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32話「豪雨による雨水の侵入により、階下から1600万円超の請求」

バルコニー いつもキレイに 排水口も 水が溢れる 災難防ぐ

 仰々しいタイトルですが、もちろん実話です。
私たちもいつ災難に巻き込まれ、加害者側になるか被害者側になるかわかりませんので、他山の石にしたい判例です。

 豪雨による雨水が、601・602号室に侵入した原因として、
①701号室のベランダには雨が直接降りかかる構造であったが、ベランダの東南2ヵ所の排水口の排水能力が低かった(雨水が701号室内に侵入する事態はY2賃借後も度々起こっていた。Y3はY1の母A、同マンション管理人Bに改善工事を要望したが、行われなかった)。

②Y1による701号室購入前、東側排水口の上にサンルームが設置され、掃除窓は設けられたが、周囲の掃除が難しくなり、排水能力がさらに低下したほか、同ベランダがタイル張りによって底上げされ、滞留水量が低下した。

③②の結果、南側排水口に流れる水量の方が多く、塵芥も溜まりやすかったため、Y3はY1の注意に従って掃除していたが、当日の豪雨時はベランダに置かれたゴムの木が倒れて同排水口を塞ぎ、塵芥も大量に詰まり、雨水が701号室に流入し、601・602号室に侵入した。

 「少なくとも、忠実に塵芥の除去を行っていれば、かかる大きな事故発生は回避することができたことは明らかである」から、Y3に過失が認められます。
「Y3に過失がある認められる以上、同人が清算人となっており、かつ、契約上701号室の使用者であったY2に損害賠償責任がある」。
701号室の契約上の使用者はY2であったが、Y3も占有者として損害賠償の責任を負う。

ここまでは納得できます。では、701号室の所有者であり、部屋を貸していただけのY1には、責任が発生するのでしょうか。

裁判所は、以下のとおり、Y1の責任を認めました。
本件事故の発生には「本件ベランダの構造」(サンルームの設置およびタイル張りによる底上げ)が大きく影響を与えており、「そのために損害の発生が増大したこと」は明らかであるから、「これによる損害増大部分の責任を占有者に負わせることはできず、その部分は、所有者たるY1が負わなければならない」。

「Y2又はY3の負うべき損害部分と、Y1が負うべき損害部分とを区分けすることができない以上」、Yらは連帯してXらに生じた損害を賠償する義務がある。

本判決は「本件事故の原因となった豪雨は、1時間当たりの雨量が非常に大きく、両方の排水口の塵芥が完全に除去されていても、浸水を回避することができなかった可能性も否定できない」と認めています。

 あらためて整理します。
まず、Y3は、ベランダ排水口の排水能力が低いと認識していながら、ベランダにゴムの木を置いていた(放置していた?)ことに問題があります。一方で、かりに、ゴムの木が倒れることなく、木が排水口を塞いでなかったとしても、当日の豪雨の雨量は非常に大きく、浸水を回避することができなかった可能性も否定できなかったとしています。

そもそもY2が701号室を賃借していたのは、約1か月間にすぎません。にもかかわらず、そんな短期間で雨水が侵入する事態が度々起こっていたとのことですから、いつ今回のような大惨事が生じてもおかしくなかったといえます。しかし、所有者であるY1は、Y3から改善工事を要望されても、工事を行いませんでした。工事を行っていれば、ここまで大きな事故にはならなかっだであろうことから、損害増大部分については、所有者の責任としました。

 この判例を読んだ私たちは、早速、行動を起こさなくてはいけません。
ベランダに私物を置いていたら移動・撤去すること。そして、排水口回りを清掃すること。万が一加害者になるリスクも想定して、火災保険に個人賠償責任補償特約が付帯されていることを確認すること。併せて補償を受けられる保険金額も確認すること(本件のように、1000万円以上の事故が起きることも想定しましょう)。

現在は、ゲリラ豪雨も多発するようになり、1時間当たりの雨量も従来のものさしでは図れなくなってきました。

ベランダは共用部でありながら、その部屋の住民しか立ち入れない、専用使用部です。他人には目の届かない所だからこそ、各人が高い意識をもって、整理整頓と清掃を心がけましょう。

備えあれば憂いなし。

東京地裁平成4年3月19日判決
[参考文献]
松尾弘『マンションの法の判例解説』15頁

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