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中国版S1・S2? ESRS? したたかな戦略

上海・深圳・北京という、中国の主要証券取引所が、サスティナビリティ情報開示ルールのドラフトを公表、コンサルテーションを実施しています。

noteでも繰り返しご案内しているように、昨年ISSBがIFRS S1・S2基準をリリースして以降、各国・地域の規制当局が、それぞれの事情を反映させたS1・S2基準を策定してきています。

サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するWG 第1回会合資料より

日本版は、昨年度末日にSSBJが公開したことが、記憶に新しいところ。

上記に記載がありませんが、香港政府も2024年度から段階的に導入開始し、2026年度から完全実施するとしています。

マレーシアは、2025年から、市場参加者グループ毎及び基準毎に時期をずらした救済措置付ISSB基準を段階的に導入して、2029年までに導入完了予定。

アジアの金融ハブのみならず、排出権取引のハブも狙っているシンガポールは、さらにその先を行っています。

上場企業は、2025年にスコープ1およびスコープ2、2026年にはスコープ3の排出量の報告が追加され、大規模非上場企業は、2029年以降にスコープ3の報告を開始される予定。この要件は定期的に見直され、大企業の初期の経験に基づいて小規模企業への拡大が検討される予定。

この政策により、シンガポールはアジアでISSB基準に準拠した気候関連開示を義務付ける先駆けとなります。

ですので、中国の主要証券取引所の今回の発表は、必ずしも早いと言うことは無く、逆に「ようやくですか?」という感があるかもしれません。

ですが、提案されているガイドラインは、ISSB基準の範囲に留まりません。

ISSB基準は、テーマ別の開示基準は現在のところS2の気候関連開示のみであるところ、当ガイドラインは、社会、ガバナンスに関する情報を開示しなければならないのです。

これには、生物多様性、生態系、循環型経済、エネルギー消費、サプライチェーンの安全性、農村部の活性化、汚職や贈収賄の防止と摘発に関する情報が含まれるとのこと。

さらに重要なのは、ダブルマテリアリティを採用している点です。

つまり、生物多様性や人権・人的資本は今後の開発アジェンダとしている、シングルマテリアリティ採用のISSB基準よりも、CSRDにおける開示ルールを定めるESRSに極めて近しいルールとなっているのです。

今回の情報に接したときに、真っ先に思いました。
「CBAM対応じゃないのか?」

ご存知のように、今年1月から移行期間が開始しており、対象セクターの事業者は報告義務が課せられています。4半期毎に報告しなければなりませんので相当の人的負荷が発生しますし、2年後に本格導入となれば、リアルな費用負担が重くのしかかることになります。

ですので、中国やインドは、WTO提訴も辞さないとしていました。

ただ、法的手段に訴えても、時間がかかるでしょうし、勝てる見込みが必ずしもあるとは限らない。その間、企業には負荷がかかり続ける。

であれば、他方で、CBAMの対象外と認められるような「EU-ETS同等の排出削減措置」を導入しておくのがベターと判断したのではないでしょうか。

これは、私の勝手な憶測ですが、根拠の無いものではありません。

中国は、全国大での排出権取引市場を有していますが、導入に当たってはEUが、それこそ手取り足取り支援を行いました。

この支援内容には、資金や技術のみでなく、その先には、スイスのETS同様の、EU-ETSとCN-ETSのリンケージも予定されているからです。

CBAMがカーボンリーケージを防ぐ施策であることを考慮すると、CN-ETSと連携しておけば、リーケージという概念は発生しません。

なお、ドイツ自動車工業会は、EUによる中国製EV輸入への追加関税賦課は貿易戦争を引き起こしドイツの雇用を脅かす可能性があるとして、反対の姿勢を示していることから、今回のルール策定に関与しているかもです。

欧州の立法手続きにおいて、根回し、予定調和はありません。
今後も、ウォッチしていく必要がありそうです。


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