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私にしかできないことなんて世界にはない。でも私だからできることは世界にある。

は?溶接?なんで?

友人と話すと決まって、この反応だ。
もう100回目くらいなので、慣れている自分に気が付き、むしろ「驚かれる」のを期待している気さえする。進路が溶接の道だったことに迷いはなかったが、友人の言葉には「女の子だったらカフェとか」「製造業って危険なんでしょ」「男の仕事じゃん」…という疑問が満ち満ちている。ジェンダーレスだなんて、誰が言ってるんだか。

私は柔道を15年間も続けてきた。ついには柔道部の主将としてチームを引っ張ってきた。得意技は一本背負い。

結局卒業する時に、自信があったのは体力だけだったので、「だったら工場」と入社を決めた。自分よりも大型の選手と組み合うよりも、抵抗しない大型構造物の方が持ち上げやすい。女の子としては、珍しいこと、この上ない進路だと自分でも思う。

仕事内容は、自動車部品の製造ラインで、ロボットが溶接などの加工を行う前段階で、部品を製造ラインにセットする作業だ。当然、持ち前の体力は生かせている。おそらく、女性の作業者でありながら、多くの男性技能者と肩を並べて仕事をしている姿を見た後輩女性社員がいるならば、「カリスマ性がある」と、勘違いしてくれるのではないだろうか。

体力的には問題ないが、自動車部品の製造ラインは、驚くべき「手数」がある。特にライン作業は、次から次へと部品が送られてくるため、一定の速度で対応し続けなければならない。

しかし、例えば類似部品であっても、一般的な鉄ではなく、5倍くらいの強度がある高張力鋼材が送られてくることもあれば、やけに分厚いアルミニウムが流れてくることもある。部品の配置方法は異なるため、手を早く動かすとともに、注意深く対応できるようになるのには時間がかかった。

製造ラインは、1ライン50人程度が作業しているため、作業の遅れは社内外の全作業者に影響を及ぼしてしまう。入社して2年目だが、そこだけは責任感もあるし、たまにヒリヒリとした緊張感もある。

おそらく私の仕事は、私以外でもまわっていくだろう。

ただ、働きだした時に、家族が喜んでいたことを思い出すと胸が温まる。両親は、私が幼少期に弟と一緒になってブロック遊びに夢中になっていたことを知っているため、「製造業は天職だ」と喜んでくれることも知っている。

最近、休日に私は、家族と焼肉を食べに行くことが多い。私が奢ることもある。私じゃなければできないことは、世界にはないかもしれないが、肉をかこむ家族の笑顔は、私でなければ作ることができない。

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