—— 以下、翻訳 (インタビュー記事全文)

今日、3月21日、1990年ワールドカップ優勝メンバーであり、ドイツ代表歴代最多キャップ保持者でもあるローター・マテウス氏は、60歳の誕生日を迎える。 ドイツ『キッカー』誌のインタビューで、この多くの出来事に満ちた60年間を本人に振り返ってもらった。故郷ヘルツォーゲンアウラッハから、広大な世界へ。

マテウスさんは、子供の頃のことをどのくらい思い返しますか？

何度も思い返すよ。残念ながら両親は亡くなってしまったが、私は定期的にヘルツォーゲンアウラッハを訪れるからだ。古巣の1.FCヘルツォーゲンアウラッハとは非常に良い関係にあり、私は名誉キャプテンとして、サッカー場には私の名前が付けられ、ユースの活動をサポートしている。当時の選手とは2人しか接点がないが、40年経っても顔は知っている。懐かしい思い出だよ。

ヘルツォーゲンアウラッハはスポーツ用品メーカーのプーマの本拠地であり、あなたとは切っても切れない関係にあります。

信じられないような話だね。プーマのビル管理人の息子である私は、17歳でプーマのクラブであるボルシア・メンヒェングラッドバッハに入団した。それも、いまだに絆が続いている理由だ。

あなたの子供時代や青春時代は、どのように言い表せますか？

当時の他の多くの子供たちと同じだよ。バスケットコートやテニスコート、ソーシャルメディアはなかった。私の両親には、毎日のように新しいおもちゃを買ってもらえるほどの経済力もなかった。私のおもちゃといえば、サッカーだったのだ。宿題が終わると、私は外に出て、通りにいた子供たちと集合した。暗くなるまで遊んだね。そして誰も来ないときは、壁を使ってインステップ、アウトステップ、左、右と、よく練習したものだ。

クラブチームでプレーをし始めたのはいつですか？

私が9歳の時。当時、F、E、Dユースはなく、私はCユースのトレーニングに参加し、10歳でプレーが許されたが、14歳の選手たちと対戦することになり、私が最年少だった。私はいつもセンターフォワードとして最も多くのゴールを決めていた。私はBユースを飛び越えて、14歳でAユースに入り4年間を過ごした。17歳の時は、トップチームでも平行してプレーしていたよ。午前中にAユース、午後はトップチームといった具合にね。

この写真では、あなたがキッチンに座り、あなたのお母さんがドイツ代表のユニフォームにアイロンをかけています。

あれは1980年、ヨーロッパ選手権の後だったと思う。この家を建てたのは、60年代後半から70年代前半だったね。10歳だった私は、毎週土曜日の午前中にレンガを運んだり、手伝いをしたりしていた。それは、私や兄弟にとって、辛いものではなかった。お金を稼ぐことを早くから学んでいたのだ。新聞配達、プーマのサマーワーク、サッカー場でのドリンク販売。この写真には多くのことが表れている。私の勤勉な母は、すべて整理し、所定の位置に配置していた。母は私の心の拠り所であり、ファイターであり、お手本でもあったのだ。一方、父は朝になるとプーマの会社のドアの鍵を開け、そして夜になるとまた鍵をかけた。ヴュルツブルガー通りにある会社の隣に住んでいた。我々の住所は11番地で、プーマは13番地だった。

サッカーが自分をどう導いてくれるのだろうか、当時のあなたは考えていましたか？

いや、考えていなかったね。私は、代表選手になることを目指してメンヒェングラートバッハに移籍したわけではない。夢はブンデスリーガでプレーすることだった。私は、当時テレビでしか知らなかった世界に来て、自分が寝ていた布団にプリントされたクラブに来てしまったね。

今日、あなたのキャリアはどのような始まりでしたか？13歳のときに、最も近いNLZ (ドイツ サッカー連盟の公認クラブ) ですか？

さあ、どうだろうね。(バイエルンユースの本拠地) グリュンヴァルトでのトライアルでは、監督からいつも「君は体が小さい」「まだ時間が必要だ」と言われていた。それはクオリティではなく体格の問題で、だから私はバイエルンのユースでプレーすることは叶わなかった。

ボルシア(・メンヘングラードバッハ)の偉大な時代が終わったときに、あなたはボルシアに移籍しましたね。

この年、1979年にはUEFAカップでレッドスター・ベオグラードを相手に優勝している。祈るような気持ちでいたら、4週間後には、私もその一員になっていたね。少年時代の夢だ。緊張しながら向かい、ロッカールームではたくさんのものが目に入った。ピッチ上では、クリスティアン・クーリックや、ヴィニー・シェーファー、エヴァルト・リーネンなど、誰にも遠慮することなく、全力でプレーした。

ユップ・ハインケスは、あなたにとって初めてのプロの監督でしたね。

彼のアドバイスとベルティ・フォクツのアドバイスを受け、4日間のトライアル・トレーニングの最初の日に契約を結んだ。ユップがヘルツォーゲンアウラッハに来たのは、それ以前のことだった。午前中はAユースで2ゴール、午後はランデスリーガのフォーエンストラウス戦で2ゴールを決めた。それを見て、彼は納得したのだろう。彼は私をストライカーから守備的ミッドフィールダーにコンバートした。入団して1〜2年間は、ゲームメーカーの番犬のような役割をこなしていたね。

ハインケスの後、あなたは、ラテック、ベッケンバウアー、トラパットーニ、ヒッツフェルトの下でプレーしましたね。その中でも最も重要な監督は誰ですか？

幸運だったのは、適切な時期にクラブを選択できただけでなく、私の成熟度に合った監督に巡り合えたことだ。ユップ時代は、若い選手に頼らなければならないクラブで、彼自身も若手監督だった。彼は私に大きな信頼を寄せ、シェーファー、ヴォーラー、ダナーといった有名選手たちをベンチに座らせた。ユップは私を励ましてくれたが、時に厳しくもあった。いつも私の味方でいてくれたのだ。10代の頃に愚かなことをやらかし、決められた規律を守らなかった時でさえも。

他の監督たちはどうでしたか？

一人に絞るのは不公平だろう。ユップは育成者、ウド・ラテックは父親のような存在で、飴と鞭を使い分けていたね。私は素晴らしい監督ばかりに恵まれたよ。トラパットーニはイタリア時代の私にとって重要な存在であり、フランツ・ベッケンバウアーは代表監督として私に自信を与え、私の話に耳を傾け、私を起用してくれていた。

1984年のバイエルン、1988年のインテルへの移籍は、当時の意図的な考えがあっての決断だったのでしょうか？

毎年のようにオファーがあり、20歳か21歳の時にユベントス・トリノに移籍して、20倍の収入を得ることもできた。だが、お金が決め手ではなかった。そうでなければ、1984年にミュンヘンには行っていなかっただろう。ドイツからは3つのオファーがあったが、ボルシアからのオファーが一番高額で、次にバイエルン、そして1.FCケルンだった。ケルンは金額の積み増しも厭わないようだったが、その時には私は決断していた。グラードバッハでは、ポカール決勝でPKを外してしまうまでの約5年間、ファンには愛されていたね。

今となって考えると、どのクラブからのオファーを受けたいと思いますか？

1991年にレアル・マドリードが私の獲得を望み、私もこの移籍を望んでいた。私はインテルで多くのことを成し遂げ、ジュネーブではレアルのメンドーサ会長とも会った。2時間弱ですべて明らかになったね。契約条件、給与、移籍金1800万マルク（当時としては破格の金額）の支払いを希望していること。しかし、インテルとレアルの間では、チリ出身のストライカー、イヴァン・サモラーノを巡って騒動が起きていた。それが理由で、残念ながら、インテルはレアルと話せる状態ではなかった。

1984年にFCバイエルンに移籍した理由は？

私はタイトルを獲得したかった。そして、実際、FCバイエルンではそれを勝ち取ることができ、3年連続でドイツチャンピオンになることができた。また、バイエルンの選手となると、メンヒェングラートバッハの若手の時とは、代表チームでのファンからの反応は違っていたね。1984年以降、私は代表チームのレギュラー選手として活躍したが、これには、監督がユップ・デアヴァルからフランツ(・ベッケンバウアー)に変わったことも関係がある。

あなたのパーソナリティに最も影響を与えたのは、インテル・ミラノへの移籍でしたか？

そうだね。当時、間違いなく世界最高のリーグであり、そこでプレーするという興奮があった。イタリアのサッカー人気は高く、スタジアムは満員だった。ミュンヘンのオリンピア・シュタディオンでは、11月に1万2千人の観客の前でプレーしたこともあったが、サンシーロでは毎回7万人の観客の前でプレーしていた。 イタリア人のサッカーへの愛情、選手への崇拝は特別なものだったね。私の場合は、自分を主張することが重要だった。私は、アンディ・ブレーメやユルゲン・クリンスマン、ローマのルディ・フェラーやトーマス・ベルトルドのように、なんとかそれをやり切った。これは、1990年のワールドカップ優勝に重要な役割を果たしたと言える。毎週のように最高レベルの選手たちと戦うことができたのだからね。

今もイタリアに馴染みはありますか？

もちろんだ。「グランデ・ローター」というニックネームは、私の心に残っているよ。

あなたの「故郷」はどこですか？

私の故郷は世界中だ。少なくとも、私がプレーしたり監督したチームの土地ではそう感じるね。それと、一つだけはっきり言っておきたいことがあるのだが。

はい、お願いします。

私の監督時代の成功は、選手時代には及ばないと言われるが、そう簡単に断言できない。とはいえ、監督復帰には前向きだよ。どこにいても、悪い仕事をしたり、失敗したわけでもないからね。私はイスラエルで愛され、今でもウィーン、ザルツブルグ、ベオグラードにも足を運ぶ。人々は私のことをポジティブに覚えてくれているよ。サッカー選手として、私は世界中にその足跡を残し、DFL、FCバイエルン、プーマの親善大使として多くの場所を訪れている。アルゼンチンに行くと、ディエゴ・マラドーナと対戦したことで尊敬されることはあっても、憎まれることはない。かつて、彼は私のことをポジティブに語ってくれていたからね。

ヘルツォーゲンアウラッハ出身の国際人、というわけですね？

私はそれにサインできるね。サッカーは私に、世界を知るための扉を開いてくれたと言える。

ワールドカップ優勝チームのキャプテンとして知られていることも、それを手伝っているのでしょうね。

確かにきっとデメリットではないだろう。また、見た目も昔とさほど変わっていない。

栄光から落胆へ。1984年のポカール決勝 (グラードバッハ対バイエルン)...

あの日、もし私がPKを決めていたら、今でもグラードバッハのファンは私のことを愛し、裏切者の掛け声も上がらなかったことだろう。それまでは、フェンスの上で一緒にお祝いしていたね。それでも、この経験は私の助けになった。あのペナルティでは、多くの悪態や侮辱を受けただけでなく、勉強にもなったのだ。あのペナルティの記憶は、1990年のローマ (W杯決勝アルゼンチン戦) で、私の脳裏に蘇った。6年前のあの日、私は不調なうえ、肘打ちを受けていたため、正直、蹴りたくなかったのだ。だが、当時はユップ(・ハインケス監督)が、私に蹴らせると決めていた。そして、この1990年、私は新しい靴のせいで確信が持てなかったため、アンディ・ブレーメのもとへ向かった。

責任感から譲ったというわけですね？

誰かや何か妨げになるものがなければ、あのペナルティを蹴らない理由はなかっただろう。準々決勝のチェコスロバキア戦や、準決勝イングランド戦のPK戦でも得点していた。大きい新品の靴が理由だったのだ。ドイツ全体の成功を危うくしたくなかったし、1984年の時のように、不安な気持ちでスポットに向かった自分を責めたくもなかった。もし失敗していたら、今でも自分を許せなかっただろう。あの時、蹴らなかったことは、私のキャリアの中で最も賢い決断だったと言える。

1984年のポカール決勝と1999年のチャンピオンズリーグ決勝、もう一度やり直したいのはどちらですか？

チャンピオンズリーグで優勝したことがなくても、どちらの失望も受け入れることができる。意外に思われるかもしれないが、子供の頃からメンヒェングラートバッハとの関係があるため、私はポカール決勝を選ぶね。このタイトルを獲れていれば、グラードバッハとの関係が壊れることはなかっただろう。

先日、FCバイエルンのクラブ会員誌『51』で、グリーンキーパーの姿で写真をとりましたね。あなたにとって、バイエルンとはどのような存在ですか？

私はそこで12年間プレーした。まさに家族だね。たとえインテルでのタイトルのほうがより感動的であったとしても、クラブでの成功を最も数多く一緒に祝ってきたからだ。今でもバイエルンは、『スカイ』での仕事や、友人、ミュンヘンに住む娘など、多くの接点があるね。

ヘーネスは以前、あなたがバイエルンでグリーンキーパーになることはない、と述べていましたね？

ウリはライオンが自分の子供を守るように自分のクラブを守る。後に謝罪してきたが、気にすることはない。その写真は、ウリの発案で撮ったものだよ。私たちは、コロナの困難な時代に笑顔になれるものが欲しかったのだが、二人ともずっと前から (和解しており、) これはできるようになっていた。

ニューヨークでの挑戦はいかがでしたか？

もし思い通りになっていたなら、最高の時間になっていたと思うよ。

それはなぜですか？

ボラ・ミルティノヴィッチは、当時のメトロスターズの監督で、次のように言ってくれた。「なあ、ローター、もしバイエルンを辞めるなら、ぜひ私のところに来てくれ！」とね。チャーリー・スティリターノは、ボラのようにサッカー大好きなマネージャーだった。私はミュンヘンではすべてを手に入れ、ニューヨークで、フランツ・ベッケンバウアーのように、39歳で新たな人生経験を積むことも考えたのだ。だが、私がメトロスターズと契約した3週間後には、彼ら二人は解任されてしまった。

この移籍を解消したいと思いましたか？

いや、それはない。しかしだ、彼らの後任はまだ知識は未熟で、情熱もなく、私のことも一切知らなかった。彼らを私は温かく見守ることはできなかったね。ボラは、マイアミでのアウェー戦の後は、2日間余分にのんびり滞在してもいいと約束してくれたが、彼の後任監督は、私がまるで18歳の若者かのようにひたすら走り回らせたね。楽しさはなかったよ。とはいえ、素晴らしい人々や、レストランに出会うことはできたね。

後悔していますか？

いやいや、そんなことはない！後悔といえば、私がブラジルのパラナエンセの監督を辞めた時だけだ。それが今でも心に引っかかっている。素晴らしいクラブで、素直な若者たち。私がフランツ・ベッケンバウアーの言葉に耳を傾けたように、彼らも同じく、私の言うことを熱心に聞いてくれた。2ヶ月後、私はプライベートな理由から、彼らと離れざるを得なかったのだ。当時のプライベートな家族のため、そしてサッカーの家族のためだった。私自身、うまく振る舞うことができず、本来の私ではなかったね。

これまでブンデスリーガで監督はできていませんが、折り合いは付いたのでしょうか？

もちろんだ。私は、仕事でもプライベートでも、決断を受け入れる人間だ。やりたい思いはあったが、タイミングが悪かったというか、当時、クラブとは合わなかった。私に恨む気持ちはないし、それどころか、監督としてリーグ優勝を経験し、若い選手を発掘し、ハンガリー代表監督としてドイツを倒した。どの仕事も刺激的だった。例えばイスラエルでは、経済危機に見舞われ、オーナーはシーズン終了の5週間前にクラブを事実上売却してしまった。突然、選手たちの給与が支払われなくなったのだ。あるいはラピッド・ウィーン。素晴らしいクラブだが、私が就任したときには壊滅的な状態だった。

ドイツでは代表監督を探しています。 その候補として、あなたの名前がすでに挙がっていますね。

ヨアヒム・レーヴは賢い決断をしたね。 彼は欧州選手権まで自由な判断ができる。私はDFBから打診があれば、それに耳を傾けようと思う。私が準備できるかどうかは全く別の問題だが、私は素晴らしい生活を送っており（隣のテーブルにいる息子ミラン君を指して）、サッカーと接点もあり、まだ自分のための時間もたくさんある。また、プレッシャーやストレスもなくなってきた。それは「生活の質」と呼ばれるものだね。

ドイツでの有名人の扱われ方をよく批判されていますね。

国外に向けてドイツのポジティブな面を表現できる人は重要だ。ボリス・ベッカーや、フランツ・ベッケンバウアーだね。人は誰でも間違いを犯すが、私たちドイツ人は有名人が逮捕されれば喜ぶ。こんな妬みの社会は散々だ。セルビアやハンガリーなど、何かを成し遂げた人たちをこれほどまでに妬ましく思う国は、世界のどこにもない。私は何だって快く認めたいね。それが、40年前から持つ私の考えだ。

コロナによって、人々の行動は何か変化しましたか？

おそらくね。とはいえ、今はワクチンに対する嫉妬が出てきた。私は人間関係を通じていつでも接種できるが、批判の嵐は避けたいので待っているところだ。

マテウスのモノマネには笑えますか？

以前はやや気に障っていたね。グリーンキーパーの写真は、私が自分のことも笑えることを示している。フランケン地方出身の私は、正しいドイツ語で発音できない綴りがある。しかし、それは他の方言でも同じだ。笑いにする必要があるのだろうか？

あなた自身、丸くなったということですか？

もちろん、年を重ねるごとに余裕が出てきたね。私は元気で、幸せで、自分自身に平穏を感じているよ。そして、プライベートでは人を助けることが好きだ。

かつてのプロサッカー選手で、友人は何人いますか？

フランツ・ベッケンバウアー、アンディ・ブレーメ、アルミン・フェー。アンディは、同じ町に住んでいる。フランツは、2週に一度くらいのペースで訪れるよ。アルミンは、アウグスブルクに住んでいるため、もっと頻繁に立ち寄るね。

▼元記事
https://www.kicker.de/lothar-matthaeus-im-interview-das-war-nicht-mein-charakter-800278/artikel