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20話「暴力団が続々入居し、治安が悪化した札幌のマンション

高級と うたって信頼 公社だし 住み始めたら ヤクザマンション!

 今回の判例は、買主Xらにとっては大変お気の毒だったわけですが、事件としてみると、実にドラマのようなことが起きています。四コマ漫画では描き切れなかったことをこちらで補足します。本件はY(北海道住宅供給公社)の不祥事として新聞報道され、世間の注目も浴びました。おかげで、イメージの低下による悪影響を受けて、さらに資産価値が低下したわけですが。

 以前にも、値下げ販売が問題とされた裁判例を紹介し、バブル経済の最盛期からバブルの崩壊の時期に、その紛争が続発したことを述べました。今回判例もその一つです。
では、詳細をみていきます。

 本件住宅は、総戸数178戸の住戸からなる、札幌市中央区の分譲マンションです。Y(北海道住宅供給公社)は、平成3年9月から購入者の募集を始めましたが(販売価格は、3830万円~6993万円)、十分な応募者がなく、平成4年3月末までの成約戸数は178戸中4戸と振るいませんでした。
そこで、Yは、当初の販売価格から平均約1288万円引き下げた上で再募集を行いました。

 さらに、Yは、平成6年1月、既入居者及び新規購入者に対し、住戸の工事をサービスとして行うことを決め、入居者に対し一律100万円相当のサービス工事を実施しました。しかし、本サービス工事は、実際には、工事の施工を確認しないまま100万円を送金したり、工事を希望しない者に対しても100万円を送金したりするなど、実費補償の趣旨を離れた一律の値引きでした。

 また、Yは平成7年8月から、サービスの上限額を700万円に増額しましたが、基本的に新規購入者のみを対象としてサービスを実施し、平成8年2月には、個別の決裁により、700万円を超えるサービスを行うことを可能とし、さらに同年5月、上限額を1000万円に引き上げました(これらを以下「本件サービス」といいます)。

 Yは、平成8年4月から、Y自身が本件住戸の購入資金を貸し付ける公社割賦払制度を導入しました。同制度による本件の返済条件は、当初の10年間は、元金返済を据え置き、年率1%の利息のみを支払い、11年目以降は元金の返済に加えて年率4.2%の利息を支払い、35年以内で全額返済するというものでした。

 Yは、平成9年3月までの間に、178戸中172戸を販売しました。
本件サービスの実施が始まった平成7年8月当時の販売実績は104戸であり、それ以降のものは68戸です。Yは、分譲業務を複数の民間業者に委託していました。

 Yは、平成8年6月1日、本マンションについて信和建物に対して販売あっせん業務を委託しました。
信和建物は、従業員の丙川を担当者として販売あっせん業務を行っていましたが、丙川は、Yに対し、信和建物でも工事の施工が可能であるとして本件サービスによる現金振込先を信和建物の預金口座にするよう申し入れ、さらに同年6月中には、税務対策上必要であるとして、丙川が代表者を務める丁原なる会社の預金口座に変更するよう申し入れましたが、Yは、その理由を問いただすことなく、申入れに応じました。

しかし、丙川は、本件住宅の購入希望者に対して、本件サービスの金額を正しく説明しないまま、Yに対するサービス工事費用等の振込申込書を作成、提出させ、サービス工事費用等に充てられる目的でYから送金された金員の大部分を不正に領得していたものであり、後日、これが発覚し、詐欺罪により実刑判決を受けました。

 丙川は、ブラックリストに登載され、納税申告をしていない者であっても融資の審査を通るとか、所得を水増しして入居条件をクリアすれば、300万円単位の現金がすぐ手に入るなどと述べて購入希望者を勧誘し、虚偽の源泉徴収票等を用いて購入希望者に虚偽の修正申告をさせ、過大な収入を得た旨の所得証明書の発行を受けさせ、これを公社割賦払の申請書類とするなど、不正な手段を用いて本件住戸の購入をさせました。丙川のあっせんにより、またはそれを契機として、合計4名の暴力団関係者が、公社割賦払制度を利用して本件住戸を購入しました。

 本件住宅においては、平成8年の夏ころから、建物内にタバコの吸い殻を捨てたり、エレベーター内でたんを吐いたり、ルール無視の駐車をしたり、駐車場内で怒鳴り合ったり、路上にゴミを捨てたりするなど、風紀が乱れ、暴力団員風の男が何人も出入りする光景も見られるようになりました。

 平成9年初めころから、警察官が情報収集や入居者の動静確認のために頻繁に本件住宅を訪れるようになり、本件住宅内で入居者又はその関係者に対する逮捕がなされたこともありました。本訴提起時(平成9年11月7日)、5戸に暴力団関係者が入居していることが明らかとなっています。
また、平成10年9月時点における管理費等の滞納合計額は約1200万円に達しています。
 
 本判決で、Xらには、1世帯当たり220万円の賠償支払が認められたものの、イメージの低下により資産価値が下落し、その損失はとても220万円では補えません。転売も容易ではありません。そして、暴力団関係者や不良者が住み続けている以上は、安心して日常生活を送れません。

Yが公法人だから信用して購入した買い手も多かったことでしょう。まさか高級分譲マンションに暴力団関係者や不良者が多数入居するとは思わないでしょう。

Yは、マンションの分譲業務を民間業者に委託し、自らは、委託販売業者の調査監督を怠り、購入希望者の調査確認も怠っていました。つまり、丸投げしていたわけです。結果、あっせん業者の従業員である丙川による詐欺事件も、起こるべくして起こったと言っても過言ではありません。

 本判決は、マンションを分譲する地方住宅供給公社に対し、マンションを暴力団関係者や不良入居者に分譲することを回避する義務とその義務違反による損害賠償責任を認めた初めての判断事例です。

また、分譲後の販売業務委託があまりに杜撰だったばかりに暴力団員の入居が生じ、そこには詐欺事件も絡んでいたという、興味深い事例でした。

以前にも述べましたが、公法人・公的組織だからと言って確実に安心というわけではありません。

札幌地裁平成13年5月28日判決

[参考文献]
判例時報1791号120頁

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