大人はもっと汚いものだと思っていたけれど、どうやらそうでもないらしい。
「あのー、いまちょっといいですか......」
作業を中断して顔をあげると、1年目のコが不安そうな面持ちで立っていた。
「うん、いいよ。どうしたの?」
「あの、じつは......」
声が震えている。息づかいもいつもよりすこし粗い。
あ、なんか事故っちゃったな、と一瞬で察した。
「ま、座りなよ。あと、大丈夫だから落ち着いて」と促し、話を聞く体制を整える。自分なりに温和な表情をつくってみたつもりだけど、そうできてたかは自信がない。心のなかでは、「どこにごめんなさいしないといけないのかな、、」と考えていた。
聞くと、そのコの設定ミスでWebサイトに表示するバナー(画像)が、スマホでのみ1か月間表示されていなかった、とのこと。そして、それが社内の他部署が試験的に実施するために依頼されたものだと知って、ひとまず安堵する。とりあえず、お客さんに迷惑をかけてしまったわけではないみたいです。
そのコの説明が続く。
チームで規定している二重チェックもフロー通り実施したが、特別なターゲティング条件があったため、いつも通りの検証ができなかったこと。
PCではきちんと表示されていて、レポートの数値も確認できていたので安心してしまったこと。
1か月後の掲載データを見て、違和感を感じ、調べたところスマホでのみ配信がOFFになってしまっていたことにさっき気づいたこと。
それから、このタスクを依頼した部署の責任者には、どんなふうに謝罪しようと思っているのかについて話したあと、「自分が信じられないです、、ほんとうにごめんなさい。」と心からの謝罪をしてくれた。
これを聞いて、迷惑をかけてしまった部署の人には申し訳ないんだけど、すごく感動しちゃったんだよね。
まず、違和感を感じてすぐに調べたこと。それから自分のミスを発見して、正直に報告してくれたこと。その経緯の説明についても、再発防止のための対策がちょっと不足していたくらいで、特別足りない点は見当たらない。あと、迷惑をかけてしまった人には自分から謝罪するつもりで、その前に上司のぼくに報告をしてくれたことも。
何かをミスしてしまったときの対応として、これ以上ないものだったと思ったよ。ここまで誠意ある対応をしてくれたら、この件についてはもう言うことはなくて、
「正直に、素直に報告してくれてほんとにありがとう」と伝えた。
そのコを安心させるためでもあったけれど、ただ純粋にありがとうを言いたくなったから。
ぶっちゃけてしまうと、隠そうと思ったら隠せないこともないミス。もし自分だったら、まず間違いなく一瞬は「どうやったらバレないかな」って考えてしまう。ま、結局、あとでバレたことのほうがリスクが大きいからいつも正直に打ち明けるんだけど。
それでも入社一年目のそのコは、何もかくすことなくただ正直に打ち明けてくれた。もうね、そういう部下がいてくれて、ぼくは誇らしいよ。ほんとうに。
ここから先は上司の仕事。他部署の責任者にごめんなさいして、「ちょっと、しっかりしてよ」と叱られて、厳重注意を言い渡される。
最後に、そのコに「謝っといたからもう大丈夫やで。素直に打ち明けてくれてありがとね。これからも正直に報告するようにしてな」と言って終わり。
ぼくの部署には他にも8人のメンバーがいるんだけど、みんな今日のコに負けず劣らず素直な人たちばっかり。いつもびっくりする。
子どものころ、大人はもっと汚いものだと思っていた。足の引っ張り合いやミスのなすりつけは日常茶飯事で、他責でしかものを考えていない人が大半だと。思い描いていた社会人像と違いすぎるチームの人たちを見て、誇らしくも、どうしても違和感を感じてしまう。
たまに「自分は騙されているんじゃないか」と錯覚することもある。
それでも、目や話す声のトーンや雰囲気で、その可能性を否定することになります。
そして、最後は決まっていつも「こんな人たちと一緒に仕事ができて幸せだな。チームの責任者として、やりがいのある環境を提供できるようがんばろう」って思わせてくれるんです。
もうすぐ4月。今年の新卒入社は11人だそう。新しくジョインしてくれる人たちも、そういう人だったら嬉しいな。
ゆーき。
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