様体は、コンパクトケーラー多様体と双有理同値なコンパクト複素多様体と定義されるが、もともとは、コンパクトケーラー多様体の正則写像による像としてクラスCは定義された。この二つの定義の同値性が証明されたのは、すこし後になってからである。双有理写像というのは、代数幾何学において扱われる変換であり、基本的には代数的な操

          4 クラスCのコンパクト複素多様体について

          3 複素構造の変形について

          小平先生の業績の一つとして、複素構造の変形理論というのがある。複素構造の変形の基礎理論は、小平先生その人による、「複素多様体論」というテキストにまとめられている。筆者は、複素構造の変形理論について研究した経験があるが、小平先生のテキストは読んだことない。またその基礎理論を学んだこともない。それでも、複素構造の変形理論に関する研究は、一応ではあるが、できたのである。その経験をもとに、今回は、あまり予備知識を必要とせず主張を理解できる複素構造の変形理論に関する研究課題を述べてみよ

          3 複素構造の変形について

          2 複素幾何学におけるPositivityについて

          Positivity in Algebraic Geometryという有名な代数幾何学のテキストがある。筆者はこのテキストを読んだことはないが、Positivityについては、思い入れがある。このテキストと同様の意味において筆者がPositivityを考えているのか不明だが、筆者が思うに、代数幾何学や複素幾何学では、Positivityという性質が重要な役割を果たすことが多い。今回はこれらの事実について眺めてみよう。 以下$${X}$$をコンパクト複素多様体とし、$${\o

          2 複素幾何学におけるPositivityについて

          1 複素多様体の計量について

          今回の記事から本論を述べる。いろいろと考えたが、以下、述べる事実に対して、証明はほとんど書かないことにする。この小論を読んで、勉強する人は皆無だと思うので、読み物風に述べたほうが、読者にとっても面白いと考えるからである。もし、気になった記述などがあれば、論文等を参照してもらえるとありがたい。 以後、$${X}$$と書いて、コンパクト複素多様体とする。今回の記事では、計量について述べたい。計量とは、幾何学的量を計算するための基本情報である。つまりリーマン計量のことであるが、複

          1 複素多様体の計量について

          局所共形ケーラー多様体への誘い

          序文 本ブログでは、複素幾何学の色々な概念を振り返りつつ局所共形ケーラー多様体の入門から始めて、研究課題まで論じることを目的とする。入門といっても、たとえば、複素多様体の定義から述べたりすることはない、つもりであるが、なにか新しい知見でも思いついたら、かなり初歩的な概念についても述べたりすることがあるかもしれない。まだ何も決まってないが、要するに、複素幾何学に対して、なにか付加価値のある情報を提供することも目指したい。 局所共形ケーラー多様体とは、ケーラー多様体ではない、

          局所共形ケーラー多様体への誘い